side:恵
side:恵。
昼の休憩時間。
情報収集で共に居た慧が気配を感じ、静かに下がる。
「ケイ、聞きたいことがあるんだけど。」
幸せそうな笑顔の敬一。照れながら近づいてくる。
「上手くいったんだな?」
「あぁ。」
敬一が恥ずかしそうに笑う。
「結南の女生徒が情報をくれたんだ。瑠衣が泣いていたって。泣かした相手が、お前だっただけで……嘘はついてないぞ?」
「確かに俺が泣かしていた。色々と周りにも迷惑をかけたというか、見守られていたのかと思うと恥ずかしい。」
二人にとって良い時期だった。荊の手柄だ。
「で、付き合っているふりをしてくれていた彼氏……意外と紳士だったんだけど。良くない噂は嘘だったのか?買収の話も!」
敬一が気になるのは瑠衣の安全。護る者を今まで以上に意識する。
きっと俺の最近の荊への想いも、それに近いのだろう。
「良くない噂は、墨が絡んでいるから。俺からは黙っておくよ。」
敬一は瑠衣の絡んでいない冷静な時なら、見抜けただろう。
瑠衣が選んだ、自分に指一本触れない安全な相手。
敬一は俺の横に座り込み。
「……気づいていなかったのは俺だけ?」
墨まで絡んでいたんだからな。
側近から内緒にされてしまう主従関係。きっと、これから構築されていくのだろう。
にっこり笑って返す。
「そうだな。瑠衣の気持ちなんて、初対面の女の子でさえ気付く。けど干渉するには、ちょっと複雑すぎた。」
「他の子にもか……俺は瑠衣が絡むと駄目だな。」
今のままでは守れない。
けれど側近や学園の庇護のもと。何かあれば、俺も助けになれるだろうか。
「敬一。他の男が瑠衣に近づかなかったのは、兄貴のお前が怖かったから。なのに出来た彼氏に干渉しないから。みんながチャンスを狙いだして買収騒ぎさ。」
「全部、俺のせい?」
「だな!」
どん底まで落ちたような表情の敬一と俺の前に、静かに現れる墨。
「……墨か。買収騒ぎはどうなった?」
「敬一様の……彼氏撃退で、みんな落ち着きました。ぶふふ。」
笑いを堪えきれず、墨は報告して噴出した。
珍しい主従関係。
「……そうか。」
敬一は、うなだれる。
「面白く、拝見“だけ”いたしましたよ。」
やはり墨も計画の協力者だったか。
「そうだよな、お前って……。何もせず、楽しんでいたんだな?俺を見て。」
「さ、敬一様。お父様に電話で報告する時間ですよ。くくく……楽しみですね。」
墨は楽しんでいる様子。
「うるさい、分かっている。……ケイ、またな。」
二人は並んで歩いて行く。
敬一、墨がどう協力したかなんて俺の口からは言えないよ。
瑠衣の彼氏の本命は、墨だ。
だから安心して瑠衣を任せられたし、情報屋の俺以外の誰も、彼氏の本命が誰かなど知る事なんて出来ない。
瑠衣は、お前が反対しなければ情報屋になれるだろう。
観察力・情報収集力が優れ、利用の仕方も上手い。惜しい人材。
残念だけど、裏は安全ではないから諦めよう。
二人の関係は、これからどうなるのか。
父親の反応次第かな。ま、ハッピーエンドには違いない。
父親は、二人の気持ちを知っている。墨が絡んでいるのだから。わざと仕事で、家を二人だけにして。
でも想いが通じた後は、事情も変わるかな?
敬一から、どうなったか。また聞けるのが楽しみだ。
幸せなら……それで良い。俺は何も望まないで生きているから。
「メグ、私……役に立てたかな?」
階下から、荊が顔を出して小さな声。
俺は手招きして、笑顔で答える。
「荊、お手柄だったよ。今回の情報は、スピードが命。よくやった!ご褒美は何がいい?」
俺の言葉に、安心したような笑みを見せて走り寄る。
「何でも良いの?」
「あぁ、なんでもいいぞ。金でも物でも!」
「……汚いな、大人の世界って。ふふ。時間ちょうだい、考えるから!」
無邪気に、俺に飛びついてくる。
「あぁ。ゆっくり考えろ。」
荊が何を望むのか興味がある。出来るだけ叶えてやりたい。
「そうだ。荊、お願いがある。ある人に届け物をして欲しいんだ。」
「了解!……で、なに?」
ずいぶん浮かれているな。
これから危険な仕事が増えるだろう。慧も、常に荊を守ることが出来ないだろうし。
「表の警備。卯佐美 凌子に、この封筒を渡して欲しい。」
「……初めて、残るもの渡された。大丈夫なの?」
「あぁ、暗号で連絡の確認だから。頑張れよ。」
荊は裏の仕事がどんなものか、知っているんだ。
海外で、どんな訓練を受けたのか。
「メグ。ありがとう!」
照れて、赤くなった顔。
誤魔化すようにクルっと回り、後ろ姿。
「信用してくれて。」
小さい声だった。
「……何か言った?」
とぼけてみる。
荊は振り返らないで、手を振りながら。
「任務に向かいます!」
走り去る。
可愛いな。
君を守りたいと思う気持ちに嘘はないんだ…………




