神殿
「黙らないと殺す」
皆さん、こんにちは。
きなり物騒ですが、仕方ありません。私たちの目の前に居るこの男が原因です。容姿の説明なんかは面倒なのでしません。と言うかしたくありません。強いて言うなら背が高いです。それだけです。
この街に滞在して二ヶ月。
そろそろ次の街へ向かおうと思い、ここでの仕事は今日で最後にしようと思ってギルドにてクエストを探している最中のこと。声を掛けられ振り向いて見ると男が居た。その男はこちらが聞いても居ないのにで話しかけた理由を説明し始めた。その話の中で、私のことが出てきた。
最近少し噂になっているらしい。
小さな龍を連れた黒髪黒目の冒険者がいると。
それで何を思ったのか、今日のクエストを一緒にやって欲しいとか何とか言い出した。クエストは何人で受けても良いことになっている。その分、各々の取り分は減るけど、複数じゃないと難しいクエストもあるからだけど、私たちには関係無い。
「…………へ?」
「装備・遮音・展開」
仕事を探す気が失せてしまい、結局仕事は何も受けずに次の街に向かうことにした。ギルドを出て結界を解き、宿屋で荷物を回収して女将さんに挨拶をした後、食料を買って街を後にした。
テイルはいつも通り、腕の中ですやすやと寝息を立てている。
本当によく寝る子だね。ちゃんと運動はしてるから、太ることはないと思うけど……。
順調に大きくなっているテイルを見て、そんなことを思う。あれから目立った成長はしていないけど三~五㎝位大きくなった。
まだ腕の中に収まるから大丈夫。
街道を南に歩きながら、次の街は何処に有るかな、と思いながらのんびり歩くこと一時間。テイルが目を覚ましたから状況説明。
途中で魔法の練習をしながら、襲ってくる魔物を倒しながら進んでいく。
今は、火・水・氷・風の四つのミックスを練習中。実戦で使うにはまだまだだし、そんな余裕も無いからもっと頑張らないといけないけど、今の時点ではこれが精一杯。
「テイルは大きくなったら、火を吹いたり出来るようになるの?」
「ガウ! ガウガウ……ガーーウーー!!」
――――ボオォッ。
元気に答えた後、見ててとでも意言うように自分をちょいちょいと指さすテイル。何をするのか疑問に思いながら見ていると口を大きく開けて、まだ小さいけど私の火よりは大きな黒い火を吹いた。
黒いのは、多分属性が関係しているんだと思う。テイルはシャドー・ドラゴンの子供だから属性は闇。其れが色になって、火に表れたのかも知れない。
だったら水龍は蒼い火なのかな?
でも、それよりも、なによりも。
「凄いよ、テイル!」
テイルの成長が嬉しかった。一緒に強くなってるんだって思えるから。
テイルを抱き締めると、嬉しそうに声を上げた。
負けないように、私も力を付けていかないと。頑張るからね。
「これからも、一緒に強くなって行こうね!」
「ガウ!」
新しく魔法が使えるようになることよりも、何よりもテイルの成長が本当に嬉しい。初めはこの世界に来てもずっと一人で生きていくと思っていたけど、すぐにテイルと会うことができた。最初はずっと警戒されてたけど、ご飯は要求してきてから思い出すと思わず笑みが零れる。それでも、少しずつ距離を近づけてきてくれて、仲間になってくれた。
今では、寝る時もご飯の時もお風呂の時も戦う時も一緒のテイルは、いつの間にか火を吹けるようになっていた。
ひと通り騒いだ後、歩みを再開する。
それからもこれまでと同じように魔法と剣の練習をしながら進み、途中で魔物が出てきたら一緒に戦う。次の街までは多分、一~二週間位かかるかも知れない。
急ぐ必要は無いけど……街道、外れてみようかな? ミレインと会った森みたいに、意外な場所があるかも知れないし。
「テイル、街道それてみよっか?」
「ガウ?」
「決まった道じゃなくて、自分たちで決めた道を歩いてみない? そしたら、もっと面白い発見が有るかもしれないよ?」
「ガウ、ガウ!」
「ありがと。それじゃ、行こ!」
「ガウ!」
真っ直ぐ伸びている街道を、横にそれて歩き出す。地図は燃やしたから、何処に何が有るかなんて分からないけど、地図に載っていない場所だって絶対に有ると思う。
全部を見つけることは出来ないけど、そんな場所には何が有るのかな?
「うわぁ……大きいね、テイル」
「ガ~ウ~……」
街道をそれて歩き始めて一ヶ月ほどが経過して、今私とテイルの前には、神殿の様な建物が聳え立っている。ここに来るまで散々迷ったり行き止まりになったりして時間が掛かったけど、その時間は苦じゃ無かった。
テイルはずっと隣に居てくれたから寂しさなんて感じなかったし……でも、でもね? 残念なことが一つだけある。
テイルを…………テイルをね?
――――抱っこできなくなったんだよおぉ……っ!!
もうそれだけが、本当に残念なの! 大きくなるのは嬉しいけど、急に大きくなって! 立ち上がるともう、私よりも高いんだよ!? これじゃもう抱っこできないよ! 夜にテイルが羽を布団代わりに掛けてくれるの、すごい嬉しいけど! 抱っこが出来ないのは本当に残念なんだよおっ!
