恋敵
『失うのは簡単。手に入れて、大切にすることがどれ程大変か』
アヤの心に、今いるのが俺なら。
ふさわしいかどうかを決めるのは、世間ではない。
5歳の年の差。来年、アヤは中学生。
麗季ちゃんの想い人、ヒツジ君は歳の差をどう思っているんだろうか。
話をしてみたい。
それと。アヤの頬にキスしやがった奴に、挨拶を入れないと。
相手は中学生か。大人げないとか、言っていられない。
朝。何だかスッキリとした気分で目覚めた。
気分がとても良い。きっと自分の中で、方向性が見えたから。
立ち止まっていてはいけない。
いつもより早く登校すると、校庭や校内に人があまりいない。
部活の朝練の声が聞こえる。
教室に向かう廊下で奏子を見つけた。
誰かと一緒で、話をしている。
ん~?綾部先生?
深刻そうな雰囲気に、足を止めた。
内容までは分からない。けれど、わりと大きな奏子の感情的な声が廊下に響く。
いつも穏やかな印象だったから。珍しいな。
俺は遠くから呼んでみた。
「奏子~?」
俺の声に、二人の動きが止まる。
「優くん?」
小さい声で振り向いた奏子。顔色が悪い。
そして綾部は、いそいそと立ち去った。
奏子に走り寄る。
涙ぐむ奏子に、何があったのか聞いたが首を振るだけで答えない。
綾部の奴。一体、奏子に何を言ったんだ?
「奏子、大丈夫か?」
震える彼女を、俺は支えていた。
涙の止まらない彼女に、どう接して良いのか分からず立ち尽くす。
視線を感じ。
ふと、気配のほうに目を向けると。
アヤ?
俺は更に言葉を失った。
彼女が、この高校の制服を着て立っていたからだ。
妄想?幻覚?
俺の思考が混乱する。
アヤは方向を変え走り去った。
本物だ!
「ユウに……奏子、どうしたんだ?」
朝練が終わったのか和也が丁度いいタイミングで現れ、奏子を任せる。
「悪い!和也、奏子を頼む!」
俺はアヤが走り去った後を追い。
姿を見失ったので屋上を目指した。
予想通り。
階段を駆け上る音が近づき、後姿を見つけホッと一息。
屋上。いつもの場所。
「アヤ!」
呼びかけると、彼女は立ち止まる。
けれど後ろ姿のまま、振り返らない。体が震えているように見える。
まさか、泣いている?
「アヤ?」
そっと近づいて手を伸ばす。
「触らないで!」
涙声だった。
我慢できず、強引にアヤを抱きしめる。
抵抗する彼女の髪が、大きく揺れ。
涙を見せないように拭い、顔を逸らす。
アヤは俺と奏子を見て立ち去った。しかも今、泣いている。
自分に都合がいい事を考えてしまう。
「アヤ、もしかしてやきもち?」
「違う……私に触らないで。」
柔らかい体の温もり。今更感じ、幸せな気持ちになる。
アヤから体を離し、視線を合わせ。
「アヤ、俺と付き合ってくれ。」
素直に出た言葉。
俺の言葉に、アヤの見開いた目が驚きを表していた。
理解が追い付いたのか。
目が穏やかになり、頬が赤く染まって。首を少し傾げて微笑み。
「もう一回言って?」
小さな声。
可愛いアヤに、感情が抑えられない。
「君は嫉妬してくれないんだ?俺は嫉妬したのに。アヤに告白した奴が頬っぺたにキスしたって?」
戸惑うアヤの両頬に、口づけ。
どこにしたか分からないキス。記憶を塗り替えるように。
「ふふっ、くすぐったい。」
恥ずかしがるアヤをじっと見つめ。
もう一度、改めて気持ちを告げる。
「アヤが好きだ。誰にも譲らない。こんな気持ち初めてだよ。責任、取ってね?」
アヤの唇に、優しくそっと重ねるようなキスを落とす。
制服が高校のだからか、歯止めが利かない。
「アヤ、俺から離れて。」
自分から離れるのが出来なくて、アヤにお願いする。
「どうして?さっき綺麗な人と、あんなに近づいていたのに。」
「全然違うよ。気持ちがないのと、好きな子が相手なら。このまま受け入れてくれると勘違いすれば、止められなくなる。」
アヤは満足そうな笑顔で、頬が赤く染まる。
「もう、やめちゃうの?」
下から上目で見て。甘えるような声。
【ドクン】
鼓動が速くなる。
「もう、やめられないな。」
目を閉じ、俺のキスを待つアヤ。
唇を重ね、強く押し付けた。柔らかい唇が、俺を受け入れる。
「はぁ……アヤに触れて、独占欲が強くなる。もっと欲しい……おかしくなりそうだ。」
君は小学生。どこまでOKなんだ?
柔らかい体は、まだ成長中。けれど香りは女の子の匂いで俺を誘う。
「いいよ、求めて。応えるから。」
「アヤ、口を開けて。」
「はい、スト~ップ!」
【ビクッ】
可愛い女の子の声に、二人の体が固まる。
「麗季?」
「麗季ちゃん?」
視線を向けると。柵の上に腰掛け、俺たちを冷静な目で見ていた。
俺たちは慌てて二人の距離を広げる。
「ふぅ。これだから、お年頃の男は。」
ため息を吐きながら、軽やかに地面に着地。
あぁ、やっぱりチームAなんだ。
「アヤ、任務の途中よ。ふふっ。まさか忘れてないわよね。だって、これはあなたの大切な人のためにしてるのだから。」
麗季ちゃんの冷静な視線が、アヤに向けられ。
言葉は俺に突き刺さった。
大切な人の為?
「アヤ?」
呼びかけるけれど。アヤの表情は、さっきまでの女の子の顔ではない。
真剣な、真っ直ぐに向けられた眼。俺を見ていない。
「戻るわ。例のところには無かったから。」
業務的な報告の後、二人は柵を越えた。
俺の心を残して。
俺の恋敵は誰だ?
任務を、危険を冒してまで……




