魔の谷~フレイム・ドラゴンとの出逢い~
「・・・名前を持たないなんて、本来ならあり得ない。貴女に何があったの?」
情報士さんから名を持たないと言われて、私が何も言えないで居ると、ラムネちゃんがそう言って情報士さんを見つめた。情報士さんは笑みを受けべた顔のままラムネちゃんを見つめ返して、少ししてから口を開いた。
「今はどうせ暇だから、知りたいのなら話してもいいわよ?体して中身があるわけでもないし。それでも聞きたいの?」
ラムネちゃんはこくんと頷いた。それを見て情報士さんは次は私たちを見て「貴方たちも?」と聞いてきたから、私もそれに頷きで返す。
「分かったわ。
そうね~・・・まあ、名前が無いのはあたしが記憶を失ったから。としか言いようが無いわ?」
「それなら自分で名を考えればいい」
間髪入れずにラムネちゃんがそう言った。でも、私もそう思う。実際記憶を失ったらどうなるかは分からないけど、自分が自分であるためには名前はどうしても必要な物だから・・・。
あれ?
「貴女の名前を覚えてる人は周りには居なかったんですか?」
「いいえ、居たわ。でもね?記憶を失ったということはその人達のことも忘れたってことなの・・・貴女だったら、自分の知らない人が言ったことを信じることは出来る?」
「出来ません」
「・・・・意外ね。人間は友情だなんだって言うことが多いと思ってたけど」
「私は人間を信じていませんから」
「「え・・・?」」
私の言葉に驚きを示したのは情報士さんでは無く、テイルとラムネちゃんだった。そうだった。ラムネちゃん所かまだテイルにも話してなかったんだ・・・殆ど人間と関わらないようにしてきたから忘れてた。
「どういうこと、あかね?」
「ごめん。また今度詳しく話すから今は・・・」
「・・・わかった。でも、かならずおしえてね?」
「わたしにも・・・」
「分かってるよ?」
やっぱりちゃんと話さないと駄目だよね?
「そろそろいいかしら?と言ってもあたしの話は殆ど終わったのだけれど」
「あ、はい。お願いします」
「それじゃ、さっきの続きね?あたしの名前を教えてくれる確かに居たわ?でも、その人達が言っていた名前は、自分には合っていないと思ったの・・・だから、結局今日まで名を持たずに生きてきた。
これであたしの話は終わり」
情報士さんはふぅ、と一息ついて席を立ち飲み物とコップを人数分持ってきて私たちにも渡してくれた。お礼を言ってからそれを一口飲む。
「そういえば、この街に住んでいる人たちは貴女をなんて呼んで居るんですか?」
ふと気になったので聞いてみた。
「単純に『姉ちゃん』とか『オイ』とかよ?貴女が初めてね・・・こんなに礼儀正しい態度で接してくれたのは。ねえ、これからも来てくれるかしら?」
「え?それはもちろん・・・何度もお世話になるでしょうから。あ、そういえば今日の情報のお代ってどれくらいですか?うっかり払い忘れてしまう所でした」
ラムネちゃんの空間とは別に鞄に仕舞っている小さな袋を出して払おうとすると
「貴女達はただでいいわよ?」
と言われた。
「あ、でもお茶代は払ってね?3にんだから銅3枚」
袋から銅を3枚出して、渡しながら理由を聞いた。
「まあ・・・何となくよ。貴方たちなら別にいいかな~・・・って思っただけ。あ、そうそう・・・『魔の谷』に行くなら準備はしっかりしておかないと駄目よ?魔物は途中にも結構出るからね?」
「はい。ありがとうございました」
頭を下げてから店を出て、ラムネちゃんに空間の中身を確かめてもらってから渡した達は魔の谷に向けて歩き始めた。
出発して1週間。情報士さんが言っていた通り魔物は結構出てきたけど、問題なく倒して、偶に節約の為に昼食にしたり夕食にした。それから、魔法の練習をする時にラムネちゃんがコツなんかを教えてくれて、闇の魔法が少しだけ使えるようになった。魔族は闇を操るのが得意らしい。
