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綾は俺に座るようイスをすすめ、窓を少し開けて換気する。
「シン君、私のこといつも護ってくれて。なのに、あまり友達に紹介してくれなかったの。こっそり、優貴や和也さんを見てたんだ。ふふっ。」
写真と同じ笑顔で笑う。
あぁ、あの視線の先には兄のシンがいたんだ。
「で、話って?」
可愛いベッドの上に腰掛け、俺の下心など疑いもしない。
なんて無防備な。しかも、おばさんは不在。
「優貴?」
「あぁ。これ!本当は、あのヌイグルミから出てきたんだ。励治さん、役員なら知ってるよね。彼が周りに気をつけろって言ったから、とっさに隠したんだ。ごめん、黙ってて。」
本当は、大切だと言っていたから嫉妬していたんだけれど。それは黙ったまま。
ヌイグルミとメモを綾に渡し。
「『I 背泳ぎ』このIは私よ。」
小さいメモを見て、顔を上げ。
少し陰る表情。
「え?」
何故、綾がIなのだろうか。
RIN。
「シン君はSINで、S。母は藍で、R。私もRは判りづらいからI。小さいとき、兄と決めた暗号なの。母は、子どもに自分と同じ二文字の『○ん』にすると決めていたみたいで、それでシンとリンなの。でも、この『背泳ぎ』って。」
綾は無防備にベッドに寝転がる。
【ドクンッ】
自分の抑えていた何かに触れる。
下心有り。二人きり。
天井を見つめる綾に、そっと近づきベッドに手を置いた。
しかも逃げられないように。
「何、優貴?」
「ふふ。気にしないで。」
思わず笑みがもれてしまう。
やっと察したのか、綾は俺の手を押し退けようと抵抗を始めた。
逃がさない。
綾の細い手首。掴んで引き寄せる。
怯えたような視線。
それでも抵抗はなく。俺をじっと見つめて、何かを訴える。
悪戯したくなるよね。
綾の手のひらにキスをし、綾を見つめまま様子を観察。
すると頬を赤くし、俺を睨んできた。
可愛い。
きっと、どう反応していいか分からないんだ。
悪戯心も含んだナニカ。
手のひらを舐め、舌先で掌から手首に滑らせる。
【ビクッ】
可愛い反応。一層赤く染まった頬や、少し潤んだ瞳。
駆られるような衝動。
「ダメ。」
そう言いながらも拒絶はない。
調子に乗ってしまう。
綾の手をベッドに押し付け、唇にキス。
柔らかい。もう少し触れてもいいだろうか。
服の中に手が入る。
すると服の上から、お腹に手を当てて静止を促す。
「恥ずかしいからイヤ。」
小さな声。
誘っているのか?
「大丈夫。恥ずかしくないよ。」
こんな言葉を、囁く日が来るなんて。
「でも」
恥らう姿に我慢できず、強引にキスをした。
ギリギリの理性?で、考える。どこまでOKだろうか。
胸に触れた瞬間。
「……っ……痛い」
そんなに強く触ったつもりはなかった。
「ごめん。」
手を上着から出し、狼狽えてしまう。
綾は顔を赤くし、視線を逸らす。
「あの……成長中で。その……今、触られると痛いの。」
初めて知る。当然だよな。綾は小学生。
そんな年齢の女の子に手を出した男がいたとしても、会話には出さないだろうし。
「……痛い」
もう胸には触れていないのに、綾は天井を見つめて呟いた。
「え?」
「優貴、思い出した!」
いい雰囲気が一気に消える。
大きな声で、いきなり起き上がり。そして天井を指差した。
「昔、シン君がスイミングスクールに通ってて!このベッドでシン君が泳ぐ真似したの。その時、手が私に当たって。泣いた私を慰めるために、宝物を隠そうって!この部屋の天井に。」
小さい頃、イスを使ってこのベッドの上に。
綾がイスを押さえ、フラフラしながら天井に宝物を隠すシンの姿。想像がつく。
大きくなったシンの身長なら、ベッドの上から届いただろう。
「綾、退いて。見てみよう。」
近づかないと気が付かない程の隙間。
天井の板を押し、覗き込んだ屋根裏。
最近、触ったような手跡。と、奥に小さなお菓子の缶詰を見つけた。
取り出して、綾に手渡した。
「これよ!」
綾は目を輝かせ、幼さの残る笑顔。
どんどん深みにはまるようで、戻れなくなる自分にため息。
綾は受け取った缶詰を開ける。
「優貴、これシン君からのメッセージかな?」
中には、また小さなメモ。
開くと、そこには。『S』とだけ記されて。
Sはシン。
「シン君の部屋!」
綾が叫ぶ。
俺たちはシンの部屋に移動し、荒らされた時には難を逃れたソレを見つけた。




