解決:励治と享子
警備事務室。
「ね~凌子、まだ怒ってるの?」
怒ってはいないけれど、甘やかすとまた邪魔されるから。
視線を逸らして、不機嫌を装う。少し反省して欲しい。
「ごめんって。朝のこと?それとも急な帰国?編入のことかな?……同じ学年になったことかしら?」
あまり無視をしていたら、泣きそうな顔をする。
姉なのに、ずるい。
「はぁ。全部よ、ぜぇ~~んぶ!」
「ごめんねぇ。」
本当に反省してるのか、とても怪しい。
【ガチャ】
ノックもなしで、ドアが開いて。
入ってきたのは励治。
「……俺、かなり疲れているのか。凌子が二人に見える。」
朝から何人に言われたか。
まぁ、励治が疲れているのはあると思うけど。
「励治、姉の享子です。」
すっかり励治のことを忘れていた。
紹介したものの。戸惑うかと思ったけれど案外、平気そう。
大人だからか、前もって誤解をといていたからか。
「享子ちゃん、久しぶり。君にとっては、はじめましてだろうか。何だか恥ずかしいな。」
享子姉は無言で見つめ。
いきなり立ち上がって、座っていた椅子を押し倒し。
励治に詰め寄って胸座を掴んだ。
そしてキス。
なんて急展開。
大人の励治、本気はどうした?
享子姉に強引なキスを受け、両手が宙をさ迷っている。
「享子姉、私が見えてますか~?」
あぁ、やっぱり励治が好みだったか。
あの雨の日も、男前って散々言っていた記憶。
「覚えているよ!だって、あなたに相応しくなったら戻ってくるつもりだったの。」
私、初めて聞いたんですけど?
「好き!」
積極的な享子姉は、励治に抱きついたまま。
甘えるように、ぴったり密着して。
励治に威厳や、威圧感もない。そんな状況で、事件の全貌を語り始める。
本当に探していた女の子が現れて、嬉しいのは分かるんだけど。
このまま享子の存在をスルーしちゃうわけね。
「注意喚起を受け、校長室には盗聴器が仕掛けてあった。前任の事もあるからな。まさか凌子の閉じ込めていた部屋が、奥の隠し部屋だとは思わず。情報屋の監視下で、よくも抜け道を次々と。謎も多くて、現場に踏み込むのに時間が掛かった。……しかし凌子、短いのも似合……っ。」
励治のわき腹に、享子姉の肘鉄が決まった。
「そういえば励治、享子姉は私より強いって言い忘れてたわ。ごめんね。」
「ごほっ。とにかく説明を続けるぞ。まず、武を体育館倉庫に呼び出したのは橘川 茉莉香。現場の【花冠】は、彼女のものだった。待っている武を襲撃したのが、蒼井 秀一。救急車を呼んだのが、氷上 美鶴。『髪切り』の第一被害者。その後『髪切り』が続いたから、警察は彼女を疑っていた。」
私の知らない間に、調査は進んでいたんだ。
「呼び出した橘川 茉莉香さんは、疑わなかったの?」
励治は少し苦笑いをする。
「警察は疑ったけれど、入院しても事件が続いたからな。安心したよ。」
私の疑問の前に、享子姉が励治の首を絞め。
ヤバい。マジギレモード。
「ねぇ。何人、女性に手を出してるの?」
「違う、まったく違うから!」
大人の励治が、これほどまでに余裕もない姿を晒すとは。
「こほんっ。良いですか、享子さん。これから俺が本気になるのは君だけだ。だから、事件の話に女性の名前が出ても邪魔しないで。」
おぉ、大人っぽいぞ。
いつもの調子に戻れるか。
「うん。キスしてくれたら、黙る。」
目を閉じ、キス待ちの享子姉。
私は、じっと二人を観察。
「……見るんじゃない。」
大きなため息を吐きながら、口元が緩んでいるのを私は見逃さなかった。
私も小さなため息を吐き。両手で目を隠す。
「どうぞ、気兼ねなく。」
事件は解決したのだから、少しの時間くらい大目に見なきゃ。
話も進まないし。
キスしたかな、もう終わっただろうか?
私は指の隙間を大きくして、様子見。覗きのつもりはなかったけれど。
「……ん。……もっと……」
あれ?大人の励治さーん、どんどん流されてるよ~?
なんだろうか、見てはいけない色気が漂い。
このまま(どちらかが)押し倒してしまうんでは?
「こほっ、こほんっ。」
咳払いをして、自分をアピールする。
享子姉の意外なところを見てしまった。
幸せそうに励治に抱きついて。
これは弱みになりそうもない。
ごめんね、武。これからずっと、からかわれるのは武だわ……




