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魔法使い飼いの魔女ー防御の魔女と攻撃の魔法使いー  作者: 田山 白
第二章 異世界の聖女ユウナ・キリュウ
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第八話 聖女は知っている



「だからさ、君たち二人に同行して欲しいんだ」


そういって、にこりと対面で綺麗に笑うのはデリックだ。常の笑顔より、胡散臭さ三割増しである。

いつものように、目立たないようにとエルネスティと噴水周りに二人でいたのに、「たまには食堂にランチにでも行こうよ」と来て素直に従ったのがそもそもの間違いだったのだ。

これはスフィアに、なんてプリンを差し出されて喜んでいる場合じゃなかった。

胡乱にデリックを見る。


ランチ時間帯の食堂には当たり前だが沢山の人がいて、エルネスティとデリック二人が揃えばどう控えめに言っても目立つ。

エルネスティは欠伸を噛み殺しながらそっぽを向いている。

デリックのお願いは、最早王命に等しい。しかもこんな食堂のど真ん中で言われれば、断るだなんて選択肢は与えられていない。

デリック相手だから油断した……。デリックが食堂に誘ってきた時、安易についていこうとした私を見咎めたエルネスティの視線の意味をもっと深く考えれば良かったのか……。

プリンのカラメル部分がとても苦く感じて口を思わずむぐむぐと動かすと、デリックが苦笑した。


「そんな嫌そうな顔しないでよ」

「………私、キリュウと話合わないし」

「わかってるけど」


デリックのお願いとは、くだんのキリュウがめでたく初陣を迎えるので、その討伐に同行して欲しいというものだった。ちなみにお仲間たちは鍛え直している最中で、今回はキリュウのみの初陣となったらしい。

そういえばブリザードドラゴンがどうのこうのと言っていたな……とぼんやりと思い出す。

その後のエルネスティとのやり取りが濃厚すぎて、すっかり忘れていたけれど。


エルネスティはあれ以来、声が封じられっぱなしのままである。

一応、彼の両親にも「今、エルネスティの声をずっと封じていて……」と経緯などを濁しながら報告したら、「またバカ息子が何かやったのか、スフィアちゃんごめん」と深く事情を聞かれることもなく、何故かこちらが謝られた。

私への信頼が厚く、反比例するようエルネスティの信用が薄すぎる。


エルネスティは魔法を解除しようとはしているようだが、そこに切羽詰まった様子はない。

私の隙をついて、とでも思っているのか。

ちなみに声が出ないことに対する不便さはあまり感じてないようである。今までも割と制限魔法で声が出ない時の方が多かったし、必要に駆られた時は筆談などで意思疎通を測ってくる。

もしくは目線。素直なエルネスティの視線は割と何を思ってるか分かりやすいのだ。

私が一人で喋ってる風に見えるのがたまに傷だけれど。


「彼女は確かに意思疎通は難しいけど、それでも希少スキルの聖女の祈り持ちだ。国としては埋もれさすには勿体無いんだよ」

「それは、わかるけど……。なんで私たちが?」

「君たちみたいな同年代が最前線で討伐してるだろ? 手本としてちょうどいいと思ってさ。ああ、別に討伐自体に手を貸せってわけじゃない。ただ、メンタル面とかフォローして欲しいと思って」


メンタル面のフォロー。


……本当に言ってる?

会話が下手な私と、最早口も聞けないエルネスティに向かって?

相当変な顔をしてしまったのだろう。デリックは苦笑した。


キリュウたちもあの一件以来、私に突っかかってくることがなくなっていた。エルネスティの氷魔法がよほど応えたのだろう。

静かになって良かったな、なんて思っていたのだが。


「まあまあ、君たちにもいいことはあるよ。聖女の祈りはいわばヒーラー系なら、ほぼ最上位といっていいスキルだからね。ヒーラーのパーティー加入を考えてるなら――」


ガン! と、突き刺さったのは、皿を割るほど強く突き刺さったフォークの音だ。

顔を引き攣らせ音の発生源であるエルネスティを見る私と違い、凍りついてしまいそうなほどの冷たい視線を向けられているデリックは動揺もしなければ、笑みを崩しもしなかった。


「……いい参考になるかと思ってね。君たちには、国としても期待してるんだ。更なる活躍に仲間を増やす、結構じゃないか」


話を続けていうのは、あまりに心が強い。さすが王族である。


腰が引けかけている私と違い、二人はそのまま身じろぎもせず見つめ合った。

数秒だったが、冷えた空気はあまりに重く長く感じた。


睨み合いは、エルネスティが舌打ちを一つしたことで終わりとなる。

荒く立ち上がったエルネスティは私の腕を掴んで立たせ、そのまま食堂を突き抜けていく。私も転ばないようエルネスティの後ろを歩いた。

その背に、デリックが声を掛けてくる。


「三日後、対象はブリザードドラゴンよりは難易度低い依頼にしたからよろしくね」


また一つ、エルネスティが舌打ちする。

しかしそれは不本意ながらの了承でもあったのだろう。

一度だけ振り返ると、苦笑いしたデリックが手をひらひらと振ってくれた。


そういえば、前はヒーラーの話題出す時は気をつけろ、だなんてデリックから言ってきたくせに、今日は自分からエルネスティにぶつけてたな。

私への助け舟のつもりだろうか?




