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魔法使い飼いの魔女ー防御の魔女と攻撃の魔法使いー  作者: 田山 白
第一章 魔法使い飼いの魔女
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第三話 世界の常識

王都は広い上に、人が多すぎる。

学園も休みで、討伐命令もないからと気まぐれを起こし買い物になんて来るんじゃなかった。エルネスティが言ってきたよう、二人で鍛錬場でもいけばよかったかな。

けど今日開かれた行商市場じゃないと手に入らない薬草もあったしな、と一人重く息をつく。身を隠すよう被ったローブのフードを引っ張って、なるべく人通りの少ない裏路地を選択して歩く。


その道すがらだった。

路地裏に紛れ込む仔グリフォンが目に入る。

結界魔法が施された王都、何故こんなところに。個体が小さすぎて魔力判定を擦り抜けて入ってきたのか。

小鳥ほどの小さな大きさの仔グリフォンが、私を見て必死に身を隠そうとゴミ箱に体を寄せている。

今にも飛び立とうとする魔獣にはっとして杖を構える。この程度だったら容易な捕縛魔法で余裕で捕えられる。

すぐに軍の殺処分場に持っていこうと力を込めた時だった。


「キャア! あんた! 何してるのよ!」


甲高い悲鳴が飛び込んでくる。

驚きに振り返れば、そこにはキリュウが立っていた。信じられないものを見るような目で、私を見ている。


「こんな小さい仔、いま魔法かけようとした!?」

「は……? いや、それ仔グリフォンだし……魔獣よ?」

「だからなんだっていうのよ! まだ子供よ!?こんな小さな魔獣を殺すだなんて可哀想!」


そう宣う女に呆気に取られた。

これが魔獣だとわからないで私を非難したならともかく、魔獣だと分かった上で取り逃せと言ってる?

