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A【学園シリーズ】情報屋Kの恋愛簿  作者: 邑 紫貴
花冠の伝説

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25/81

・・


私は病院までの道のりでパンフレットを読む。


『花冠の伝説……嬉しいことです。

当店のクッキー【花冠】が、告白の際に勇気を与えるものとなっています。

開店当初、客数も少なく新商品(バラの形のクッキー)に力を入れておりました。技術が必要でした。

一人の女の子が購入した日を、今も鮮明に思い出します。

彼女は、諦めかけていた恋に終止符を打つつもりだったそうです。

二人の恋は、永遠を誓い合う結婚に繋がりました。おめでとうございます。

そんな二人に憧れて、当店の【花冠】は皆様に勇気を与えてきました。

これからも【花冠】がたくさんの人の幸せや、勇気のお手伝いになりますように。』



病院。武の病室。


【コンコン】

ノックしたが返事はない。


寝てるのかな?また、どこかへ抜け出したのだろうか。

ドアを少し開けて覗く。


「入ったら?」


【ビクッ】


後ろからの声。

いつもより低く、視線を向けると少し不機嫌そうに見える。


「……うん。」


気まずい。沈黙が重い。いつまで続くのかな。何か言わないといけないけれど。

視線がまっすぐ向けられて。


「……旨そうな匂いがする。」


私を見つめ呟いた。


【ドキ】


何だか、色気を含んでいるような?気のせいだろうか。


「武……。“私”を食べたいのかな?」


私達の関係は。待っていては進まない。

武は何度か瞬きし、言ったことが理解できたのか見る見る頬が赤く染まる。


「……違うから。」


ちょっと怒ったように見える顔。

でも、私は知っている。これは困っている時の表情。


「……いいよ。食べて……」


私は、ベッドに座っている武に近づく。

じっと見つめる視線。

私は両手を武の肩に置き、上半身を武の体に近づけ。片膝をベッドにのせて。


「凌子……。」


私を見上げた武。上目で、閉じ気味。

私も唇を近づけながら、目をそっと閉じていく。


【ガチャッ】

急にドアが開く音。


「失礼するぞぉ~~。」


入ってきたのは励治。

私は慌てて離れ。


二人の慌て方。平然を装うが不自然。

励治が気付かないわけがない。


「病院は、治療を受けるところだぞ~?武ちゃん、いい子にしていましょうね。」


励治は敵意のある言葉を選んで、武を子供扱い。

武が気にしていること。

大人の励治に対しての劣等感。


武は複雑な表情をしている。私の心も痛い。

何が最善なのか。


励治は髪をかき上げ、ため息を吐き。


「悪かったって、武。俺は、お前のことを認めている。一人の男として憎いくらいに、俺の中に存在している。本気で来いよ?油断していると大切なものは、俺が手に入れるからな。」


真剣な表情のまま。


「……いい匂いがする。」


励治はクンクンと、部屋を見渡しながら。


「あ、クッキーの匂いかな?」


鞄から出し、自然と武に渡す。


「うまそ~~。」


武はいつもと同じ、他の食べ物を渡した時と変わらない様子。

励治は、私の肩に手を置いて。


「分かってないよ、こいつ。」


私も【花冠】を知らなかったくらいだからな。

素っ気なく、励治の手を払い。


鞄の中から別の市販のお菓子を取り出して、励治に渡し。

私もそれを口に入れる。


励治は武が食べているクッキーを指さし。


「それ、現場に落ちていたクッキーと同じやつだ。」


事件の情報。クッキーは【花冠】。

きっと武を好きな女の子が、事件に関係している。


【ポーンポーン】

『面会時間が終わります……』


放送が静かに流れた。


「あ、凌子。明日、退院になったんだ。回復が早くてさ。けど一応、学校は休むから。」


良かった。もう退院できるんだ。


「うん。明日、早く終わるし……家に」


会話の途中。


「凌子。明日は約束通り、一緒に捜査するよな?」


自分が、無理やり約束したのを思い出す。


「……うん。」


あぁ~ぁ。今日、せっかくいい雰囲気だったのに。

自業自得だ。


「励治、私は先に帰る。ついてこないでね!」


「いや、遅いから送ってもらえよ。大人な励治は卑怯な事をしないはずだから?」


子ども扱いの仕返しだろうか。

武が、どこか変わったように思える……





その日、二件の髪切りが発生した。

襲われたのは、どちらも結南学園の生徒。髪の長い女の子。

武の目撃も、髪の長い女の子だった。


髪切りの恐怖に、学園内の女の子たちが次々とショートにしていく。

もし事件に関係する女の子も髪を切ってしまえば、手掛かりが遠退いてしまう。

髪をショートにした子の情報も集めつつ。

クッキー【花冠】は、事件に関係するのだろうか……




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