シン
限界まで走り続け、シンの家に到着した。
そして少し離れた道の角に、綾の姿を見つける。
「綾。」
俺の小さな呼びかけに、綾は身を固め。俺を見つめて立っている。
距離を詰め。
「綾、お前達チームAの仕業なのか?」
「いいえ、彼は私の大切な人。そんな事はしない。」
言っていた大切な人って、シンのことだったのか?
だけど。
「綾、そいつには他に大切な人がいた。」
俺は、奏子のことを綾に言ったりして卑怯だ。
「知っている。でも、私の大切な人に変わりはない。事件は私の手で解決する!邪魔をしないで。」
悲しい表情。
シンが羨ましい。駄目だ、なおさら君を護りたい。
「危険なことはしないで。シンは、君が危険なことをするのを絶対に望まない。知っているだろ?大切な人の考え方ぐらい。」
シンは、いい奴だ。正義感が強い。そのためには、どんな無茶もする。
そこに惹かれたのだろう。けれど。
「綾、俺は君のシンと同じ資質に惚れたんだ。失った俺の近くにあった、懐かしいモノが君の中にある。そうか。君は大切に思っていた人に憧れて、無理していたんだな。」
綾は泣きそうになりながら、必死で我慢して。
「違う。無理なんかしてない!シン君は私を、いつも護っていてくれた。大切な人なの!」
後ずさり、俺から離れ。
拭ってあげたいのに、涙は零れ落ちる。
「綾……」
引き止めることも出来ず、走り去る彼女の後姿を見つめていた。
シン……お前は、どれだけ罪作りなんだ。
奏子に、綾の心。
俺の中でも、お前の存在がどれほど大きいか。
ポッ……ポツポツ。
ザーッ。
突然の大粒の雨。
立ち尽くす俺に、傘が差し伸べられ。
振り返ると。
目が赤い。泣いた痕のある奏子。
俺はそのまま濡れてもよかった。
頭を冷やすことが出来たかもしれないのに。
「中に入って。警察も、検証が済んでいるし。」
「奏子、また警察に何か言われたのか?」
俺の質問に、首を振るが。
涙が溢れて零れ落ちる。
「大丈夫。今日、一日病院にいたの。」
奏子は、そう言って口を閉ざし。
シンの家のインターホンを押した。
「おばさん、久しぶり……」
シンが亡くなって、ここには葬式以来。
おばさんは少し痩せた。顔色も良くない。
「上に、和也君もいるのよ。」
俺と奏子は2階に上がる。
おばさんは悲しそうな表情で、下から見ていた。
シンの部屋のドアを開ける。
「なっ……何だ」
言葉を失う。この惨状。
部屋は、すべてがひっくり返ったように混沌としている。
誰が、こんなことを。
「ユウ。これ、酷いだろ?何も盗まれてはいなかったらしいけど。」
シンは綺麗好きだったし、物をあまり置いていなかったのに。
ここまでになるなんて。何かを探したような。
窓の鍵の位置が割られ、侵入経路が分かる。
机の上に文具が散乱し。クローゼットのシンの服が、かき乱されている。
きっと亡くなってから触ることも出来ず、そのままの状態だったはずのもの。
大切なものが、こんな風に扱われて。
おばさんが見つけた時のことを想像しただけで、胸が苦しい。
犯人に憎しみがわく。
こんな犯人に、綾は挑むのか。
危険だ。俺が見つけてやる!絶対に許さない。
「私、もう家に帰らないといけないの。また明日、学校で。」
帰ると言うのを俺だけに向けて。
いつもなら送ると言い出すはずの和也は、奏子を見ようとしない。
「あぁ……気をつけて帰れよ。」
2人の間に、不思議な空気が流れていた。
「大丈夫、親が迎えに来てくれたから。」
部屋の中から、階段を下りる奏子を見送り。
和也は、ため息を吐き。イスに座って、ずっと考え事をしている。
「和也?」
声をかけるが、反応はなく。ずっと黙って上の空。
何かあったのか?
俺は、荒らされた机上や引き出しの中を注意深く捜した。ノート。
綾部先生は、水泳部の記録のノートが無くなったと言っていた。
それらしいものは無い。
机周りや床にも色々なものが散らばり、ノートは見当たらない。
犯人が見つけて、持って行ったのだろうか?
それともシンは持っていなかった?
シンは……誰かに殺されたのだろうか……




