探していたモノ
『見富 奏子様。あなたが持っている大切なモノを、確認に参ります!チームA』
学校は大騒ぎになった。
朝、奏子の下駄箱に予告状が入っていたこと。その内容が校内に知れ渡る。
まさか奏子が。俺は信じられなくて。
でも思い出してみれば確かに。
俺はシンに助けられてきたのに、何もしてやれなかった。
和也は知っていたんだ。だからあの時、2人の間の空気が緊張していた。
俺は自分が情けなくなる。
どうして和也は俺に言ってくれないのか。奏子も。
シンを失った悲しみは、みんな同じだった。
それなのに。俺は支える温かい手に依存した。
「優貴、励治さんには連絡したから。大丈夫、危険はないわ。大切な者を、今度こそ護ろうね!」
正義感の強いシンと同じ資質の綾。君に救われるなんて。
そうだな、もうこれ以上は。大切なものを奪われてたまるか。
水泳部のプールサイドで、奏子と待ち合わせ。
「奏子、こっちだ。」
近くに来るよう呼んだ。
奏子の手にはノート。
「優くん、ごめんなさい。私、どうしても言えなくて。」
奏子の目に、大粒の涙。
相談した和也でさえ、あんな反応になるのだから。仕方がない。
「いいんだ、何の役にも立てなかった俺が悪い。奏子、ごめんな。辛かっただろ。ずっと言えなくて。和也は何て言っていた?相談したんだろ。」
「うん。でも、私」
「見富!」
会話を妨げる声。
俺たちは声のする方に視線を向ける。
「綾部先生?」
綾部 俊之先生。
水泳部の顧問。ノートの探し主。
俺は奏子を後ろに回して、護る。
「さ、そのノートを返してくれ。水泳部のタイムの記録だろ?」
そう。中身は一見、普通の記録に見える。
綾部が探していた、闇取引に関する記録。
「綾部、どうして殺した?何故だ!」
そしてシンを殺した人。
コイツが。
「何のことだ!」
綾部の表情は、異常な形相に変わっていた。
緊張が走る。
「残念だな。このノートは偽者だ。本物は、もう警察の下にある。あきらめて答えろ。何故、シンを殺す必要があった?」
綾部は開き直ったように、話し出す。
「邪魔だった。俺の裏でしている商売を知られて。俺に、何度も何度も警察に行くようにと。」
シンの正義感。
「あの日も、屋上で話していた。つい感情的になって。俺は焦った。殺したことじゃない。シンが隠してしまった証拠を見つけないと。消さないと。」
綾部の目が瞬きなく、俺たちを見る。
ぞっとする寒気。身の危険を知らせる。
「そうだよな、消してしまえばいい。そうだ、すべて。」
綾部が俺たちのほうに、殺意を持って近づいてきた。
待機していたチームA。
麗季ちゃんが、後ろから攻撃に出る。
軽い体重に、綾部はよろけた程度。
感情的な綾部が麗季ちゃんを振り払い、プールに突き落とす。
「麗季!」
綾の声と同時で、男がプールに飛び込んだ。
その間にも距離を縮める綾部に、俺は構え。
奏子にもっと下がるように指示して。
近づいた綾部は柔道の技で投げ飛ばした。一瞬のこと。
受け身も取れず、綾部は痛みで動けなくなり。
数人を引き連れた励治さんが捕獲した。
おいしいところを盗られた気分だ。
「優くん、大丈夫?」
奏子は青ざめ、体が震えている。
「大丈夫だ、それに。」
「奏子!」
待機していた和也が人をかき分けて走り寄り、颯爽と現れ説明も不要。
和也は奏子を抱きしめ。
「俺じゃ駄目か?シンの子どもも、大切にするから。」
予告に書いた『大切なモノ』
シンは知っていた。奏子のお腹に子どもがいること。
だから進学ではなく就職先を探していたんだ。
プールに落ちた麗季ちゃんも、飛び込んだ男性が助けて無事。
とはいえ、心配して近づいた。任務用の軽装とはいえ、服が重いだろう。
「大丈夫?」
麗季ちゃんに手を差し伸べた。
目に入ったのは。
【ドキッ】
服が濡れ、大きな胸が更に強調されている。
つい顔が赤くなり、視線がさ迷う。
「見るな!」
助けた男性が叫んで。麗季ちゃんを支えたまま。
俺の差し出した手を払い、睨む。
この学園の制服を着ている。
これも捜査のだろうか?
俺の見守る中、男は水から上がり。麗季ちゃんの手をとって引き上げた。
自分の濡れた制服で、麗季ちゃんの胸元を隠すように覆う。
「あぁ、ヒツジくんか!」
俺の言葉に、驚いた表情を見せ。
視線を上に、考える仕草。
「嵐の関係者?」
「あぁ、嵐の兄。多河 優貴です。」
さっきまでの表情が和らいだ。
俺は、自己紹介で照れた笑いになる。
「太西学園 高等部一年。聖城 羊二です。あなたが、綾ちゃんの」
中世的な美形だな。
ヒツジくんの柔らかい笑顔。
事件は無事に解決した。




