取り残されたまま……
朝、悪夢は続いていた。
母の記憶が戻らなかった……。
春花は、朝早くに学校へ出たらしく……あれから言葉を交わしていない。
雪花の記憶があるのか、直接確かめたい!
雪花は……学校にいるような気がする。
私の記憶も、本当に消えるのだろうか……?
校門を通り、校舎を抜けて……校庭へ向かう。
学校の敷地内に、寮が併設されている。
まず、そこに行くつもりだった。
『風の通路』学校で有名な出逢いの道。
『出逢うべき二人に風が吹く』らしい。
【ザァ~ッ】木々が揺れた。
【リンッ】後ろからの鈴の音に、振り返る。
通って来た校舎側の入り口に、三人の姿。
……春花がその中にいる……校舎の陰にある噴水の方へ、行ってしまった。
誰と一緒なのだろう?とにかく、話をしなければ……。
噴水の水は、裏庭の池に流れている。
その水の通路に沿って走った。
いた!春花と一緒にいた男子生徒が、私に気付く。
右手を私に向け……その手に稲妻?!!
「間守、止まれ!」
珍しく大きな、春花の声。
……稲妻?は消える。
春花のおかげで助かった……?間守君……乱暴だよ……?
「加羅、どうしたの?」
「雪花の事を訊きたくて!」
「……記憶が……?」
よかった!春花も覚えているんだ。
喜びもつかの間……。
「時始様、離れて下さい!」
間守君が剣で、私と春花の間に距離を作る。
時始様……様……?これ、剣……だよね……??
呆然とする私を、突風が包み、通り過ぎる……。
「瞬守、どうだ?」
「部外者。」
女の子、瞬守ちゃんは報告する。
そして「これ以上、深入りするな。」と、釘を刺す。
春花は目を逸らし、行ってしまう。そして、二人が後をついて行く……。
知ってしまった。何か解らない……何かを。
関わらないなんて、無理だ!!
春花に近付くのは、難しくなった。
……私は部外者。雪花は、まさか……関係者……?
捜さなければ……春花たちより先に!!
とにかく走った。
登校してくる人、通る先生たちに、雪花の事を訊いた。
やはり、覚えている人はいない……。
科学準備室の前を走り過ぎる。
「加羅、どうした?」
「海辺先生!あの、雪花を知りませんか?」
「見てないけど?」
……覚えている人がいた!
安心したのか、涙が出そうになる。
「中に入って話そう。」
私は、母や学校の人たちから、雪花の記憶が消えた事を伝える。
「時役使は知っているか?」
時役使……?
「春花の事を……間守とか瞬守って人が、時始様と呼んでいたけど……それですか?」
海辺先生の話
「時役使は、『時の流れを守る』役目を持つ者。桜野家も、その家系だ。聖花未来宝石……パンドラの箱の中身と言う人もいる。人の願いから力を得て、その人を操り、時を変える……。雪花が持っていたのは、多分……それだ。春花は、時を守るため……役目に目覚めたんだろう。聖花を封印できるのは、時役使……だけだから……。」
雪花が、操られているかもしれない……?
私は……何故、役目を持っていない……?いや、違う!!
「何も出来ないと思う……。けど、二人の所へ行きます!」
私は、その部屋を出た。
先生は遠縁……だから詳しいのかな……?
科学準備室を出た正面に、噴水が見える。あれ……?奥に、人影?
春花達……また、あそこにいるんだ。
何か、叫ぶ声?が……春花に何かあった?!
非常口から出て、駆け付ける。
「時始様!」
やっぱり!春花、体調が良くないんだ。
春花は、右腕を押さえている。
その右手に、赤・青・緑……三つの輪が光り輝いていた。
何故だ……?
間守君と瞬守ちゃんは、離れた所から近寄ろうとしない。
「春花!!」
ふらついた春花の体を、近付いて支える。
「加羅……お願い……。」
私は支えきれなくて、春花を腕に抱いたまま座り込む。
それでも、二人は近づいて来ない。
「二人は時役使だから……近づけないの。」
「だったら、石井先生を!」
春花は、首を横に動かし、左手で私の腕に触る。
「時間がないの。お願い……これを……」
右手のモノを、私の左手に渡した。
「イリスを……雪花の持って……る……聖花に………を止め……て……」
春花……?
腕に抱いた春花は、息をしていない……
「春花ぁ~~~~~~~」
託されたイリスが、左手に光る。
「私は認めない……。時始様の代わりなんて、認めないからな!」
瞬守ちゃんが泣きくずれ、間守君が支える。
……ごめん……。近づけない二人は、どれほど悔しいだろう。
「時始は、私が預かる。」
全身黒い衣装……右手には、ガラス水晶。
初めて見る……声からすると……女の子……?
光が辺りと、春花を包む。
次に目を開けたときには、腕にいた春花も……周りも……誰もいない……。
ただ、イリスだけが私の左手に……




