Side:須藤 敬一
Side:須藤 敬一
朝に弱い俺。
毎朝、瑠衣の声で目覚める。
「お兄ちゃん。朝だよ!」
【コンコン】
可愛いノック音が繰り返される、いつもの日常。
「あぁ、起きた。着替えて下りる。」
ベッドから離れ。いつもの場所、スタンド横にあるはずの眼鏡を捜す。
あぁ、昨日寝むれなくて本を読んでいたんだ。それから記憶がない。
それにしてはスタンドの電気が消えている。
眼鏡は読んでいた本に添えられ、机の上に置かれていた。
着替えを済ませ、1階のリビングへ。
「おはよう、瑠衣。……昨日、俺の部屋に入ったのかな?」
「うん、ごめんね。電気がついていたから。寝むれないなら、ホットミルクとか作ろうかと。」
「そうか、ありがとう。……気にしなくていいよ。電気は今後気をつける。」
椅子に座り、用意されたコーヒーを飲む。
それには丁度いい少しの砂糖が入っている。机の上には、お弁当箱が三つ。
……言えない。
彼氏の分と一緒に、俺の分まで用意してくれているのに。
「何?」
「……その、か……彼氏は、どうだ?」
不自然な父親みたいだ。
言うんじゃなかったと、後悔したくなる。
「うん、優しいよ。」
そんな返事を返されると、気をつけろなんて言えなかった。
詳しくきかれても困るし。
瑠衣は食器の後片付けを終え、エプロンを外している。
いつからだろう。瑠衣との時間が続かなくなったのは。
「お兄ちゃん、一緒に行こう?久しぶりに!ね?」
可愛くお願いする姿に、俺は断れるはずもない。
「あぁ。」
それこそ彼氏はどうしたとか……一緒に行かないのか聞いたら、釘をさせるだろうか。
分かっている、そんなことは。何だ、この言い表せない感情は。
「お兄ちゃんは……誰かと、付き合ったりしないの?」
予想外な質問に、びっくりする。
「……え?」
よほど間抜けな表情をしたのかな。
「あはは。そんな顔、初めて見た。」
瑠衣の笑顔を、久しぶりに見る。
「瑠衣。彼氏のことは何も言わない。ただ自分の身は大切にな?勉強も頑張りなさい。」
中学校は遠いので電車通学だ。
瑠衣を駅まで送り、学校へ向かう。
「はぁ。」
反省。
勉強のことにまで口出しして、俺はお父さんなのか……
「デカいため息だな。幸せが逃げるぞ?」
「夏、何で?」
夏は学校の寮に入っているはず。この時間に、何故ここに。疑いの目を向ける。
「女か……?」
「ヤダわ~。俺、好きになったら一途だよ?」
……そう。豹変するぐらい。
「知ってる。だから、お前は裏なんだよ。」
にっこり微笑む夏。
裏は、ある程度の……上級クラスの武術に長けた者でなければならない。
しかも悟られない慎重さが求められる。
「で、真庭のストーキングか?」
真庭 優香里。生徒会の会計。
しかし、女子寮とは方向が違う。
裏の役だとしても学業に影響のある時間には、違和感が。
何だろうか嫌な予感がして、思考を放棄したい。
「ん?ふふ……褒めて欲しいなぁ。ゴミ駆除だよ!」
「……。」
これが文字通りでないなら。
携帯のコール音。
「はい。……あぁ。処理してくれ。……言っとく。」
通話を切り、ため息を吐いて感情を落ち着かせ。
視線を夏に向けた。
「ん?」
可愛い笑顔を振りまいても、こいつだけは。
「ゴミ駆除は、生徒会長のことかな?」
「うん。……だって、あいつ優香里の髪に触れるんだ。知ってる?あの髪に汚い口をつけやがった。」
豹変した。さっきの電話は、病院送りの報告。
「ちっ、死ねばよかったのに。」
したことは良くないが。
「羨ましい。」
つい口から出ていた。
「おお、珍しい……やる?協力するよ、彼氏だろ!」
みんな知っているのか。
なんだか惨めだな。
「……嘘だよ。そんなに落ち込むなって。風紀委員会長様が、出来るわけないよね。でも後悔するよ?考えてみろ。彼氏が、瑠衣の体に触れてるところ……」
胸がざわつく。怒りが込み上げる。考えたくないことだった。
「ぷふ、いつでも言ってね。」
軽い調子で夏は去っていく。
その日一日、俺は記憶がないほどポンコツだった……
その夜。夢を見た。
瑠衣が男に抱きしめられている。
男は瑠衣の髪を撫で、うなじを押さえ……唇にキスをする。
もう片手は太ももからお尻、腰へ滑らす。
顔を、胸元にうずめ……のどからあごに舌を這わせ…………
男の顔は、俺?!
「うあぁあ~~。」
なんて夢だ。畜生!!
【コンコン】
控えめなドアのノック音。
「お兄ちゃん?大丈夫?」
どうかしてた。
ドアを開けるなんて。
「……お兄ちゃん?」
瑠衣は俺を心配した表情。それなのに、俺は。
可愛いパジャマの一番上のボタンが外れ、白い肌が見える。
さっきまで寝ていたのが分かる少し乱れた髪。
彼女の手首をつかみ、引き寄せて抱きしめる。
使っているのは同じ石鹸なのに……甘い匂いがする。
柔らかい。
保てるのか理性。……堪らない……
「瑠衣……」
「お兄ちゃん?」
現実に引き戻される。そう、俺達は兄妹だ!
血は繋がっていないとしても。父の不在時に、俺は何てことを。
「ごめん。」




