『新聞部火災』
水樹をサッカー部員や武、要請した役員の警備に任せ。
私は生徒会室に向かった。
足を止めて、荒くなった息を何度か吐き。ドアを開ける。
「誰もいない。」
武が無事だったから、役員の役目などどうでもよくなっていたのは否定できない。
解任になったとしても、後悔などないから。
人の気配はないけれど、警戒しながら室内を見渡しながら部屋の奥に進む。
生徒会長の机に、見覚えのある武の携帯が置かれていた。
本当に、あの電話は水樹だったのだろうか?
【コンコン】ノック音。
振り返ると、そこには息を切らしたKの姿。
その後ろから、荊が顔を出す。呼んできてくれたんだな。
「凌子、無事でよかったよ。」
安堵したKの表情と、泣きそうな顔で何度も頷く荊。
「荊、Kもありがとう。早速だけど、情報をお願い。できれば水樹の情報を。」
Kは私から一度視線を逸らし、言葉を選ぶように連ねていく。
「蒼井水樹の情報が少ないのは、転校生だったからだ。学園が意図をもって呼び寄せた。生徒会には、推薦で入っている。」
学園の意図。
Kの様子からすると、多分それは私が触れてはいけない情報。手を出してはいけない禁忌。
「推薦は誰がしたの?」
「現役の妃だ。そして、緋……励治さんも了承している。」
それは信用の置ける人間ということ。
水樹は犯人ではない。水樹のケガは、犯人によるものと推測される。
「K……全部、知ってることを私に教えてくれるよね?荊がどうなっても知らないから。」
私は、荊の後ろから抱きついた。
「凌子さん、放してください!」
「凌子、どうして荊の……その。」
Kは顔を真っ赤にして、視線を逸らした。
私の右手が、荊の胸の前でグーパーを繰り返す。私は荊を人質……いや、胸質に取った。
触っちゃうぞ?との無言の圧力である。
「全部、包み隠さず話しますので。荊を、放してあげてください……」
荊は泣きそうな顔で私を見上げる。
「荊、ごめんね……。Kも、ごめんって。」
こうでもしないと、Kは教えてくれないだろう。
きっと励治に言い訳もできない。
「今、慧から情報が入った。過去の新聞記事すべてが管理ソフトに残っていると。」
燃えた新聞の記事も、見ることが出来る。
そこに事件の鍵があるだろうか。
「緋は、それを調べている。」
やはり励治は、私に内緒で捜査を進めていた。私に危険が及ばないように。
頭の切り替えがないと、事件が闇に埋もれそうだ。複雑に絡んだ複数の事件。
「緋は……励治さんは、犯人をまだ見つけていない。新聞の記事に答えがあるだとうと今、新聞部にいる。」
情報を漏らしてしまったKは励治に会うのは、控えた方が良いだろう。
落ち込んでいるし、荊との幸せ時間も与えてあげなきゃ。
「Kは荊と行動して。私は新聞部に向かう。」
二人と別れ。
新聞部に着くと、部室のパソコンを操作している励治と目が合った。
ちょっと怒った怖い顔。
「ちっ、Kか。」
ため息を吐き。察したような空気に安堵して。
「Kは悪くないよ。私が無理やり聞き出したの。ごめんなさい。けど、一緒に調査するって励治も言ったよね?」
励治は、私を見ない。
「凌子、覚えていないか……」
出逢ったときの事だろうか。
私は部屋の中に入り、パソコン操作をする励治に近づいて隣に立った。
「話して。思い出すかもしれない。」
「凌子、言っとくが。諦め悪いぞ、俺は!」
なんだか見透かされている気分。ついさっきの出来事さえ。
そう、もう気持ちは揺るがないことも。
真っすぐな視線を受け。
「俺の父は、麻生学園の理事長なんだ。役員の緋という立場なら、親父の力が及ばないと思っていた。結局、カゴの中だったんだけどね。それが絶望に感じた。俺の存在。親父から見たら、とても小さく……価値のないものだろうと悲観して。3年前……。雨の中、迫られていた選択肢を迷う崖っぷちに、傘を差し伸べたのが……凌子だった。」
3年前。私の役員推薦の前のこと。
傘……
「ごめん!それ私じゃない。」
何てことだろう。記憶には微かにあるけれど、身に覚えがないのは当然だ。
励治は意味が分からず。話していた内容が重かったのもあり、沈黙で。
慌てて説明に入る。
「その場に確かにいたんだけどね。説明すると、海外に留学している年子で姉の享子なの。一時帰国したとき、この学園を案内して。雨の中で享子が、落ち込んだ人に傘を差し伸べて何か言っていたわ。」
口早に告げて。
それが事実なのだと受け入れる時間の猶予は必要だろうか。
「落ち込むな~勘違いだったとか。一度、会わせてくれよ。」
「うん。私と、ほとんど変わらない外見だけど。私以上に頭がいいし、優しいよ?励治が知っている通り。」
私は励治の頭を撫でてあげた。
「……ふっ。結局さ。この仕事も、親父に反発して始めたけど。この学園が好きで離れられない。」
落ち込みはしたものの励治は、吹っ切れたのか笑みを見せ。
パソコンに目を向けて、作業を再開する。
「今思えば、確かに違和感があったな。でも、凌子に本気だったのは本当だ。」
「うん。」
励治は、一つの記事で画面をアップにする。
「凌子、これだ。」
「カップル成立?【花冠】の伝説の文化祭のイベント。この人……」
そこには水樹と、氷上美鶴さんの写真が掲載されていた…………




