夢幻の少女
「この世界にようこそ」
門の中で中学か高校生位の女の子が、俺を出迎えた。
秋の夕べ、仕事から帰る途中で荷物が重くて困っている婆さんに出会い、その婆さんの手助けをする為にいつもの帰り道を外れた俺は道に迷ってしまった。
取り敢えず元の帰路に戻ろうと歩いて行く内に立派な門と灯篭の有る場所に辿り着いた。
俺は何故だかその門の先に興味が湧き、中に入ってみたんだ。
「ふふ、驚いたお顔をされてますね」
当たり前だ、想像とは違った景色が待っていたのだから。
「お嬢ちゃん、ここは何処だ?」
「ここに名前はありません。しかしそれではここを表すのに具合が悪い。なので私はここを『夢幻鏡の世界』と勝手に呼んでいます」
「夢幻鏡の世界ね」
「そうです。何故ならここは入った者によって見える世界が変わるからです。その人を満たす世界にね」
その子は淡々と言った。
「貴方もきっと現実に退屈していたのでしょう、だからこの世界に手繰り寄せられた。ここはそういう人が引き寄せられる場所です」
「ほう・・・・・・」
確かに俺は現実に辟易していた。そして今俺の目の前に映る景色は、冒険心に溢れた子供の頃に住んでいた町の一角を切り取ったような景色だった。
「さて、奥まで行きましょう。私に付いて来てください」
「もしかしてお嬢ちゃんも現実に退屈してた口か?」
「さぁ、私はただのStorytellerなので分かりませんね」
「へぇ、"Storyteller"ね」
Storyteller、物語の語り手であり『子供の嘘つき』か。
俺はあの子の制服に覚えがある。あれは俺の母校の制服だ。
そして一年前にニュースで女の子が一人、学校から戻らずにそのまま行方不明になったと報道されていた。
確かその子は普段は明るい子だが、事件の数日前から上の空になる事があったらしい。そしてSNSで『何処か知らない世界に行きたい』という呟きを最後にSNSは更新されてないらしい。
俺も"Storyteller"になるのか、それともならずに現実に戻れるのか、或いは思ってもみない事が起きるのか。
俺はワクワクしながら、消えた女の子の後ろに付いてあの頃を彷彿とさせる場所を進んでいった。