信じられない気持ちになったが、私の体だけは何の澱みもなく動き、魔獣を捉える魔法を放っていた。

キリュウはさらに甲高い声を出す。

捕縛済みのグリフォンを私が手にした時、キリュウが体当たりしてきて、魔獣を強引に奪う。


「可哀想だって言ってるじゃない!」

「何言って……っ、返して!」


「これはこれは……素晴らしい場面に……」


その時、間抜けにパチパチと手を叩く音が背後から聞こえた。

今度は何だと振り返れば、学者風の男が立っている。男は私たち、というより魔獣と、それを庇うようなキリュウを一心に見ては感動したように頰を紅潮させていた。


「魔獣の仔を逃がしてあげようとするなんて、こんな心優しい少女に出会えた今日という日に感謝を! ああ! 貴方はとても優しい少女ですね!」


感動したよう、男は魔獣ごとキリュウを抱きしめる。

その勢いと、まるで何かの役者のような言い方に思わず体がずり、と後退してしまった。なんなんだ、この異常者は……と、私は思ったのだが、キリュウは違った。


学者風の男がキリュウを褒めちぎることに悦を感じたらしく「やった!スチルゲット!」と黄色い声を上げる。

あの初対面と同様、私には理解できない。男の抱擁に喜びながら、ニコニコと男に応じる姿に引いてしまう。

男も、キリュウも関わりたくない。

仔グリフォンは取られたままだったが、生理的嫌悪で二人の視界から消えてしまいたかった。


私のそんな願いが届いたわけではないだろうが、男とキリュウは最早私の存在など無視してそのまま意気投合し、魔獣を持って行ったまま消えて行ってしまった。

なんだったんだ、あれは……。

あの魔獣、きちんと処理をしてくれることを最早祈るしかない。

肩を落としながらも、あの突然現れた男の正体を思い出す。

あれは魔物学者のユーデルだ。変人と名高い、魔物を愛していることを自称する研究者。


この世界においてどんなに小さな魔物であろうと、保護をしろだなんていう人間は『変わり者』に属される。

皆学ぶからだ、魔物がいかに恐ろしいか。

幾度この国が魔物の脅威で落ちかけたか。

そして、その脅威から身を守る術を義務として学園で叩き込まれる。


ユーデルはただ単に変人学者というわけでもなく、魔獣を使役する術を確立している最中だとも聞く。

それであるならば、まだわかるが。

キリュウは――、ただあの魔獣が子供で害が今はないという理由だけで可哀想だと言った。だから、逃がすべきだと。


彼女らが去った道を見て、目を細める。

異世界人。

今わかった、私はキリュウが心底苦手だ。きっと分かり合えない。

彼女とは話ができないからだ。常識の土台が私とは違う。



それ以来、私はキリュウに近寄らないよう最新の注意を払って学園内を過ごすようになった。


しかしユーデルを傍らに置く彼女と何度も接触する機会があった。

お互い、視線を合わせるだけでも顔を顰めてしまうのに、あの女は私を見ると何故か絶対に突っかかってきた。

私は相手にしたくないというのに。あっちも無視して無難に過ごしてくれればいいものを。

面倒だから探知不能魔法を自身に施したのだが、不思議なことに、それでも女は私を見つけた。

腕が落ちたのかと疑ったが、他の人間には相変わらず効いている。精度が悪いわけじゃなさそうなのだが……思わず、首を傾げた。


▽▲


本来私は、学園に来るのが好きである。

特殊な結界が張られているためにここには魔物の脅威がない。安全な場で、好きなだけ知識を学べる。

知識は財産だ。ただの雑学として得た知識が戦いの糸口になることだってある。

あまりに長く討伐に呼ばれないと体がソワソワとするが、基本的には私は勉強することが好きだった。


しかし最近は、学園の平穏さに少し身を離したい気持ちが強い。





朝、緊急報告された、王都外れのサラマンダーの異常発生。エルネスティと私も例に漏れず招集されたが、思ったほどの数ではなかった。

人通りの戦闘が終わり、息をついていた時。


「ダール様、本日も討伐、ありがとうございます。相変わらず鮮やかなお手並みでした」

「……いえ」

「学生という身でありながらその腕、本当に尊敬します!」


そう言って私に駆け寄る、王国軍の騎士……何回か会ったことのある顔だけど……なんだっけな名前。

そっと目を外し、きらきらした目線を避ける。

無愛想な私に対して、臆面もなく好意を向けてくる目は少し居心地が悪い。ありがたいことではあるんだけど。

意味もなく、長くなってきた前髪をいじってしまう。


「しかしダール様、ライゼン様のお手並みが鮮やかすぎて、今回の討伐も午前で終わってしまいましたね……。このまま学園に戻るようでしたら、よければ転移魔法が得意なものに送らせますが、いかがしますか?」

「……あ、いや。そんな、手間をかけるわけには」


咄嗟に断ると、それを傍で聞いていたエルネスティがふっと鼻から漏らすように笑う。

ちょっと、という意味を込めて杖で小突くも、エルネスティはニヤニヤとした笑みを止めず、私の頭を肘置きのようにして手を振った。


戦闘直後で、エルネスティはまだ制限魔法をかけてない。つまり、今は言いたい放題口を開けるのだ。


「会いたくねえ奴いるから、行きたくねえんだもんな?」

「……エルネスティ、うるさいよ」


言って、おざなりにエルネスティの口にチャック……魔法をかける。

そんな私に、少し驚いたように騎士が目を丸くした。それから、少し顔を綻ばせて「ダール様でも、そんな風に年相応なことを思うことがあるんですね」なんていう。

そんな、いいもんじゃないけど。


あまり人と深く接さないが故、少しの陰口を言われたくらいでは私は興味を示さない。

なんだったらあっちが敵意を持ってようと名前も覚えられない。

最近の例外は、唯一キリュウだ。

危険人物として名前を覚えていた。


学園、行けるのか……。

今日は鉢合わせないといいなと思いながら、私は重く息をついた。

そんな私に、エルネスティはやっぱり面白そうにニヤニヤしていたけれど。



疲れたまま学園に来ると、早速キリュウたちを見つけた。

そう、「たち」なのだ。

キリュウはこの前のユーデルから始まり、ちゃくちゃくと仲間? というか、取り巻き? というか、とにかくそんなものを増やして行ってるのだ。

しかも顔がいい男ばかりである。つまり、私同様に女生徒から嫌われる女になっているのだが、心が強い彼女はそんなことはなんのその、実に楽しそうに学園を闊歩していた。私が言うのもなんだが、心が強い。

しかしおかげで、大きな円となってるキリュウたちを避けやすくて助かる。

騒がしくキャイキャイと真正面から向かってくるキリュウたちを見て敵前逃亡よろしく、回れ右をした。


隣にいたエルネスティは片眉を上げ、黙って私の隣を歩く。

しかし、背を向けた瞬間に「あ! スフィア!」と声がかかる。肩をぎくりと強張らせた時、エルネスティから手を取られたと思ったら不意に体が浮く。

え、という声が形になる前に体は既に転移した。


転移した先は、学園内の温室だ。


当然、転移させたのはエルネスティである。

エルネスティも私も、そこまで転移は得意ではないし、遠距離移動はできない。ましてや二人まとめてとなるとなかなか骨が折れる。

にも関わらず、わざわざエルネスティが転移までして、私を連れ出したことにぽかんとした。

先ほどまで、私を揶揄う素振りまで見せていたくせに。

どういう心境の変化だろう。説明をしてもらいたい気もしたが、もうエルネスティには私によって制約魔法が掛けられている。

わざわざ制約魔法を外すほどではない。しかも、解いたところでエルネスティが懇切丁寧に説明してくれるかはわからない。


エルネスティが困惑する私の気持ちを無視して、手を掴んだままずかずかた歩き出す。

そして、人気のない温室の一角に来ると、手で私に座るよう指示した。

逆らうこともなく、とりあえず腰を下ろせば、エルネスティの顔が何の遠慮もなく私の膝の上に乗る。

は、と息を漏らすと、エルネスティが目を細めながら私の頰へ手を伸ばした。

柔らかく、そのままなぞる様に触る。


寝ろ


口元がわかりやすい言葉を作った。

エルネスティは、さらにぽかんとする私を少しだけ笑ってから、自分はそのまま目を閉じてしまう。


やがて、スウスウとした寝息を立てる。


まつ毛が、長い。彼の銀の髪と同様の色をした綺麗で量の多いそれを意味もなく眺めてから、少しみじろぎする。

ぎゅう、と制服の上から自身の胸を握る。

それは、どくどくと早鐘を打っていた。


自覚ができるくらい、顔にも熱が集まっている。

あう、と声が漏れない様に思い切り唇を噛んでから、私も無理やり目を瞑った。



静かな庭園は風もなく、ただ静かに木々が私たちを見守っている。

植物はいい。とても落ち着く。

人間と違って心を振り乱して向かってくることもなければ、エルネスティの様にかき乱して来ることもないのだから。

エルネスティの柔らかな温かさと、頭の確かな重み、それから静かな寝息を感じながら、私も心を投げ出す様、少しだけ眠りについた。

【用語解説】

魔物=魔獣含む、人間に攻撃してくる魔力を持つ動植物全般

魔獣=魔力を持った上で人に襲いかかってくる獣


ドワーフやエルフや精霊なども数は少ないながら居ますが、人間と敵対していないので魔物のカウントにはなりません。

ただ、人間に攻撃する個体は例外的な魔物カウントになります。

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