捜査
次の日。
「凌子……。」
事件の捜査のはず。
励治は私を壁に押し当て、体を密着させる。
「あの……」
一番戸惑っているのは明らかに。
「荊が、一緒にいるんだけど。見えない?」
そんなのお構いなしの励治。
どうしていいか分からない荊が、顔を真っ赤にして泣きそうになりながら、周りをウロウロ。
「退いて。どうして私が荊を連れているか分かるよね?」
「分かっているよ。けど……まだ、諦めない。凌子、俺は本気でいくから。覚悟して?」
言葉の途中までは、落ち込んだような伏し目だったのに。
覚悟なのか。視線は鋭く私を見下ろし、首を傾げて。いつもとは違う色気の漂う声色。
心奪われる一瞬。
言葉を失い。見つめたまま。
「凌子さん!あの、後で来ますぅ~~。」
荊は颯爽と走り去る。
裏切り者。あなた……こんなことより、もっと恥ずかしいことしているでしょう?
こんな場面を見ただけで逃げ出すなんて。
荊のおかげで、少し冷静になれた気がする。
視線を逸らすことも出来たし。
励治の行動は予想外だった。
荊がいれば、控えてくれると思ったのに。
「逆効果だよ、俺を遠ざけようなんて。凌子……ね、俺のほうを見てよ。答えて……。」
だから、何故、そんな無駄な色気を出すんだろうか。
顎を引かれ、無理やり視線を合わせて。詰め寄る。
体温が伝わるような密着。
「な、何を……?」
励治の目は私を見つめ、心に入ってくるように感じる。
「ダメ。私……」
視線を逸らして抵抗し、励治を押して距離をとろうとしたが、動かない。
男の人に敵うわけがない。
「励治、どうして私なの?あなたは大人。こんな子供に、何故……本気なの?」
身を護るように睨んだ私に、そっと囁く。
「本気だよ。凌子が欲しい。」
甘い声。
私は武が好きなのに。まるで私を侵食していくように、励治の存在が大きくなる。
「駄目。嫌だ。私が赦せなくなる。やめて……」
励治は、優しく囁き続ける。
「いいよ、俺が赦してあげる。どうして凌子が罪の意識を感じるの?俺を好きになればいい。俺が護ってあげる。」
こんなにストレートな言葉。
心音が激しくて、息が出来なくなる。
誰か……
「……。いい加減、大人気ないですよ?」
この声は。
走ってきたのか、息が切れているK。その後ろで戸惑いの表情をした荊。
Kを呼びに行ってくれたんだ。
それに、ひいって?
我に帰る。
危ない、流されるところだった。
「K。緋って……学園の?」
学園の役員をまとめる代表。私を推薦した人……
「K、いい度胸だな。」
威圧感が増し、いつもの励治ではない。
「緋……私も引きませんよ。もう、あなたは……」
Kの緊張が分かる。
励治は、ゆっくり私から離れた。
「何だ?言えよ。K、俺がどれだけ凌子を大切にしているか、知っているよな?危険な目に遭わせた事を赦した覚えもない。」
「励治、Kを責めないで!……お願い……。」
自分の所為で、Kが悪く言われている。
今も、私を助けようとしてくれただけ。優しいKに、ひどいことを言わないで欲しい。
「上手くいかないな……。」
励治は私に視線を向け。威圧感も失せ。
悲しみの表情から、無理した笑顔。
【ズキ】
励治の傷ついた表情……心が痛み、どこか既視感。
「励治……」
「凌子、捜査に行くぞ。K、悪かった。荊、ついておいで。」
励治は気持ちを切り替えたのか、いつもの雰囲気に戻る。
何か言いたそうなKを後に、励治は方向を変えて歩き出す。
私と荊は後をついて行く。




