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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第一章―暗闇に輝く瞳―
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第一章 ―23― 

「本当に、あの処分で良かったんですか? 陛下。かなり良くない前例になりますが」


夕澄が部屋に戻り二人きりになった謁見の間。

そこで燈樺が落とした問いかけに、俺は今更何を、と返した。


「お前が提案した妥協案だろうが。今人材を失うのは惜しい。朔耶には素質があるから、この後の事態に備えておく方がいいだろう、と言ったのはお前だぞ」

「ええ、そうですが。色々なことを天秤にかけての判断ですよ。良くない前例なのは間違いないですが、今はこれから起こることに備えておくべきですからね。妖浄士の素質がある者を見つけるのは大変ですから」


確かに良くない前例を作ったことは自覚しているがそれをお前が言うか、と口にしそうになったが、なんとか堪える。

ここで彼にあたったところで、表上、この提案を持ち出したのは俺であり、燈樺はそれを諌めた側だ。だとすると、この選択に不満が出る場合の矛先は俺だ。燈樺にくる批判は精々、非道だとかなんとかそういう類だろう。それはそれで申し訳ないとは思うが。彼とて仕事のひとつとして俺を諌めているし、実際、職務上というか、こういう憎まれ役に回るのはいつも彼だ。


「それに、最初から罰するつもりはなかったでしょう? 貴方は。だからこそ私も妥協案を口にしたんです。でもなければ如何に今国が人材不足で彼が素質があるといえ、そのような前例はつくりませんよ」


こういう時貴方は頑固ですからね、と見せつけるように溜息をつかれると反論の余地もない。確かにそういうつもりだった。

責任は我々にもあるというのは、別に方便ではなく純粋にそう思っていた。

結界が薄くなっているのは前からわかっていたというのに対応を取らなかった落ち度。そして、孤児が一人攫われてしまったのに対応が遅れた落ち度。そもそも孤児施設を襲わせてしまった落ち度というものもある。

民を危険にさらした責任は確かにこちらにあるのだ。

しかし、どういう風に収めればいいかと考えていた所に燈樺が出してきたのが件の妥協案だった。


夕澄はどう思っているかわからないが、一から妖浄士を目指しなおすというのは決して楽とは言えないし、甘い処分ではない。

妖浄士になるまでにはある程度過程が存在する。

本物の妖浄士は少数精鋭のため人数は少ないが、そこに至るまでの妖浄士見習いは人数もかなり多く、階級も存在するのだ。実力等に応じて階級が上がっていき、最終的に妖浄士になることができる。

そもそも妖浄士は武官では最高位にあたる。大雑把にいった場合で、その中でも位は存在するが。この国では妖浄士は軍を兼任しているから、役職も軍のものにならっている。妖浄士見習い達は妖浄士になるために地道に位を挙げていくしかない。

朔耶は結構高位にいた。気が扱えるだけでも貴重だが、彼は武の才能がある。成果もそれなりにあげていた。それを一からやり直すというのだから、これはむしろ重い罰なのだ。

資格を剥奪しなかった、というのがせめてもの温情、とこの場合はいうのだろうか。しかし、大変だというのには代わりはない。

この妥協案は、それでも、色々な所から不満が出ないぎりぎりの案なのだ。故に罰は重い。

それでも燈樺が俺の意を汲んで提案してくれなければ、本当に資格を剥奪するしかなかったのだ。後は彼の努力と気力にかけるしかないだろう。元々早い出世だったというし、それに期待するしかないなと溜息をついた。


「そういえば陛下。夕澄様に対する嫌がらせの件ですが」


この話はこれで終わりというように、燈樺が別の話題を持ち出す。

それは気になっていたことであり、報告を待っていたことでもある。

随分前から夕澄に対する悪口が横行しているのは知っていた。彼女は賓客だから本来は処罰ものなのだが、下手に手をだすと彼女の立場を余計に悪くしかねないという懸念があり手出しできなかった。人数も多かったし、まとめての処分は現実的ではない。

なんとか対処を考えながら、彼女の精神が持ってくれるよう祈っていたのだが、どうも最近になって直接手を出す人間が出てきたのだ。

手が届かないばかりに彼女には辛い思いをさせてしまっていたが、実害がでてきた以上、彼女には悪いがいい口実が出来たともいえる。

どうなった、と彼に尋ねると、一枚の紙を差し出された。


「夕澄様に手を出していた女官や武官、文官の一覧になります」

「……多いな。だが、これくらいなら」

「すでに担当の部署に回して対応中です」


そうかと返すと、ある程度の見せしめとしての役もしてくれるでしょうと燈樺は言う。人が減るのは痛いが、罪人を野放しにしておくわけにもいかない。それにこれで夕澄に手を出したり悪口を言う人間も少しは減ってくれるだろう。


「そういえば……燈樺、蒼龍姫の件は調べがつきそうか」

「その件ですが、彼女が蒼龍姫かどうか調べるためにいい方法がありますよ」


朔耶の言葉はずっと気になっていた。伝承上の存在である蒼龍姫。事実だとすれば、彼女はこの国――世界にとって、非常に重要な存在だということになる。

だからこそ、夕澄が本当に蒼龍姫なのかはっきりさせておきたい。

そのために燈樺はある提案を持ちかける。俺は、その提案に頷くしかなかった。


「……そうだな。それしかない。それ以外に確かめる方法はないな」


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