はぁ、成長期は凄いねなぁ……。
地べたに四つん這いになって心の中で嘆いていると、テイルが鼻先でつついてきた。
うう、本当に大きくなったね? 今じゃいくら頑張っても、顔に抱きつくしか出来ないよ。
「本当に大きくなったよね……すこしだけなら、私が乗っても飛べるようになったし」
「ガウ!」
「フフ。……よし、そろそろ入ろう。面白い物を見つける為に」
「ガウガ!」
全体が見事に真っ白な、名も分からない神殿に入る。
ここは本当に誰の目も着かないような森の奥にあって、人間どころか魔物の気配すらしない。
この辺の森は、木が入り口から小さい順になっているから、この神殿は外部からは全く見えない。
じゃあどうして見つけられたのかと言うと、単なる偶然。食料が少なくなってきたから、何か山菜の様な物でもないかなぁ、と思ってどんどん奥に進んでいくと、建物らしき物が見えてきたから進んで、この神殿に辿り着いた。
中は外観通り広い造りになっていて、私とテイルが並んでも余裕で通れるから助かった。それに灯りも無いのにどうしてか明るいから、安心して進める。
魔法か何かが、ずっと維持されてるのかも知れないけど……だとしたら、これをやった人は相当な魔術師何だろうな……。
感心しながら、ぐるりと建物内を見てみる。人が入った様な跡も、誰かがここに来たような痕跡も無かった。外の土も綺麗だったから、多分私たちの足跡しか残ってないと思う。
カツカツと靴音を響かせながら進むと螺旋階段があって、上下どっちでもいけるようになっていた。
「どっちに行く?」
「ガウ!」
「下だね。階段は、並んでは無理だから、私が先に行くよ?」
先に行こうとしたらテイルに腕を引かれて、振り向くと首を振っていた。
「テイルが先に行くの?」
「ガウガウ、ガウ!」
「あぁ、一緒に、だね?」
「ガウ!」
さっきも説明した通り、今のテイルは私を乗せて移動出来る。それは空だけでなく地上でも一緒だ。私が目を覚ますとテイルの背中に乗っていた、なんてことは、最近よくある。
大きくなって起きるのが早くなったからね。
背中に乗って辛くないか聞くと、元気な返事が返ってきた。そのままテイルは階段を降りていき、また広い空間に出たから私はお礼を言って背中から降りる。
「ありがとう。逞しくなったね」
「ガウ!」
「フフ」
本当に、もう……さて。
周りを観察してみるけど、三方向に扉が有るだけで他には特に何も無かった。取りあえず手当たり次第に進むことにして、先ずは正面の扉を開ける。
この神殿は誰を崇めていたのかな?
ふとそんな疑問が浮かんだ。普通に考えれば神なんだろうけど、私が知っているのは、私をこの世界に送ったあの神だけで、それ以外の神なんて知らない。この世界にも神は居るんだろうけど、別に会いたいとは思わない。
部屋の中には、何も無かった。他の二つも同じ。
もう誰も使ってないからかも知れないけど、こんなに綺麗になるものなのかな?
もう一度確認してみようと思って、最初に入った部屋に入ると、さっきは見つけられなかった一冊の汚れたノートを隅に見つけた。
ぱっと見ただけだから気付かなかったのかも知れない。
そのノートを、外で待っているテイルの所に持って行き開く。
――――白。
何も書かれていなかった。他のページも同じ。何度確認しても、何も書かれていない。
「一応、持っておこうか? 何かに、使うかも知れないし」
「ガゥ~」
鞄にしまって他の部屋も何か無いかともう一度確認したけど、何も見つからなかった。隅なんかも隈無く探してみたけどやっぱり何も無いから、上に戻ることに。またテイルの背中に乗って階段を上がり、どうせだから上にも行こうということになり、そのまま上に向かう。
「…………」
「…………」
おかしい。
「もうとっくに着いてる筈なのに」
「ガウ」
大きなことは分かっていたけど、上が見えない程の大きさがある訳じゃ無かった。なのに、階段を上がり始めて三十分は経っているのに、たどり着く気配がない。
いくらなんでも時間が掛かりすぎてる。
テイルからは少し前に降りていて、今は後ろを歩いてる。大きくなったといっても、ずっと乗ってたら疲れさせちゃうから。
一度、引き返した方が良いかもしれない。
「テイル、一度戻ろう?」
「ガウ?」
「この神殿、何かおかしい……テイルも、感じてるでしょ?」
「ガウ」
「それなら、一度戻ろう。どこかでこの神殿について、何か分かるかも知れないから、そしたらまた来てみよう?」
「ガウガ」
そして階段を降りて行くと、五分と掛からず最初の場所に着いた。
本当に、どうなってるんだろう?
今立っているこの場所は、五分で着くような長さじゃ無かったのに……。
テイルも降りてきて、不思議そうに首を傾げている。大きくなっても、そんな所は可愛いままだ。
外に出て見上げてみても、やっぱり三十分も掛かるような高さには思えなかった。どころか、降りた時と同じくらいの時間で着くような高さ。
でも、考えても分からないものは分からない。思考を打ち切り、神殿を後にした。
「何だったんだろうね、あの神殿……?」
「ガウ~」
「まあ、いいかな。行こう、テイル」
「ガウ!」
元気な返事をしたテイルと一緒に駆け出す。
さて、次は何が見つかるかな?




