レンドキア王国~魔王登場~
「もう、一年か……早いなぁ」
テイルも、隣で頷いた。
四の街で住居を建てる計画を立てたけど、それにはまず土地が必要だと思って、面白いものを探すついでに土地も探し始めた。以前、見つけた神殿は文献で調べたりもしたけど、大昔に造られたということしか分からず、洞窟については場所が分かっただけで、内部と狼については本当に何も手がかりが得られなかった。
でも、他にもいくつか面白い物を見つけることは出来た。
森を歩いていたらいきなり岩場に居たり、川でテイルとじゃれていたらそこの水がテイルの形になって襲いかかってきたり、神殿に似た建物に入って少しでも道をそれると入り口に戻されてしまったりと、色々。
これらは全て、普通に道を歩いていたら絶対に見つけられない場所にあったから、少なくとも私達が見た文献には載っていなかった。でも、どの場所も、大小こそあったけど魔力を感じたから、もしかしたら魔法によって創られたか、魔力の集まりやすい場所なのかも知れない。
多分だけど。
どうして一年経ったことが分かったかと言うと、今朝起きたら神がいきなり、おめでとうと言ってきたから。何のことかと聞いたら、こっちに来て一年が経ったと言われた。
でも、どうせなら後五日経ってから言って欲しかったな……そしたら、テイルと会って一年だったのに。
テイルはこの一年の間でもっと大きくなると思っていたけど、どういう訳かあまり大きくならず、三メートルくらいで成長が止まっている。それでも力は順調に高まっていて、炎も格段に大きくなってるから、本当に頼れる存在だ。
「いつも、ありがと」
「あかねのこと、すき。だから、いい」
「ふふ、ありがとう。私も、テイルのこと、大好き」
それから、テイルが少し話せるようになった。以前会話だけした水龍の様に、頭へ直接語りかけるんじゃなくて、声に出して。通常他の龍族も、水龍の様に頭に話かけるみたいだけど、テイルは私――つまり人間といたから言葉を覚えたのかも知れないと神が言っていた。
今の所、テイルの様に話せる龍族はいないらしい。後、声を聞いて始めて分かったけど、テイルは女の子だった。
「それじゃ、そろそろ出発しようか?」
「わかった」
今日も朝食を食べて、面白い物探しに出発。何が見つかるかなぁ……?
それからあっという間に二ヶ月。今はレンドキアにいる。
何となく歩いていたら近くまで来て、折角だから入ってみようということで入ってみた。すると居たのは、流石は魔族の国だけあって、魔族ばかり。羽や尻尾や角があって、みんな楽しい人たちだ。初めて来た私達にもよくしてくれた。
宿の紹介、家を建てる為の土地探しに、何か面白い物を探していると言ったら、些細なことでも同じようなことに興味を持っている人が教えてくれる。それで今はギルドで、ある人達を交えお食事中。
「ありがとう。でもいいの? 貴方たちも忙しいんじゃ?」
「気にするな。人間でこんなことに興味を持つ奴なんて殆ど居ないから、嬉しいんだよ」
「そうそう。最初はどんな奴かと思ったが、結構お前ら、面白いからな」
ギートとマイス。
この国で一番私達と接点が有る二人。ギートは首元まである赤い髪に緑の瞳を持ち、背に大剣を提げている。羽は持っていないから、邪魔にもならないそうだ。そして、腕の立つ冒険者の男性。
マイスは、背中まである白髪で目は私と同じ黒。主に魔法を使うらしい。こちらも男性。
ちなみに二人とも、私より頭二つ分ほど背が高い。最初は確かになんか不良ぽかったけど、私達はそんなことは気にしない方だからか、すぐに仲良くなれた。テイルも、この二人には懐いている。
「それじゃ、俺たちは行くぜ? またなんか見つけたら知らせるからよ」
「たまには一緒に仕事行こうな?」
「うん、ありがとね。ギート、マイス」
「ありがとう」
二人を見送って、貰った資料に目を通すと、そこには最近見つかった神殿のことが書かれていた。何でも上にはすぐに着くが、下にはいくら歩いてもいけない階段がある神殿。
「これって……」
あの神殿の反対だ……。下にはすぐに着くのに、上にはいくら登っても着かない。
ここを調べたら、何か分かるかも知れない。
「行ってみる? テイル」
「うん」
代金を机において外に出て、念の為に食料を買い足しておこうと店へ向かおうとしたら、誰かとぶつかった。あまり衝撃は無かったけど、相手は体が小さかったせいか転んでしまい、尻餅をついてしまった。まだ小さな子供だ。
私や、日本にいる誰よりも黒い漆黒の黒髪を背中まで伸ばしていて、瞳は右が青で左が赤のオッドアイ。服は白いワンピース。角は無いけど尻尾があった。羽は位置の関係上見えない。
「大丈夫? ごめんね、気付かなくて……どこも痛くない?」
「……あ、ぁぅ……ぇと、だい、じょぶ。こっちこそ、ごめん」
「よかった……テイル、この子を家まで送るから、神殿にはその後に行こうと思うんだけど、いい?」
「あかねといられるなら、なんでもいい」
「ありがと。大好き」
「わたしも、あかね、だいすき」
「ふふ。それじゃ、あなたのお家はどこかな? 送るから、教えて? あ、その前に自己紹介しないと。私は、アカネ・ユキト。この子は大切な家族の」
「ている」
「よろしくね? あなたのお名前は?」
「…………ラムネ」
「ラムネちゃんだね。お家はどこ?」
倒れているラムネちゃんを抱き起こして、そのまま抱える。目線を合わせただけで、顔を真っ赤にして俯いてしまった。随分と恥かしがりやさんみたいだ。
その後、家の場所を聞いてその方向に向かっていくと、大きな城が見えてきた。周りには高級そうな家々もある。
ラムネちゃんは、貴族とかそんな生まれなのかも知れない。今だ腕に抱えたままそんなことを考えながら、テイル達と歩いていると城に着いた。
「ラムネちゃんの家、ここなの?」
「そう」
やっぱり赤い顔で頷くラムネちゃん。
「おおきい」
「本当だね……もしかしてラムネちゃんて、王様かなんかだったりするの?」
「うん、わたし……この国の魔王」
「え、そうだったの? 凄いね、まだ、小さいのに」
「すごい」
ラムネちゃんのフルネームは、ラムネ・ル・レンドキアと言うそうだ。成る程、名前に国名が入っているなら、確かに王の証にはなる。それに、神も恥ずかしがり屋だって言ってたし。
中に入れて貰うと、護衛の人達が来てラムネちゃんが無事帰ってきたことを喜んでいた。そして、何故か私達まで感謝された。
特に何もしてないんだけど。
それから、ラムネちゃんを護衛の人に預けて、私達は神殿を調べに行った。
またね、ラムネちゃん。
「さて、今度こそ出発しよう、テイル」
「うん」
何が分かるかな~……?