アルカン
「それにしても……この剣は何なのかな?」
ここは泊まっている宿の一室。ベッドに背中を預けて座り、隣にはテイルが寝ている。剣は危なく無いように左手で持っている。
まあ、いくら観察しても分からないけど、この剣が空間を斬ったのは間違いないんだよね……もしかしてこの剣も、あの2つの神殿を造った人が造ったのかな?
そもそも、あの神殿は造られたのかな?
これも考えたって分からないことだけど、このことも含めてまた、調べてみよう。
「さて、今日はもう寝ようかな。テイルはどうする?」
「もうすこし、おきてる。おやすみ、あかね」
「うん、おやすみテイル。あまり夜更かししちゃ駄目だからね?」
「うん」
布に包んだ剣をベッドに置き、テイルに抱きついて目を閉じる。ふわりと、優しくテイルの翼が体を包んでくれた。その暖かさに包まれて私は眠りに落ちていった。
「――ここは? あれ、どうして剣が?」
ふわふわと、体が浮いているような感覚に目を開き、周りを見るとあの剣が浮いていた。そこで気付いたけど、私も浮いていた。
なんか不思議な感じ。浮いていることも含めて、この場で感じる全部が。それがなんなのかは、はっきりとは分からない。でも、剣から発せられていることは分かる。ここに居るのは私と剣だけだから。
それにしても、この感じ、どこかで……。
あ、神殿で剣に触れた時、感じたのと同じ……なら、また触れて見れば分かるかな? あれ、でも、どうやって進むんだろう、これ?
手を伸ばして届く距離じゃないし、浮いてるから歩けないし。進め~って念じれば良いの?
お、おぉ、ホントに進んでる? こんなんでいいの?
と少し混乱している間に、手を伸ばせば届く距離まで近づいていた。
手を伸ばして、剣に触れてみる。と、声が聞こえた。何処までも澄んでいて、吹き抜ける風みたいな、安らぐ声。
『久方ぶりだな。七色の覇者よ』
私は、その言葉の意味が分からなかった。言葉に込められている意味が。
こんなにも綺麗な声なら、一度聞いたら絶対に忘れない自信がある。本当にそう思う程、綺麗な声。
「どういう、こと? 私は、貴女みたいな綺麗な声をした人と会ったことはないよ? テイルはどっちかと言うと可愛いって言う方が正しいし、ラムネちゃんは鈴みたいに静かな声だし」
『本当に分からぬのか? 永い時を共にしてきた我のことが』
その声から伝わってきたのは、悲しみだった。そんな声は出さないで欲しい。私まで悲しくなる。
そう言うと、剣が謝った。
『すまぬ』
謝って欲しかった訳じゃない。ただ、悲しまないで欲しい。
『どうやら本当に分からぬようだ……こんなにも、同じだと言うのに』
「同じ? 何が、同じなの?」
『以前の主人。バルハイト・ズィーデル。お主の持つ力は、あやつと同じだ。永年共に居た我が本人だと思いこんでしまう程に……さて、人違いと言うなら自己紹介せねばなるまい。我の名はアルカン。お主の名は?』
「私は、アカネ・ユキト。よろしくね、アルカン?」
『うむ。これからはお主が我の主人だからな。よろしく頼む、主よ』
「え、そうなの?」
『ああ。我はお主を主人と認めたからこそ、ここに連れてきたのだ』
「そうだったんだ……えっと、剣は、まだまだ未熟だけど、頑張るから」
『うむ』
そのあと、私達はいろいろな話をした。その話の中で分かったけど、この空間はアルカンが造った空間らしい。そして私が魔力を込めれば、この空間の中でだけ、人の形を取れるそうだ。そして、ここに来たい時は、寝る時に体のどこかが触れていれば良いらしい。
私が、神殿で会った時に分からなかったのか聞いたら、剣の状態では魔力を感じることしか出来ないから、私をバルハイトさんだと思ったらしい。
「あはは……っ、あれ? なんか、意識が、霞んで、きた」
『目覚めが近いのだろう。済まぬ、つい話し込んでしまった』
「ううん、私も、楽しかったから。それじゃ、改めて、今日から、よろしくね、アルカン」
『うむ、よろしくな。アカネ』
私の意識は、そこで途切れた。
「……ん、ふふ、くすぐったい、よぉ」
頬にこそばゆい感覚があって目を覚ますと、テイルが私の頬を舐めていた。
「ふふ、おはよう、テイル」
「おはよう、あかね」
テイルに挨拶をして、洗面所で洗顔と歯磨きをした後、アルカンのことを話す。
「いまは、はなせないの?」
「あ、どうなんだろう。声は聞こえてると思うけど……アルカン、話せるなら何か話して? テイルにも聞こえるように」
「…………」
「…………」
暫くの沈黙。
「あの空間じゃないと無理みたい。今日寝る時、テイルも一緒に、アルカンに触れて寝てみよう? そしたら、一緒に行けるかもしれないから」
「うん。すこし、たのしみ」
「そうだね。それじゃ、ご飯を食べて仕事をしに行こう? 家を買うためにもお金は必要だからね、頑張ろう、テイル! おー!」
「おー!」
両手を突き上げて万歳すると、テイルも両手を上げた。
「かわいいっ!」
「わっ」
あまりのかわいさに抱きついて、そのまま暫くじゃれ合った。
稼ぐぞー!