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魔法使い飼いの魔女ー防御の魔女と攻撃の魔法使いー  作者: 田山 白
第一章 魔法使い飼いの魔女
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第一話 防御の魔女と攻撃の魔法使い

防御のスフィア・ダール。

攻撃のエルネスティ・ライゼン。

そう呼ばれる私たち二人はこの軍事国家、ハイゼールにおいてのパートナーである。


広大な国土と、豊かな自然。恵まれた気候。

そして、他国でも類を見ない魔物の出現率。

この豊かな国が軍事国家としてあるのは、他国からの侵略対策というよりも魔物が日々出現することに由来する。豊かな土地というのは、魔物も育ちやすいのだ。


この国では平民・貴族関係なく皆一律に学校に通うことが義務化されている。

義務期間は三年、以降の進学は個人の自由意志だ。一般教養もそこそこに教えるが、何よりも教えるのは防衛術。

魔力があるものは魔法学を、体術に長けたものは武術を、目立った適性が見られないものは魔物の生体学を――魔物から自身を守る術を学ぶ三年間になる。


私とエルネスティは同い年で、学生の身ではあるが同時に軍の討伐隊に所属している。

討伐隊は部隊として行動する者、私たちのようにパートナーとして行動する者や、単身で任務にあたる者と様々だ。

個人の適性によって形態は変わる。私とエルネスティがパートナーとして登録されたのは十四歳の頃……つまりもう三年以上となる。




――派手な爆発音が鳴る。


土埃の中で舞った細かな石の破片が、ぼんやりしていた私を責めるよう軽く当たった。


「スフィア、終わった」

「……ええ、お疲れ様」


エルネスティが軽く手を振りながら、こちらに近寄ってきた。

表情を緩めながら、彼を見る。


私たちの役割は明白だ。

私が魔物を拘束し、エルネスティは拘束された魔物を討伐する。もしくは、エルネスティが攻撃し魔物を弱らせたところを私が拘束し捕縛する。


今回の討伐対象であったワイバーンの群れは、今やもう丸焼き状態だ。

あらゆる攻撃魔法に特化したエルネスティであるが、討伐で使う魔法は火魔法が多い。火、というか、もはや火力があり過ぎてほとんど爆発魔法といっても過言ではないのでは?という有様だ。

抗戦した林の一角は木々が薙ぎ倒されている。

援軍ということで付いてきた王国軍の一団は、ほとんど見せ場がなかったどころか、暴れ回ったエルネスティについて行けず、火力に逃げ惑う場面さえあったが。

……まあ、時間が短縮できているから良しとしよう。

あまり小言を言うと拗ね始めるから、小さなことは目を瞑るようにしている。


硝煙を風魔法で軽く払うエルネスティに、軽い息をついて近寄る。

その時、首を垂れていたはずのワイバーンが僅かに顔を上げたのが視界に入った。


考えるより早く、杖を振る。


最後の一噛みと、ワイバーンがその口に溜めた火球を吐き出すより、私が防御魔法を展開する方が早かった。

火球よりも大きいシールド魔法を貼り、弾いた火がそのまま閉じるようシールドを外側に丸く覆う。

キュポン、と間抜けな音を立てて火球は封じ込められ、消失した。


エルネスティがヒュウと口笛を吹くのが合図になったよう、周りに控えていた団員たちも息を呑んだり、私に向かって称賛を口にしたりする。

それに軽い会釈を返しながら、エルネスティの下へ駆けた。

頬が泥やワイバーンの血液で汚れている。それを遠慮なくゴシゴシ擦っても、エルネスティ自身に傷はなさそうだ。


「怪我、ないよね?」

「おかげさまで」


ほっと息をつく。

されるがままだったエルネスティは「心配性め」と私の頭を苦笑いしながら撫でてきた。


「けど、……やっぱりそろそろヒーラーもパーティーに加えた方がいいかもね。私もエルネスティも得意じゃないし……」


前々から思っていたことを口に出す。

今までは致命傷を喰らったことはなかったが、着実にエルネスティと討伐命令をこなしてきた中で段々と任されるレベルも上がってきている。

二人だけで討伐していくのは、気安さはあったが、そろそろ限界かもしれない。


最後の力を振り絞った火球が外れ、ついに事切れたワイバーンを見ながら言う。

エルネスティから気が逸れた瞬間、彼が右手を掲げたのに、気付くのが遅れた。


「……俺もスフィアも怪我してない。ヒーラーなんていらないだろ?」


――ドォオン、と地響きのような重圧魔法がもう亡骸になっていたワイバーンに降りかかる。


ワイバーンは悲鳴を上げることもなく地面にめり込む。その巨体に見合った質量のある体が、数センチ埋まる。

メリメリと音を立てて巨体が押さえつけられるのを呆気に取られ見て、エルネスティを見上げた。

明らかな魔法の無駄遣いだ。

しかし、彼は私が見上げたことに満足したようにニィと口元を引き上げる。

私の耳元に顔を近づけて、もう一度「いらない、な?」と繰り返した。


低く、一見すると甘く聞こえる声。

けれど裏側にエルネスティの静かな怒りを感じ、背筋にゾクゾクしたものが駆け上がる。

震えそうになるのを誤魔化したくて、エルネスティの胸元を押す。エルネスティは喉で笑いながら呆気なく離れた。

……からかってる。

面白がるような顔を軽く睨みながら、それでもエルネスティが望むままに「わかった」と言ってしまう。情けないことだけど。


私の返答にエルネスティは満足したように、今度こそきちんと笑ってからと首を差し出すように私に頭を垂れた。


「わかればいい。………ほら」


慣れたように私に首を曝け出す。

細いが、しっかりと筋肉があるその首を曝け出され、いつものことだが何かとてつもなく後ろめたいことをしている気になる。

だが、これは仕事の一環なのだ。


浅い息をつき、エルネスティの無防備な首に手をかざす。いつまで経ってもこの瞬間が苦手な私の動揺をエルネスティは敏感に感じ取ってくつくつと喉奥で笑っているが、無視だ無視。

