・・
私は病院までの道のりでパンフレットを読む。
『花冠の伝説……嬉しいことです。
当店のクッキー【花冠】が、告白の際に勇気を与えるものとなっています。
開店当初、客数も少なく新商品(バラの形のクッキー)に力を入れておりました。技術が必要でした。
一人の女の子が購入した日を、今も鮮明に思い出します。
彼女は、諦めかけていた恋に終止符を打つつもりだったそうです。
二人の恋は、永遠を誓い合う結婚に繋がりました。おめでとうございます。
そんな二人に憧れて、当店の【花冠】は皆様に勇気を与えてきました。
これからも【花冠】がたくさんの人の幸せや、勇気のお手伝いになりますように。』
病院。武の病室。
【コンコン】
ノックしたが返事はない。
寝てるのかな?また、どこかへ抜け出したのだろうか。
ドアを少し開けて覗く。
「入ったら?」
【ビクッ】
後ろからの声。
いつもより低く、視線を向けると少し不機嫌そうに見える。
「……うん。」
気まずい。沈黙が重い。いつまで続くのかな。何か言わないといけないけれど。
視線がまっすぐ向けられて。
「……旨そうな匂いがする。」
私を見つめ呟いた。
【ドキ】
何だか、色気を含んでいるような?気のせいだろうか。
「武……。“私”を食べたいのかな?」
私達の関係は。待っていては進まない。
武は何度か瞬きし、言ったことが理解できたのか見る見る頬が赤く染まる。
「……違うから。」
ちょっと怒ったように見える顔。
でも、私は知っている。これは困っている時の表情。
「……いいよ。食べて……」
私は、ベッドに座っている武に近づく。
じっと見つめる視線。
私は両手を武の肩に置き、上半身を武の体に近づけ。片膝をベッドにのせて。
「凌子……。」
私を見上げた武。上目で、閉じ気味。
私も唇を近づけながら、目をそっと閉じていく。
【ガチャッ】
急にドアが開く音。
「失礼するぞぉ~~。」
入ってきたのは励治。
私は慌てて離れ。
二人の慌て方。平然を装うが不自然。
励治が気付かないわけがない。
「病院は、治療を受けるところだぞ~?武ちゃん、いい子にしていましょうね。」
励治は敵意のある言葉を選んで、武を子供扱い。
武が気にしていること。
大人の励治に対しての劣等感。
武は複雑な表情をしている。私の心も痛い。
何が最善なのか。
励治は髪をかき上げ、ため息を吐き。
「悪かったって、武。俺は、お前のことを認めている。一人の男として憎いくらいに、俺の中に存在している。本気で来いよ?油断していると大切なものは、俺が手に入れるからな。」
真剣な表情のまま。
「……いい匂いがする。」
励治はクンクンと、部屋を見渡しながら。
「あ、クッキーの匂いかな?」
鞄から出し、自然と武に渡す。
「うまそ~~。」
武はいつもと同じ、他の食べ物を渡した時と変わらない様子。
励治は、私の肩に手を置いて。
「分かってないよ、こいつ。」
私も【花冠】を知らなかったくらいだからな。
素っ気なく、励治の手を払い。
鞄の中から別の市販のお菓子を取り出して、励治に渡し。
私もそれを口に入れる。
励治は武が食べているクッキーを指さし。
「それ、現場に落ちていたクッキーと同じやつだ。」
事件の情報。クッキーは【花冠】。
きっと武を好きな女の子が、事件に関係している。
【ポーンポーン】
『面会時間が終わります……』
放送が静かに流れた。
「あ、凌子。明日、退院になったんだ。回復が早くてさ。けど一応、学校は休むから。」
良かった。もう退院できるんだ。
「うん。明日、早く終わるし……家に」
会話の途中。
「凌子。明日は約束通り、一緒に捜査するよな?」
自分が、無理やり約束したのを思い出す。
「……うん。」
あぁ~ぁ。今日、せっかくいい雰囲気だったのに。
自業自得だ。
「励治、私は先に帰る。ついてこないでね!」
「いや、遅いから送ってもらえよ。大人な励治は卑怯な事をしないはずだから?」
子ども扱いの仕返しだろうか。
武が、どこか変わったように思える……
その日、二件の髪切りが発生した。
襲われたのは、どちらも結南学園の生徒。髪の長い女の子。
武の目撃も、髪の長い女の子だった。
髪切りの恐怖に、学園内の女の子たちが次々とショートにしていく。
もし事件に関係する女の子も髪を切ってしまえば、手掛かりが遠退いてしまう。
髪をショートにした子の情報も集めつつ。
クッキー【花冠】は、事件に関係するのだろうか……