▽▲


――三日後。

王都外れの小山を、私たちは歩いていた。

討伐場所としてはいかにも初級といった道である。王国騎士団、キリュウと、同じように初回討伐となる一向。そして私とエルネスティ。

初回討伐の一向は緊張した面持ちをして歩いている。

初陣だ、どう頑張っても怪我はする。だからこそ同じく初陣となるキリュウと一緒に連れられたのだろう。


「は〜、ブリザードドラゴンじゃないって聞いた瞬間、正直ちょっと肩透かしだったんだけど?」


一方のキリュウは、そう言って、あっけらかんと笑った。

緊張も怯えも、何もない。


「見せ場じゃないのかーと思ったけど、ま、しょうがないよね。ここもチュートリアルみたいなもんでしょ? 一章の仲間集めパートだし。最初は強すぎない魔獣が出てきて、連携とか世界観とか覚えさせるフェーズじゃん」


一息もつかず、続ける。


「そのあと二章で本格的に魔王軍が動き出して、

三章で中ボス、四章で一回全滅イベント入って、

終盤で覚醒イベントからの魔王戦! はい、王道!」


満足げに両手を叩いた。


「だからさ、正直いまの依頼、余裕だと思うんだよね。回復役は私がいるし、火力はエルでしょ? あとはタンクがちゃんと前張ってくれれば——」


ちらり、と私の方をわざとらしく、キリュウが見る。


「……まあ、そのタンク役がちょっと暗いのが気になるけど」


悪びれもせず、肩をすくめた。


「ゲームだとさ、スフィアって最初はエルを“管理”する側で、首輪つけて、自分の正しさ疑わない系だったし。それがだんだん恋に溺れて、エルのバーサーカ状態を助長しちゃう悪役ムーブに入るんだよね」


楽しそうに、指を折りながら語る。


「で、そこを私たちヒロイン組が止めるわけ。『その愛は間違ってる!』って。エルは両親を失って自罰的になってるだけなんだから、自分を許す道を選ばなきゃ、ってさ」


一拍置いて、得意げに笑う。


「まあ、結果的にエルはクーデレ化して大人しくなるし、スフィアも救われて改心するし、全員ハッピーエンドなんだけどね」


そこでようやく、少しだけ首を傾げた。


「……なのにさ」


エルネスティを見る。


「なんかエル、思ってたのと違くない? もっと陰キャで、自己嫌悪の塊で、『俺なんて……』って感じのキャラだったはずなんだけど」


次に私を見る。


「スフィアもさ、もっとこう……執着強めで、『私がいなきゃダメでしょ』系だと思ってたんだけど」


けろっとした顔で、結論を出す。


「まあ、細かいイベント分岐ミスっただけかな。よくあるよね、そういうの。でも大筋は変わらないでしょ」


にっ、と無邪気に笑う。


「だってここ、【聖女と七人の勇者】の世界だもん。私がヒロインで、魔王は倒されて、物語はちゃんと“正解ルート”に収束する」


言い切るように、はっきりと。


「だから大丈夫。多少ズレてても、修正かければいいだけだし。ていうかもしかしてあんたも転生者? ゲーム知識使ってシナリオ改変した系? 正直に言ってよ。今なら許してあげる。……エル以外はハーレムできて、ヒロインちゃん大勝利〜って感じだしね」



――と。


洪水のようにキリュウの言葉がずっと溢れ出している間。

騎士団は気持ち悪いものを見るような目で、喋り続けるキリュウを遠巻きに見ている。

私はといえば、何故この女がずっと私の隣を陣取って、話しかけて来ているのかがわからなかった。

そもそもこれは会話なのだろうか? 壁にでもなったようである。

元から何を言ってるかよく分からない状態ではあったが、今日は意味のわからなさと弾丸みたいな話が突き抜けている。


何がおかしいとか、そういう次元じゃない。

全てがおかしい。


傍目には元気そうな様子に見えるが、もしかして異世界にきて心を壊し始めているんだろうか?

それでデリックは私にメンタルケアをしろなどと言ってきたのか? そうだとしたらあまりに力不足だと思う。無理……こんなの。

怒りが沸くだとか哀れに思うだとかそういう問題じゃない。だってこれは会話じゃない。

訳がわからない異世界語混じりの台詞を投げ続けられ、溜まるのは疲弊のみだ。

会話ができるレベルを明らかに超えている。


どうするのが、正解なのデリック……。


最早言葉として捉えられず、鳥の囀りと似たものだと脳が処理を始めている。

ちらりと助けを求めようとエルネスティを見れば、エルネスティも似たような顔をして空を見ていた。

私の助けを求める視線に気付いているだろうに、私を見ることはない。


というか、唯一、自分の両親が死んでいることになってるのにはもう少し怒ろうよ……。

そう思うが、口を挟むタイミングもないキリュウの鳴き声は、中腹に辿り着くまで続いた。

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