抵抗しないエルネスティの首に、魔力の制限魔法をかける。

一瞬、エルネスティの首周りが光って、それから光の輪が彼の皮膚に溶けた。

私の魔法が、彼を縛ったのだ。


「………ん、いいよ」


エルネスティに言えば、顔を上げてにこりと笑った。

先ほどまで派手な爆風を巻き起こした人間とは思えないほど、繊細な顔の作りをしているエルネスティがにこりと笑う。笑顔だけ見れば、爽やかだ。

手触りの良さそうな銀髪がさらりと風に揺れ、綺麗なグリーンの瞳がキラキラ輝く。本当に、これだけ見ると貴公子のよう。後ろはワイバーンの丸焼きだけど。


エルネスティは私を労るよう、面白みもない私の赤茶の髪を撫でる。

子供扱いしないで、という意思を込めて雑に払えばエルネスティはくつくつと笑う、動作をする。先ほどとは違い声は漏れない。

私が制限魔法をかけたからだ。


――魔法使い飼いの魔女。


私たち、というよりも私を嘲る人間はそう私を呼ぶ。

エルネスティに私がかけるこの制限魔法が理由だ。


昔のエルネスティはそれはもう魔力操作が壊滅的に下手で魔力暴発や、魔力を垂れ流してしまうことによる魔力枯渇が多かった。

普通に魔法を使っても、魔力調整ができない攻撃魔法はとても危険だ。冗談でも誇張でもなく、彼の実家は、一度彼の魔法によって一画が焼けこげたことがある。

そんなエルネスティに私が初めて制限魔法を課したのは九歳の頃。決して出来の良いものではなかっただろうけど、魔力の相性が良かったのだろう。彼の魔力を制限することに成功したのだ。

彼の魔力暴発にほとほと困り切っていたライゼン夫妻に大変感謝され……そのままの流れで彼専用の制限魔法使いになってしまった。


私は攻撃魔法はからきしだが、魔力操作が得意だ。防御魔法、結界、拘束魔法に特化している。

対してエルネスティは国内でも随一と言われる爆発的な魔力を有しており、天才的とも言われる攻撃魔法の使い手だ。が、魔力を抑えることと防御魔法は得意ではない。


そのため、私が彼に魔力制限を掛けたのだ。

そして、エルネスティは魔力を暴走させる危険因子から、見目麗しい貴公子と周りからの評価が変わった。

私によって制限されている魔力は、討伐依頼が入った時だけ私によって解かれる。

制限魔法が解かれればまるで鬱憤を晴らすよう、派手に蹴散らして国へ成果をもたらす。彼の評価は鰻登り。顔のいい貴公子から、素敵で無敵な魔法使いとなった。


対して私は、制限魔法をかけている側の魔女だ。しかも私自身の攻撃魔法は役に立たないから、対魔物戦では彼を前線に立たせて討伐させている。

私が現在彼に掛けている制限魔法に至っては、余ある彼の魔力の他に声まで奪っているのだから尚更外聞の悪さに拍車をかけている。

故に、彼の自由を奪い、且つ顎でつかう冷酷非道な魔女……に見えるらしい。

冷酷非道という部分はデフォルトが無表情で無口なためだ。つまり社交性もない私の噂はどんどん一人歩きし、結構露骨に侮蔑の表情を向けられることも多い。主に同年代の女の子に。


でも、そもそもこの魔力制限はエルネスティもライゼン夫妻も、更には国も同意の上なのに。

国が認めてパートナーになっている意味を、周りは少し考えてほしい。


しかし、上辺だけ見て非難してくる人間に割く時間も勿体無い、と噂を放置している自分も悪いということも分かっている。

おかげでエルネスティの評判と反比例して、私の評価はどんどん悪くなっていく。


浅いため息をつきながら、エルネスティと共に歩き、帰途を目指す。背の高いエルネスティと平均よりも背が低い私では歩幅に差があるのだけど、エルネスティといて私は歩みを急いだことはない。

そういう節々を見てもらいたいのだが、至って良好なパートナーなのだ、私たちは。互いが足りないことを補い合って、信頼しあっている。……いや、やっぱりこんなこと、小っ恥ずかしいから他人に上手く説明できないな。

少し火照る頬を俯き気味に隠したはずなのに、エルネスティはすぐに気付いてグイグイと、割と容赦のない力で突いてくる。痛いので叩き落としながらエルネスティを見上げれば、予想通りのニヤニヤとした笑みを向けられていた。


素敵な魔法使い、エルネスティ・ライゼン。


しかし、そんなエルネスティは私にだけは結構意地悪いところがあるのだ。

新連載です。元々短編で書いて気に入っていたものを、長編版にリライトしました。

宜しくお願いします!

(初日のみ二話投稿、以降ストックが切れるまで一話ずつ投稿となります。)

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