↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第二章―引き寄せられるモノ―
28/74

第二章 ―4―

現代の利便さ――車や飛行機などの移動手段に慣れている私にとって、外国にいくのに何日も掛かる感覚はあまりない。

しかし、この世界の移動手段は主に徒歩、早くて馬であって、私の感覚とは違って国境を超えるのにも数日かかる。更に、妖に襲われる危険もあるというのだから、怖いものだ。

蓮葉は清宝と活発に交流している国らしいので、食事も食材も自分達で用意しなければならないような簡易的な宿が適度に存在するのがまだ救いだった。しかもしっかり警備もついているし、寝る場所があるだけましだ。これで野宿なんて言われた日には耐えられる気がしない。


「にしても、燈樺殿も随分と無茶をいうよな。夕澄が勉強したいっていったからって、直に能力者に会う話には普通ならないだろ」

「ですよね、やっぱりそうですよね!」


最初に泊まった宿の食事処で夕食を取りながら談笑していると、雅人がふいに私の蓮葉行きについての発言をした。私はそれに、ここぞとばかりに便乗する。


「ですが、燈樺様が何の利もないことをするとは思えません」


常和が横からそう口を挿むと、雅人もそうだよなぁとそれに不可解だという顔は崩さずにそれに同意する。

只の凡人で居候である私を蓮葉に向かわせることが何の利になるのだろうと思うが、二人は燈樺を信用している様子で、口にすることは出来なかった。

しかし、考えてみれば只の凡人で居候である私にそうまでして勉強させてくれる理由がわからない。何も知らない私がついて行っても邪魔になるだけだろうし、役に立たない人間に学を付けても、清宝に利点はないだろう。ただ書物等を読む位はさせてくれるかもしれないが、手間をかけてまで勉強させてくれるとも思えない。

そう考えるとこの状況はとても可笑しいものに思えるし、何か他に理由がある、と考えた方が余程自然なような気がした。しかし、私に何が出来るというのかと思う。


「まぁ、追々わかることだろう。それに、実際に会ってわかることも確かにある。聖なる貴族がどういう家で、どういう役割を担っているのかも、能力者のことも、自分の目で見て感じた方が伝え聞くよりはずっといい筈だ」

「それは、そうですけど。……でもそういうなら、清宝の聖なる貴族が一番、近いんじゃないですか? 燈樺さんは九重家の人、しかも直系だって言ってたし、そのほうが都合もつけやすそうですけど」


雅人の言葉に疑問を投げかけると、雅人だけではなく常和も苦笑した。


「九重は少し特殊な家で、あまり外部の人間を立ち入らせない。ましてや能力者には会えないだろうな。九重直系の家訓で何人か城についているのも奇跡だろう」

「閉鎖的、ということですか? でもどうして、能力者に会えないんですか?」

「九重の能力者は、国が守るべき至宝だと呼ばれていて、絶対に守らなければいけないからだという話だ。昔はその能力をいいように政治に利用され多くの人間が命を落としたそうだし、より慎重になるのは当然なんだろうが」

「至宝なのに、どうして利用なんて?」

「そういうのに都合がいい能力だったことと、その重要性を理解できない人間が多数いた。ということだな」


私は九重家の能力者がどんな能力を持っているのかは知らない。それでも、政治利用されやすい能力だというのなら、確かに警戒するのも当たり前だと言えるかもしれない。


「それで、九重は無理なんですね」

「最も、別の理由があるとしたら、そもそも九重では意味がないのかもしれませんが」


常和はそういってから、席を立った。

先に休むのか、と思ったが、外に出てくると言い残していってしまった。


「俺も、食休みに少し風に当たってくる。夕澄は先に寝ていてくれ。俺達がいる限り、妖のことは心配しなくても大丈夫だからな」

「あ、はい。……じゃあ、お先に」


食事処を後にした雅人を見送って、私は部屋に向かった。

二階建ての宿の部屋は狭く、本当に寝るスペースだけといった位だったが、本当に寝るだけだから十分だ。それに、広すぎても落ち着かない。

ただ少し埃っぽいなと思い、換気のために窓を開ける。窓は、木枠の格子が嵌められていた。その間を縫って風が吹き込んでくる。


「そういえば今って、何月なんだろう」


風に当てられて、ふいに、そんなことを考える。

月の数え方が現代に一致するとは限らない。現在日本で使われている暦は外国で作られたものだったはずだから、一致している可能性のほうが低いかもしれない。


「少なくとも冬や……秋では、ないよね」


青々と生い茂った木々達は、秋や冬では有り得ない景色だ。それに、風だってそれほど冷たいともいえない。

とすれば春、もしくは夏だろうが、夏と言うほど暑い訳でもない。ただ、清宝は雪が多く積もる北方に位置した国らしいから、気温はそれほど高くならないかもしれない。


「そのうち、聞いてみよう」


季節はいずれ肌で感じることになるだろうが、暦くらいは頭に入れておいたほうが何かと便利だろう。常和か雅人に聞けば答えてくれるはずだ。せめて、私に理解できる暦であってほしい。

窓を閉めて、用意されている布団に横になる。布団があることは驚きだったが、なんでも、行商人達はこういう宿をよく使うので、彼等によって清掃なども行き届いているために常置できるらしい。どうりで、宿事態も想像よりも綺麗だったはずだ。

明日も早いから、早く寝なければならない。目を閉じると、一日中馬車に揺られて疲れていた体が布団に沈み込んでいくような心地がして、意識が遠くなっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=972115331&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。