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ハサミ、いや縫い目が細かいからカッターが良いだろうか。
机の引き出しからカッターを取り出し、刃先を少しだけ。
ヌイグルミ自体に傷をつけないよう縫い目にカッターの刃を当て、解いていく。
【カサッ】
古い綿の中から小さなメモが出てきた。
そこには『I 背泳ぎ』と書いてある。
意味は分からないが、これはシンのダイイング・メッセージだろうか。
明らかに隠されたメモ。誰に宛てたのか。
この文章は暗号だろうな。I?奏子ならS。綾はRだよな。
背泳ぎ?水泳部なら何かわかるだろうか。
明日にでも遠回しで聞いてみるか。
綾も何かを探していたよな。これか?
でも『例のところには無かった』と。どこのことだ?
俺は勝手に、鍵の閉まっていた水泳部のロッカーだと思ったのだけど。
綾に、このことを話したほうが良い?
いや、危険に巻き込みたくない。
きっと部屋を荒らした犯人を捜す手がかりになるだろう。
一体、シンは何を隠し持っていたんだ?
……殺されたのだとしたら。
【コンコン】
窓ガラスのノック音。
外から?
2階の窓に、風にしては規則的な音。
カーテンを開ける。
「綾?」
チームA。黒い軽装の綾が、ベランダにしゃがんで下から見上げ。
可愛く微笑む。
「入れて?」
甘えるような声に、疑問も抱かず。
鍵を開けて招き入れる。無意識だった。
「へへっ」
幼い感じで無邪気に笑う綾。
窓から入った拍子に、髪からいい匂いがする。
「駄目だ、早く出て!」
俺は焦る。
こんな夜の時間。俺の部屋に、好きな女の子が誘うような香りを漂わせ。
自分の理性を抑える自信が無かった。
そんな俺を気にせず、部屋を見渡す綾。
そして机の上のヌイグルミを見つけた。
「これ!私がシンくんにあげたヌイグルミ。何故、優貴が持っているの?」
「預かっていた水泳部のロッカーにあった荷物の中に入っていたんだ。」
「……そう。」
綾が作った物。古いヌイグルミ。
シンと綾の付き合いは、どれだけ長いんだ?
「縫い目を解いて……中に何か入っていたの?」
綾の視線がヌイグルミに逸れたタイミングで。
俺は手に持っていたメモを、隠すようにズボンのポケットに入れた。
「いや。もしかして?と思ったけど、何も入ってなかった。解いてゴメン。」
シンに嫉妬していた。
中にあった物が何だったか告げれば。
もしかすると綾なら暗号も分かるかもしれない。
入っていたヌイグルミを作ったのは、綾だから。
駄目だ、こんな状況でまじめな話なんか出来ない。
「綾、どうして俺の所に来たの?今日はもう遅い時間だ、話は明日にでも」
【グイッ】
綾は、俺の着ている服の胸座の辺りを掴んで引き寄せ。
【チュッ】
軽いキス。
柔らかい唇の感触に、俺の頭の中が真っ白になった。
綾は涙ぐみ、頬を赤くして俺の胸に顔を埋める。
「綾?」
動悸が速くなりながら、シンに対する嫉妬心が胸の痛みに変わる。
綾に嘘をついた事が、俺の理性を補う。なんて皮肉なんだ。
「言って、何を隠しているの?いつもの優貴じゃない。」
「綾、俺」
【コンコン】
今度はドアのノック音。
「優、入るぞ~?」
嵐だ。
まずい、こんなところを見られたら!
「嵐、まだ開けるな!待て!」
慌てる俺の視界の端。
綾は慣れた感じで、慌てることなく。冷静に。
窓を開き部屋を出て閉め。ベランダの手すりを越えた。
さすがチームA。
傍観する俺。
「優~?何だよ、大きな声出して。机の上も散らかってるし。珍しい。慌てて……さては、エロイのを隠してるのか?」
何故か嵐の目が輝く。
俺は、綾の様子がおかしかったことより嵐の将来が不安になった。
「何、しに来たんだ?」
「宿題だけど?」




