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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第二章―引き寄せられるモノ―
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第二章 ―1―

化け猫の事件からすでに二週間がたっていた。爪でつけられた首の傷も既に瘡蓋になり治りかけているが、事件のほとぼりはまだ冷めず、未だに城内が騒がしい日々が続いていた。私が蒼龍姫だという噂も相変わらず城内を賑わせていた。手のひらを返したように私のことを急に敬い始めた人間も多くいる。最近までずっと私の悪口をいっていた人間の顔もちらほら見えたし、そんな態度は許せなかったが、それでもその噂が悪口を減らした原因でもある以上、あまり文句をいうこともできない。

もしも、私が平凡な普通の人間だということが分かった時、また彼等は手のひらを返したように私を罵るのだろうか。騙したな、と喚く姿がありありと目に浮かぶ。それが現実になるのは恐ろしいが、それでも私は、自分が平凡な普通の人間だと誰かに言ってほしいと思うようになっていた。私を敬う態度を誰かがする度に、私という存在が消されていくようなそんな心地がするのだ。

だからこそ私と今まで通り接してくれる常和や煉華のような存在がとても有難いと思う。


そんな日々を過ごしていたある日、私は急に志輝に呼び出されて謁見の間にいた。

いつも通り彼の隣には燈樺が座っている。王、そして宰相代理という役職からか彼等はいつも忙しく、この世界にきてまだ数回しかこうして直接対面したことはない。慣れていないのもあるかもしれないが、私は未だに彼等と会うときには緊張してしまう。志輝も燈樺もそれほどきつい印象は受けないから怖いと感じたことはない。それでも、二人の人柄がどうであれ、やはりこの立場の人間に直接会うというのが緊張する要因の一つにはなっていると思う。


呼び出された理由は私が座った後直ぐに志輝が話してくれた。

化け猫の事件のそもそもの原因は結界が弱まっていることにある。

あの事件はそもそも、結界が薄くなったことによって化け猫が城下に通常より易々と侵入できたことで起こったとも言えるのだという。

この城の人々も結界が薄くなっていることには気付いていて、私がくる少し前から妖が侵入しないように警戒したり、強い妖の討伐のために街の外を見回ったりはしていたらしい。

しかし私が化け猫に襲われたことでその対策もいよいよ限界だということになり、根本的にどうにかしなければという空気になった。つまり、結界を元の状態にしなければならない。

本当は、結界の不具合は一時的なものなのかもしれないと皆動けずにいたらしい。結界を張っている人物は他の国――蓮葉(れんよう)という国の人間であり重要人物。あまりうるさく言うと国家間の問題に発展しかねないという事情があり、結界の不具合のことを言うのは出来れば避けたいことなのだという。だが被害がでてしまって、そうもいっていられなくなってしまった。

要するに結界の不具合の原因を確かめるため、つまり結界を張っている人物に会うために使者が出されることになったのだ。


「その方は緑姫様と呼ばれている、とても高貴な方なんだ」

「緑姫様、という方のことなら、化け猫の住処にいるときに朔耶君の妹に少し話を聞きました。確か神の力を継ぐ一族の方なのだとか。正直なところ、私はよくわかっていないんですが」

「なんだ、そうなのか。ただその説明は正しいが少し足りないな。緑姫様が神の力を継ぐ一族の一人というよりは、神の力を継ぐと言われる理由がそもそも緑姫様のお力なんだ」


神の力を継ぐ一族、それ故に聖なる貴族と呼ばれているその一族には、緑姫に限らず、人間ではあり得ないような力を持っている、と志輝は言う。

そしてその能力は現れ方こそことなるものの、代々一人にしかあらわれないという。そしてその人々はそれぞれの一族でもっとも神に近い者とされる。

緑姫の場合はその能力が結界であり、そもそも結界がなければ一族は聖なる貴族とは呼ばれないのだ。

聖なる貴族は王と同等、もしくはそれ以上の地位を持つ重要な一族なのだという。


「ちなみにな、ここにいる燈樺の家、つまり九重家も聖なる貴族なんだ。瞳が紅いだろう?それが証拠だ。一族はそれぞれすぐわかるような身体的特徴をもっていて、九重家の場合はそれは瞳なんだ」

「それで、私がその瞳のことを知らなかったのがおかしかったんですね。……でも、九重家も王と同等かそれ以上の地位なんですよね?」

「ああ……燈樺も煉華もここで働いているというのは、聖なる貴族では普通はあり得ないことなんだがな。こいつの家は少し事情が特殊なんだ」


苦笑して志輝が燈樺を見ると、それまで何も言わなかった燈樺がそこで口を開いた。


「私の家は代々、直系のものは王に仕えるという家訓がありまして」

「そんな家訓があるんですか?」

「ええ。しかし本来の地位は変わらないのですよ。ここで働いている時には私は官吏、煉華は妖浄士の身分として王に仕えている、それだけのことです」


それだけだと燈樺はいうが、それは重大なことなのではないかと思う。しかし、そうあるのには理由があるのだろうと思い深くは聞けなかった。なかなか私には理解できないような事情がこの世界にはあるようだ。

燈樺はここで働いている限りは身分はその地位に縛られるといい、私にもその身分で扱って欲しいといった。戸惑いはするが、私は頷いた。正直なところ燈樺は宰相代理として、仮に聖なる貴族の直系でなかったとしても高い地位を持っている。煉華も妖浄士という役職についている以上そう低い身分ではない。どちらにしても私の態度は変わらないのだ。


「まあ、とにかくだな。その高い身分を持つ方に会いに行かなければならないんだ」

「それが大変なことだというのは良くわかりましたけど……私にも何か関係があるのですか?」


煉華と常和がいなくなって護衛が出来なくなるだとか、そんなものだろうと思って私はそういった。そんな私に志輝はにっこりと、不自然なほど清々しい笑顔を浮かべる。なんだか嫌な予感がしたが、逃げられるはずもなく。


「その使者の一人を夕澄にお願いしたいと思う」


爆弾発言を落とされ私は言葉を失った。


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