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魔女の呪いと銀色の王女  作者: 彩葉詠子
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三章:呪い

 泣きつかれたリラメイアはそのまま眠ってしまった。


「きっと気をずっと張ってたんでしょうね。この森にひとりで入るなんて、精霊の加護があっても狂気の沙汰よ」


 リラメイアをベッドに運びに行ったオルスと一緒に部屋を出た、魔女の娘、フィーチェが戻ってくるなり言う。その視線はナリアルに向けられている。


「なんで俺に言うんだ」

「お前がふてくされて、リラメイアを睨んでいるのはみんな気づいているよ」


 シュリウスに言われたナリアルはぐっと詰まる。だが、すぐに身を乗り出した。


「俺はシュリウス兄さんやオルス兄さんのように、物分りのいい奴じゃあない。知ってるだろう。父親がどんなに狂ってようが、あいつが生まれたから俺たちは捨てられたんだ。殺されかけたんだろ? そう易々と、はいそうですか、と思えるわけない」

「お前がそう思うのは構わないけど。あの子に危害は加えるなよ」

「なんで妹だって思えるんだよ!」

「お前より記憶があるからかな」


 オルスとナリアルが口論している。

 オルスは淡々としているが、懐に入れたものには優しい。きっと記憶が残っている妹の存在は、オルスにとってはしっかりと家族なのだろう。しかしナリアルにそれはない。ナリアルにとっては他人なのかもしれない。

 シュリウスは身のうちを走る焦燥を、まんじりと、感じる。

 この十五年、ずっと考えてきた。いろんな想像をしてきた。

 父をどうすれば良いのか。母はどうなっているのか。妹は、国はどうなっているのか。自分たちはどうすれば良いのか。

 今この現状。どうしていけばいいのか?


 三者三様の様子を魔女は楽しそうに見ている。

 そんな魔女の様子を、フィーチェは苦い笑顔で見ていた。



  ****



 リラメイアが起きてから更に数日が過ぎた。

 その間にリラメイアは、シュリウス、オルスと多くの話をした。

 狂う父の凶行を。亡くなった母の憔悴を。国のことを。

 王城を出てからの生活を。この魔女の家での生活を。


 けれどナリアルとはほとんど話せていない。

 きっと自分を憎んでいると思っていた三人のうち、二人がそんなことないと言ってくれた。それ自体が奇跡なのだ、と、リラメイアはそれを受け入れていた。

 しかし受け入れることと心はけして相容れない。なまじ上の兄二人がリラメイアを憎んでいないと言ってくれたからこそ、リラメイアの心にはナリアルに憎まれることの悲しみがあった。

 だから。


「リラメイア」


 声をかけられたことが、飛び跳ねるほどうれしかった。


「はい、ナリアルお兄様!」

「……」


 庭でのことだ。自ら進んで庭の掃除をしているリラメイアに声をかけたのは、なぜか屋根の上に腰をかけているナリアルだった。その存在には全然気づいていなかったが、そんなことよりも声をかけられたことが嬉しくて、どうでもよかった。


「……」

「何かご用でしょうか?」

「……まあ。用がなきゃ、声なんてかけないし」

「で、ですよね」


 怒ったように呻くナリアルの言葉を聞き漏らすまいと、リラメイアは必死だった。せめて不快な思いはさせたくなかった。

 しかしナリアルはそれからしばらく沈黙した。リラメイアは箒を持ったまま立ち尽くし、ナリアルの言葉を待っている。


「……頼みがある」

「はい! 私にできることならなんでも!」


 ようやく続いたナリアルの言葉。

 それが頼みであることが、リラメイアの心を浮き立たせる。


「あっちの」


 指さすのは森の奥。


「泉の横に……白百合が咲いている。三本、取ってきてほしい。……魔女が好きな花だから」


 リラメイアが冷静であれば。

 ナリアルが冷静であれば。

 きっとこうはならなかったのだろう。

 浮かれたリラメイアはそれを快諾し、ナリアルはその姿を見送ったあと泣きそうな顔をし、







「リラメイア!?」


 三本しかなかった白百合を手折ってすぐに、フィーチェが現れた。

 今まで見たことないほどあせった顔で、リラメイアの存在を認識するや、悲嘆にくれた声で彼女の名を呼んだ。

 リラメイアの背筋が凍る。


 白百合が三本。リラメイアの腕の中で枯れた。

 フィーチェが悲鳴をあげる。


「オルス!!」


 家の方向で、黒い鳥が飛び立った。

 崩れ落ちたフィーチェを、おもむろに現れた魔女が抱える。


「呪いは成った」

「のろい」

「リラメイア、なぜ白百合を?」

「ナリアルお兄様に……頼まれて……」


 魔女は盛大なため息を吐く。

 それにリラメイアはびくりと震えた。


「その白百合には、シュリウスたち三人にかかった魔女の森の呪いを転化していた。その白百合を手折ったことで、呪いはシュリウスたちに戻り、成ってしまったんだよ。魔女の森の呪いは、男たちを違う生き物に変貌させる。シュリウスたちで言えば、カラスだ」


 カラス。

 先ほど家の方角から飛び立ったのは黒い鳥ではなかったか。その数は、三匹ではなかったか。


「三人はカラスになった」


 せっかく、生きていたのに。



  ****



「何年になるかは分からない。それでも、その声を犠牲にするなら、いつかは三人は人に戻る。どうする?」


 魔女は笑って言った。

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