日常
現在
「春花ぁ~~」
何故、こんなことに?何故だ!!
私の腕に抱かれた彼女は、息をしていない。
託された〔イリス〕が左手に光る。
「お前なんて、認めない!」
春花と一緒にいた女の子が、遠くから叫ぶ。
隣には、あのときの男の子。
「時始は、私が預かる」
後ろからの声。
初めて見る。全身黒い衣装の……女?
光が、辺りと春花を包む。
私の手にいた春花……周り……誰も、いなくなった……
未来
「主任、娘さんは帰ったんですか?」
ニヤニヤした部下に、訊かれた。
「いや、来ていないが……?」
【ドンッ】衝撃と共に大きな爆発音。
警報とアナウンスが続く。『火災発生……原因不明。第二課にて……』
逃げる職員への指示や、叫び声で部分的にしか聞こえない。
「主任、娘さんが第二課に行くのを見たんです!」
「何だと!」
急いで、逃げる人の波に逆らい道を戻る。
「バレンタイン……だから……と……」
部下に、振り返り叫ぶ。
「気にするな。早く逃げろ!」
……時が来た………
過去
男の子が欲しかった。自分の研究を引き継ぐ者……。
生まれるのが女の子だと知っても……男の子の名前しか考えなかった。
男の子として育てた。
ある時、研究材料だった宝石が私に問う。
『願いは何か……』
朝、専業主婦の母に見送られ、学校へ向かう。
桜野加羅高等部二年生の女。
名前は実父が、男の子が欲しくてつけたと聞いた。
行動や考え方は、男に近いと思う。
「加羅、髪の短いのが……」と、手を伸ばす春花
「身だしなみは整えて」は、雪花
二人は戸籍上、同い年の私の姉妹。双子と……養女の三姉妹。
いつも通りの日々が続くと思っていた……
「……ッ」
春花が咳き込む。
昔から体が弱かったけど、最近……特にひどい。
「保健室に連れて行くわ……。」
面倒見のいい雪花にまかせ、見送る。
「はよっ」
爽やかに近付いて来る科学教師。海辺改25歳の独身。
「何か困ったことがあれば、必ず力になるから……。」
そっと、他の人に聞こえないように……真剣な表情で言う。
桜野家の遠縁だからか、優しい。
その時は、あまり気にしていなかった。
まさか、日常が壊れ始めるなんて……思いもしない。
保健室
昼休み。春花が戻らないので、様子を見に行く。
「石井先生。春花は……」
【ドンッ】開けたドアと、走ってきた雪花にぶつかった。
「ごめん……」と、目も合わせず行ってしまう………
泣いていた?!
「春花!」
春花に何かあった?
(この時、雪花を追いかけていたなら……。犠牲は少なかったのだろうか?)
「大丈夫ですよ。」
先生は、母から連絡が入り、春花は家に帰ったと説明してくれた。
雪花が、どうして泣いていたのか……説明はない。
石井玲25歳の独身。
大学附属の病院の先生が、保健室に勤務している。
……まさか……?
家
2階の一番奥の部屋。
「春花、入るよ?」
声をかけて、ドアを開ける。
「うっ、……うぅ……ぁ……」
春花はベッドで右手を押さえ、苦しんでいる。
「どうした!ここが痛いのか?」
慌てて駆け寄り、春花の右手を見る。
押さえる右手にあざ……?何だこれ……三つの輪が重なったような。
「これ……?」
青ざめた顔の春花。
「大丈夫、落ち着いたから……」
あざを左手で隠しながら言う。
そして……
「加羅、しばらくの間……一緒にいられないと思うの。」と。
意味が分からず問う私に、春花は……「それ以上は言えない……」と、黙り込む。
知ったところで、何か出来ただろうか……
春花の部屋を出て、立ち尽くす。
【コトッ】 階段に近い、雪花の部屋から物音。
帰ったのか……?雪花なら、春花の事を何か知っているかも。
「雪花?」
ドアを開ける。が、中は部屋ではなかった。
そこだけが別の空間のように広がり……闇……。
その中に、雪花が立っている。
右手に、赤く光る……花の形をした宝石のようなモノ……?
それが闇を照らすのか……それとも、闇を作り出しているのか……
「……まだ、記憶がある……か……」
呆然とする私に「ごめん」
小さな雪花の声と共に、砂嵐が視界を遮る。
次に目を開けた時は、物の気のない部屋になっていた。
……異常だった……。
「母さん!母さん……」
慌てて1階に下りる。
夕飯の準備をしながら、母は……どうしたの?という顔。
「雪花が……」
説明できないでいる私に、母は言った。
「……誰だったかしら。お友達……よね?」
………。
雪花の食器は、準備されていない。
………。
『まだ、記憶があるか』雪花の言葉……
夢?悪夢だ……夢なら、覚めてくれ!!
日常は終わった。
何かから、取り残されたまま……あの日が、近づいて来る。




