内面
気が付けば、昼休み。
あの後は始業のチャイムに現実へ戻され、教室に戻った。
そこまでは覚えている。授業は覚えていない。
「はぁ。」
大きなため息が出る。
「多河、ちょっといいか?」
教室の入り口に綾部先生の姿。
和也は、先生と奏子のやり取りを知らない。奏子は和也に、何も言わなかったみたいだ。
「今、行きます。」
何の話だろう?
廊下に出た俺に、紙袋を渡し。
「これ、シンの荷物だ。合鍵を捜すのに時間がかかって。すまない。」
「あぁ、いいですよ。わざわざ、すみません。ところで先生、朝は奏子と何を話していたんですか?」
気になったことを、ストレートに聞いた。
「あぁ。いや、この荷物のことだ。他にも、残っているものがあるのか聞いていたんだ。」
他?
そんな質問で、奏子があんな感情的になるものだろうか。
「他に……何を探しているんですか?」
俺は水泳部のマネージャーから聞いたときも、初めて荷物が残っていることを知った。
感情が追いつかず、そこまで気が回らなかったのもあるが。
「いや、水泳部の記録をつけて貰ったノートが消えてな。あんな物、誰も欲しがらないはずなんだが。いや、俺が無くしたのかもしれない。合鍵も、結局出てこなくて。」
合鍵も出てこなかった?
顧問として責任を問われるから、必死になっていたんだろうか。
「どうやってロッカーを開けたんですか?」
綾部は、言いにくそうに答える。
「いや、接触かな?今日、部員が隣のロッカーを勢いよく閉めたら開いたらしい。」
接触?
俺は力を入れて開けようとしたけど、しっかり鍵が掛かっていた。
「じゃあ、俺は次の授業の準備があるから。」
俺は、アヤの言葉が頭に浮かんだ。
『例のところには無かったから』
まさか、シンの事件なのか?
誰も欲しがらない水泳部の記録。
チームAの任務が何なのか。
『大切な人のためにしている』
疑われている男が、護りたい奴なのか?
アヤ……俺は、君にとって何だ?
君は小学生。どこまで。俺の思っている気持ちと、同じだろうか?
イライラする。
朝は自分の気持ちだけで、スッキリしたのに。
放課後。屋上に足を運んだ。
一時間、ただ考え事をしていたけどアヤは現れない。
「健気ねぇ。」
声に反応し、柵を見上げる。
「麗季ちゃん?」
新体操をしているからか、もともとの運動神経なのか。
軽やかに、綺麗なフォームで着地。
麗季ちゃんも今回は高校の制服を着て、立っていた。
「ふふっ。似合う?」
そう言って、嬉しそうに回転して見せる。
「あぁ。不自然なほどよく似合っている。」
これはヒツジくんも悩殺されてしまうのでは。
麗季ちゃんは、俺の考えをお見通しみたいに妖しく笑う。
「聞きたいこと、あるんでしょ?」
「あぁ、いろいろ。」
正直な俺に、彼女は色っぽい微笑み。
「ふふっ。彼も、そんな風に素直になって欲しいな。」
「ヒツジくんだっけ?」
俺の言葉に、一瞬動きが止まる。
「くすくす。なるほど、加河……嵐のお兄さんなんだ。ヒツジじゃなくて、羊二よ。」
「麗季ちゃんは、どこまで」
俺は言葉を止めた。
小学生に、何て質問をしているんだ。俺は。
「あらぁ~?どうして、口を閉ざすのかしら?どこまで?気になるわよねぇ?これから、手を出すつもりなのねぇ?」
俺は、恥ずかしくて顔が赤くなる。
小学生に優位に立たれた。
「ふふ、ごめんなさい。八つ当たりしちゃった。私だって年相応なの!」
麗季ちゃんは子どもっぽく、無邪気に笑う。
そして、どこか視線はさ迷うようで。その憂いは大人びている。
「つい、大人っぽく振舞うのは彼に少しでも追いつきたいから。あ、羊二に会ったとしても内緒にしてね。……言ってもクールだから気にしないか。」
強がっていても不安と戦っている。
俺がヒツジ君と話したいと思っているように、麗季ちゃんは俺と話がしたかったのかな?
「一生の相手なんだろ?」
「多分ね。大上家の噂は知ってる?」
「あまり詳しくは。」
和也が、昔に言っていたような?いや、女の子達が噂していたのか?
記憶は無いに等しい。
「大上家に呪いがあってね。一生に一人しか愛せないの。大上家の存続のため心を手に入れる方法がある。彼は、私のことを好きではないかもしれない。」
悲しそうな笑顔。
心を手に入れる方法があるのに、好きではないかもしれない。それは。
君に何て言ってあげればいいのか分からない。




