感謝短編【情報屋】
D【全シリーズの感謝短編】に掲載していたもの。
なんとか編集や修正作業が終わったので、各作品に振り分け。
タイトル『抑制に戸惑い』
side:恵・登場人物:荊・慧
放課後、慧との待ち合わせに選んだ中庭。
木陰に入り、“表”で集めた情報をまとめる。
「恵!」
他校……しかも中等部の制服で、周りを気にしながら近づいて来る荊。
再会して、近づいた距離に俺は戸惑っている。
環境に慣れた荊の自然な笑顔。
「……迷惑だったかな?」
俺の微妙な態度で、荊が不安そうな表情に変化した。
お互いが過剰な深読みをしているのかな。苦笑をしてしまう。
「慧と待ち合わせなんだよ。」
仕事なのだと伝えると、状況を理解しての苦笑を荊が返す。
「恵……慧が来るまで、近くに居てもいい?」
「約束の時間まで、10分……ベンチに行こうか。」
目立たない木陰に設置されたベンチを指差しながら、荊の手を引いた。
「荊、多分……慧は近くに居るよ。だから約束の時間までね。」
笑顔の俺に、頬を染めて何度も首を縦に振った。
そして可愛い微笑みを見せる。
握った手は、汗ばんでいるように感じる。
俺の緊張が伝わるのかと思って、戸惑いに不安が付きまとう。
何気ない会話。荊の学校生活を聞いて、嬉しさと愛しさと……深まる想い。
自分が近くに居ない時間を寂しく感じ、近くで見ている誰かに嫉妬する。
入る情報で満足が出来ない。それでも触れるのは、この手だけで満足していたい。
求める欲求に際限がなく……荊に嫌われてしまう。
言葉を発して動く唇に、視線も逸らせず。
慧は、約束の時間より早く来る。慧が近くに居るんだ……
自分を抑制するように何度も思い返す。
荊は俺の気持ちを、どこまで理解してくれるだろうか。
「恵、時間が気になるの?」
荊の悲しそうな表情に、どう答えて良いのか迷う。
荊の手を引き寄せ、手の甲に口づけする。
「俺は、君が大事だ。大切にしたい。」
俺の正直な想い。
視線を向けると、今度は泣きそうな顔。
「……だから触れてくれないの?私は、もっと求めて欲しい。」
駄目な自分。結局、荊に言わせてしまった。
『ごめん』荊を抱き寄せ、謝る言葉を呑み込んだ。
抱き寄せる力が加わる。これで気持ちが伝わるなんて、無理な話だ。
俺は、卑怯に逃げ道を探す。
「野茨も、近くに居るよね?」
荊からの反応は、身を固め……微かな震え。
俺は何度も、心の中で謝る。
罪悪感に痛む胸……それ以上に傷ついた荊と、真っ直ぐ向き合う。
「……帰るね。」
「あぁ。」
次に会う約束はしない。寂しさの漂う荊の後姿。
「慧、居るんだろ。」
「はい。」
近くの木の上から飛び降り、姿を見せる慧。
「答えてくれ……俺は卑怯だよね。」
慧は、首を横に振っただけ。答えを返さない。
「抑制出来ないんだ。誰かの為を思い、願うのは純粋な動機……なのに、結果は大切な人を守れない。傷つけるのを恐れて、深い痛みを与えているんだ。自分の弱さに、君たちの想いも利用した。ごめん……」
謝る俺に、慧は珍しい笑顔を見せた。
抑制に戸惑った結果……
タイトル『豹変』
Side:荊・登場人物:恵
恵と同じ冬北高校に合格して、任務に追われる日々。
役員の出入りする壁を飛び越え、着地した。
ふむ、まだ身のこなしに問題はない。
成長を続け、最近バランスを保つのが難しい時がある。
壁を見上げ、満足げに校舎の方へと方向転換。
ん?偶然、恵と遭遇した。
恵は私を見つめ開いた口を閉じて、頭を抱えて座り込む。
どうしたのかな、もしかして調子が悪いの?
慌てて走り寄ると、恵は勢いよく顔を上げた。
「荊、ちょっと来なさい。」
珍しく、怖い表情の恵。
あら?手を引かれ、強引な彼にドキドキしているのが分かる。
木の下、刈り込み前で伸びきった芝生の上。
「正座ですよ!」
何故、こんな事になったのかな?
目を鋭くし、私を射抜くように見つめ。そんな初めて見る表情に、心奪われた。
普段、優しい恵の注意は穏やか。私は気遣いの溢れた彼が好きだ。
今日の恵は、怒りが露わで感情を手に取ったみたいで満たされる。
「荊?」
え、話が終わったのなら原因が分からないんだけど??
「何かな?」
私の質問返しに、とぼけたような表情の恵。可愛いよね。
おや?恵の無理に笑った笑顔。私も、少し引きつった笑顔を返してみる。
「塀を飛び超える事を禁じます!」
「え!?唯一ID認証で飛び越えOKの壁なんだよ?」
一番の近道を奪われると、私が不便じゃない。
恵は口早に語りだす。耳を傾けると、入って来た言葉は……
「荊の下着が見え、俺は」
何だ、問題はソコかー。
「いいでしょ、ここは役員しか……」
私の口答えに、恵の何かが切れたのか、怖い表情で睨む。
【キュン】
この場面で、このトキメキは恵の普段見せない表情のせいだよね??
何だか悔しい気がした。
私の気持ちも知らず、延々と語り続ける。苛立ちに、恵の口を手で塞いだ。
恵の鋭い目が、急接近した私を睨んで訴える。
「うるさいのよ、恵……」
目力に負け、視線を逸らしながらも反抗的な態度を示す。
【ガリッ】
痛いっ!?
視線を戻すと、恵が私の手の甲に噛みついていた。
噛む力が弱まり、口から手が解放され、戸惑いながら噛み痕を確認。
涙目になる自分が情けなくて腹立つ。
恵の怒りが理解できず、自分の怒りも消化不良。
涙目で睨むと、恵が真剣な表情で一言。
「俺の言う事を、聞け!」
ドロドロの感情が、一瞬で浄化された。
恵、カッコイイ……優しさに甘えていた。こんな厳しさを見て、彼の想いを味わう。
もっと、見せて欲しい……
「大好きよ、恵……愛しているわ。」
end




