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学園シリーズ14作  作者: 邑 紫貴
花冠の伝説
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【花冠】

side:凌子。


夕飯はぎこちなく。おばさんは察してなのか、詮索することもなく。

安心して家に戻ってきたけれど。


武のことを考えて。

寝ている私の頬にキスをした武は、ため息を吐いた。きっと励治が、私にキスしたことを思い出したのだろう。

この唇に……私は自分から武にキスした。武も答えてくれた。

私はずっと言葉が欲しかった。武は私が好きだと言ってくれて。嬉しい。幸せなのに…………





次の日の朝。

携帯のコール音で目覚める。


「え、新聞部が火事?……すぐ行くわ!」


簡単に身支度を済ませて、学校に向かう。

次から次に事件が増え。捜査が追いついていない。


もしかして私は励治の重荷になっているのだろうか。

そうかもしれない。安易に一緒に捜査すると言ったものの。私は。

励治が私に黙っていることの多さ。壁を感じる。それが不安を募らせた。

力のない自分に腹が立つ。


武を襲った犯人も見つからず。髪切り事件が連続し。屋上で武と同様の傷害事件。そして新聞部の火事。

警察も入って捜査をしているけれど。

学校の秩序が乱れ、生徒は混乱状態。先生は保護者からの問い合わせにも対応困難。

学園の下した決定は、役員以外の生徒は自宅待機となった。


私は警備の役員を集め、二人組みにして校舎内の見回りの区間をそれぞれに指示する。

校舎内にいる生徒が役員に絞られたとはいえ、問題の解決していない今。何を優先すべきか。


私は単独で、自分に振り分けた見回り場を順に巡り。

傷害事件のあった屋上に辿り着く。


警察の鑑識など終わったのか立ち入りの制限はない。

むしろ近づいていた文化祭を色濃く反映する数々の備品が、辺り一面に広がり。

ここで何かあったのすら、言われなければ分からないほどの日常。


準備のため、雨に対応した簡易テント。

その下に、大きな亀の形をした物がある。中には人が二人、入れるように造っているのだと聞いた。

中も確認しておこうかな。

亀に上り。


「よっと……。二人?狭いな。こんな中で、二人が何をするのかしら。」


「【花冠】の伝説だよ。」


私の独り言に、答えが返ってきた。

上から覗き込んでいたのは。


「会長……?」


ここで被害にあったのは、蒼井あおい 秀一しゅういち

同じ苗字の生徒会長。蒼井あおい 水樹みずき


「何、警戒してるの?ふふっ。今日は、食後だから安心してよ。」


軽い調子で、視線は鋭く。油断の出来ない相手。

この非常事態に、何をモグモグしたのでしょうね。

こんな狭い空間では分が悪い。私は外に出ながら。


「で?被害者とは、どういう関係なの。」


水樹は私に手を差し伸べたが、あえて取らなかった。信用できない。

亀から出て、その傍らに立ち。

気を利かせたのか、少し離れた位置にいる生徒会長の水樹。


「いとこだよ、俺の父親の姉の子ども。……まぁ、あまり話さないけどね。」


いとこ。苗字は同じ。

気になるのは。何故、ここにいるのか。犯人は一度、現場に戻ると言う。

屋上には見回りの私だけ。励治は見かけていない。荊は、この緊急事態で中等部に配属された。

Kは学校が違うし。武は役員ではない。身を守れるのは自分だけ。

相手は男。いつでも攻撃できるよう心構えをし。


「緊張されると、変な気分になるな。」


こちらの不安に対して、何がおかしいのか水樹は笑う。

どこまで本気なの?


「ウサギ、ヒントをやろうか?俺には犯人、分かるかも。」


「いい加減なことを。」


真剣な表情のまま、沈黙。

私はウサギじゃないし。笑ったかと思えば、今度は無言。どこまで。


「犯人は誰?」


「……俺。」


視線は鋭いまま。口元だけの笑み。

私は笑えない。……本気?いや、明らかに嘘だ。


「はぁ~……。疑っていたんだけど、なんだ違うのかー。紛らわしい!」


ため息を吐き。私は一気に言葉を連ねて。安堵する。

すると水樹の純粋な微笑み。


「ふっ。ウサギ、正直過ぎだろ!」


私が警戒していたように、水樹も私を試していたのかもしれない。

何となく水樹の一面が、見えたような気がする。


「あなたは、何を知っているの?」


確実に何かを知って、ここにいる。そう感じる。

本当に犯人に繋がる何か。


「あぁ。俺さ、絶対に凶器がここにあるって思うんだ。」


凶器がここにある。絶対……

もしそうなら、事件が解決するのでは。


「ウサギ、そこを退いて。……去年、ここに。」


去年?

私は亀の傍らから、数歩後ずさり。

水樹が亀の側面に手を掛け。窪みを探し当てる。

外観からは分からない、開閉の出来る収納スペース。


本当に確信があったのか、水樹は持参していた手袋をして。

奥の見えない収納部分に手を入れた。


「……あった!警察に連絡して、鑑識に回してもらおう。」


凶器が出てきた。やっと事件の解決に向かうんだ。

……去年……。【花冠】の伝説と関係のある亀。ここにも残された【花冠】のクッキー。

水樹は、本当に犯人を知っている?

見つかった凶器。亀の部品の一部だろうか。収納スペースに、凶器は隠されていた。


可能性は…………






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