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第十四話 王家の影



王城の執務室は、夜更けにもかかわらず明るかった。


机の上には積み重なった報告書。

その最上段に置かれた一枚を、デリックは無言で読み進めている。


魔獣の異常発生。

発生地域の偏り。

討伐数の推移。

そして――防御魔法使い、スフィア・ダールの単独任務増加。


記載された報告書の内容を一つ一つ丁寧に読みは進めていく。

指示した内容は滞りなく遂行され、そして記載されたデータはある程度予測は立っていたことだ。

報告書を握る手に、少し力が込められる。強く握ったせいで、皺が僅かによった紙に顔を顰める。眉間の皺をもみほぐしながら、息を一つついた。


「……なるほど」


淡々とした声が、静かな部屋に落ちる。

感情はない。評価だけがある。


「過剰討伐による負荷は、想定範囲内。彼女は……耐えているな」


背後に控えていた王家の影役が、一歩だけ前に出た。


「ですが殿下。これ以上は――」

「問題ない」


即答だった。


「彼女は“防御役”だ。世界の歪みを受け止める素質がある。試さずに判断する方が、よほど無責任だろう」

「しかし……このようなあからさまな討伐数、防御の魔女殿も不審に思うのでは……」

「思っているだろうな。彼女は察しがいい。その上で討伐命令をこなしているということは、エルネスティ・ライゼンを抑えた上で彼女が動いているということだ。つまり、彼女は分かった上で王家の意向に従ってる。……都合がいいな」


そこには、学園内で彼女の友として過ごす柔和さはどこにもなく、どこまでも執政者としてあり続ける、王家の威厳しか見えなかった。

影は自らの王の覚悟と、ヒヤリとする程の冷静さに顔を青くしながら口を閉ざす。

反論は許されていない。


デリックは友としてスフィアの気質を知っている。彼女は個を救うより群れを救うことに気を傾ける人間だ。デリックと同じで。

だからこそ、王家を不審に思いながらもデリックの判断に追従することをその行動で示している。

デリックが注視すべきは、スフィアではない。スフィアを酷使したことでエルネスティ・ライゼンが我慢を忘れ王家に牙を向くことだ。彼は個を――スフィアを救うことにその命を賭けている。

猛獣はスフィア以外に手綱を握れない。

しかし、それを含めて今スフィアは役目を担っている。


尚、報いなければいけない。彼女の覚悟に。


デリックはまた息を吐く。

感情を口にする気はなかった。言い訳も何一つしたいとも思わなかった。

理解者が欲しいとも思わない。王族とはその責任に見合い、孤独だと彼は知っているからだ。


別の書類に目を移しながら、デリックは淡々と続けた。


「スタンピードは偶発ではない。魔獣側に何らかの“圧”がかかっている」


原因は未確定。

だが、兆候は揃っている。


「……賢者の動きも追え。準備ができたら、聖女を合流させる」

「承知しました」


影が退いた後、執務室にはデリック一人が残された。

机に手を置き、ほんの一瞬だけ、視線を落とす。

そこに映るのは報告書ではなく――医師の診断書だった。


父王の病状。

回復の見込みは、薄い。


まだ秘匿にされているが、公表するのも時間の問題だろう。

王位継承は、既に決まっている。

問題は、継承時期だけだ。


何もかもが早すぎる。想定していたよりも。


「……私ももう」


瞳を一つ瞬いて感情の色を完全に消す。


「幼い学生のままではいられないからな」


その声は、どこまでも無感情だった。


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