これで今使うことが出来るのは火・水・風・氷・雷・闇の6つだから後は土と光の魔法だね。闇を使いこなせる様になったらその2つも練習しよう。
「お休み~・・・」
「「おやすみ」」
いつもの様に結界を張ってから並んで眠りに着く。
それから5日後の夕方。聞いていたよりも2日早く魔の谷に到着した。これも情報士さんが言っていた通りなんだけど、ここに来るまでは結構魔物が襲ってきたしたけど近づくにつれて段々と魔物が大人しくなっていった。確かにこれは考え方によっては危険とも考えられるかも・・・大人しいってことはそこの魔物達を束ねている魔物が居るか、別にも何か原因があるのか。
その原因によっては、本当に危険なことだってあるだろうから。
谷の中を進んで生きながら周りを観察してみるとレグルフやアークロン、バルデイア(半人半鳥)やらが居たけど、どの魔物も崖の上や遠くから見てくるだけで何もしてこなかった。
谷は横幅が10メートル位あるから私たちが並んで歩いてもまだまだ余裕はある。その谷を進んで行き途中坂を登ったり、下ったりする。2時間程歩いた所で丁度良さそうな広さの岩場があったからそこで休憩することにした。
魔物達が襲ってこないのはもう分かっているから結界は張らなかった。
「みんなホントに大人しいね?どうしてなんだろ・・・」
「わからないけど・・・らくにすすめるから、いい」
「・・・わたし・・も・・・そう思う///」
「それもそっか・・・そろそろ暗くなってくるから、今日はここで寝る?固い場所だけど下に何か敷けば寝られると思うし」
いくら魔物が襲ってこないからと言って夜に谷なんかを移動するのは危ない。今の所落ちそうな場所なんて見つかってないけど、脆い場所なんかはあったりするかも知れないし。
「うん」
「・・・空間・・・から・・・・ふとん・・だせ・・・ば・・・だい・・・・じょうぶ///」
ラムネちゃんが顔を赤くしながらそう言ったから、お願いして空間から敷き布団とついでに掛け布団を出して貰い、念の為に結界を張ってから布団に入る。いつもより全然早い時間だけど久しぶりの布団だ気持ち良くて私はすぐに眠りに着いた。
完全に眠りに落ちる寸前テイルとラムネちゃんが「お休み」と優しく言ってくれたのを感じた。
次の日、最初に目が覚めた私は右にテイル、左にラムネちゃんが居ることを確認してから起こさないように布団を出て水で顔を洗った。それから暫くして、テイルが目を覚ましそのすぐ後にラムネちゃんが起きたので、布団を空間に仕舞って貰い結界を解く。
近くの岩を風で抉って半径50㎝くらいの窪みを作る。そこに水を貯めてテイルとラムネちゃんにそこで顔を洗うように言ってから私は鞄からごはんを取り出して朝食の準備を始める。
朝食を食べて私たちは探索を開始した。
相変わらず魔物達は遠巻きに私たちを見ているだけだ・・・そのまま進み続けて約3時間位が経ち、寝た場所よりも数倍の広さを持ち景色がとても綺麗な場所に到着した。これ以上先に道は見えないから多分此処が最奥だと思うけど・・・見た所何も無い。
まあ、この谷に入った時から何か強い力は感じていたけどそんな力を持った魔物は出てこなかったからね・・・何も無いのかな?
テイルとラムネちゃんに帰るかどうかを聞こうと思って振り返ると
「ガアアアアアア!!」
咆吼と同時に羽ばたくような音が聞こえ、私たちが立っている場所に大きな影が出来た。
突然のことに動きが止まってしまってテイル達を見ると2人も同じようで驚愕に目を見開いていた。
私はゆっくりと体をまた正面に向けた。
「・・・これは誰でも驚くかもね?」
私たちの前に姿を現した者、それは
『此処に何をしに来たのだ?人間の娘よ』
30メートルはあろうかと言う程の巨大な体を持った紅いドラゴン。
―――――フレイム・ドラゴンだった。