嫉妬
俺はアヤを傷つけてばかりだ。
「……ごめん。」
「遅いわ、アヤには聞こえてないわよ!」
気配が無かった後ろからの声に、ビックリして振り返る。
そこには、嵐の好きな麗季ちゃんが立っていた。
「麗季ちゃん?だよね。」
小学生にしては背が高いほうだけど、アヤより小学生らしい高さ。
ただ胸が目立つ。
「はぁ……私の一生の相手も高校生なの。世間の恋愛基準なんて知らないわ。考えて?大人になったら、5つの年の差なんて可愛いものよ?何故、今は駄目なの?子どもだから?それは、誰が決めるの?失うのは簡単。手に入れて、大切にすることがどれ程大変か。」
麗季ちゃんの言葉を、子どもだからと聞き流すなら。
俺のほうが幼稚だ。
自分の気持ちと、アヤの気持ち。
麗季ちゃんも歳の差に悩んでいるのか、悲しいほどに感情的で。
「アヤは……。ま、いいわ。私が、これ以上言うことでもないし。」
麗季ちゃんも、アヤと同じように柵を飛び越えた。
二人組の女の子、チームA。
俺は、とんでもない秘密を知ってしまったのかも知れない。
あれ?嵐は、麗季ちゃんの相手を知っている?
だから年齢差を気にして釘を刺したのだろうか。
家で夕飯の時、俺は嵐を見つめながら食べていた。
「なぁ、優。俺のこと好きなのは分かるけど、あんまり見んな!」
当然だ。
瞬きも少なく、口をモグモグしながら。嵐を見つめ考えていた。
「悪い。……嵐、あのさ。今日、麗季ちゃんに会って。なんか、その。彼氏?か、好きな相手の事を聞いたんだけど。」
今日は母さんは俺たちの食事を準備し、父さんと仲良く外食だった。
気兼ねなく、会話できるとはいえ。どう切り出せばいいのか。
何故そんな場面になったのか説明もできないけれど。
「……あぁ、ヒツジか。」
不機嫌ながら、一言だけ。そして嵐は食べ続ける。
ヒツジ?変な名前だな。
「高校生なんだって?」
俺は、聞いてどうするのか。
嵐が答えてくれるかわからないけれど。
「あぁ。麗季の家、呪いがあるって有名なの。で、ヒツジが一生の相手らしいよ?」
『私には一生の相手がいるから』
前にも言っていた。
「あいつは本気みたいだし?俺は別に気にしない。」
小学生の嵐が、同じ男に思える。
子ども。それは誰が決める?
もう大人と同じ考え方が出来る。もちろん経験が浅い。
それは、どの年齢になっても年上から見たら同じ。
父と母の年の差は、10。
母さんが10歳のとき、父は20歳だったことになる。
今、二人は幸せで。出逢ったのがその頃なら?
俺たちは生れてきただろうか?
確かに『失うのは簡単』。
「アヤは……」
【ドキッ】
嵐の口から、彼女の名が出ただけで何故か後ろめたい気持ちになった。
「アヤちゃん?が、どうした?」
平静を装い問う。
そんな俺を見透かしたように、嵐は含んだ笑み。
「あいつ今日、中学生から告白されてたぞ。前からずっと断ってる奴だよ。断りきれなくて、付き合ったりして~~」
今までにない感情が湧き上がる。
渡したくない、闘争心のような熱を含んで。
「ふ~ん、可愛い子だったからな。」
内心とは裏腹に。
余裕を見せて、とぼけてみた。
「くくっ。ファンクラブまであるし?ちょっと前に、年上の男の人と噂になってたな~。そのことを誰かが聞いたら、嬉しそうに笑っていたっけ。」
俺は、新聞の隠し撮りの笑顔を思い出した。
その先にいた人だろうか?
彼女は、年上の恋に馴れている?
いや、俺が触れたとき震えていたし。
「優、あいつ大切な人がいたって聞いたことがあるぞ?年上の大人な人だって。俺は、あんまり興味なくて覚えてないけどな。」
嵐に、俺の気持ちがバレている。
心配そうに情報をくれるのが、なんだか情けない?
いや、嵐が大人と同じ考え方が出来て、成長した証拠なんだ。
嵐は麗季ちゃんの心に、他の人がいる苦しみを味わっているのだから。
『好きよ。』
『酷い。私の気持ちは、どうなるの?』
アヤの気持ち。俺の気持ちは。
「あ!そういえば。今日告白した奴が、アヤの頬にチュウしてたぞ。」
ブチッ。
俺の中の何かが切れた。
「で、アヤちゃんはどうしたのかな?」
余裕も消えて。
俺の殺気に、嵐は食べ終わった食器をかき集めて。
「べ、別に?俺は、その後を知らねぇ!」
逃げられてしまった……




