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夜、また長い髪の女の子が髪切りの被害に遭った。
後日、警察の捜査や検査などを終え、学校の登校も可能になった頃。
表の警備として、私は被害に遭った子から話を聞くことにした。
警備事務室。
「どうぞ、座って。」
氷上 美鶴。高等部一年生。綺麗な顔立ち。
切られた髪は、整えられてショートになっている。
「警察に、聞かれたことで良いんですか?」
「同じこと聴いて悪いけど、学園の指示だから。」
嘘は吐いていない。
表と裏に与えられた学園からの役員権限。
「その日はテストが終わったら行く約束だった買い物に、友達と行ったんです。遅い時間になってしまって。近道で公園を通ったら、被害に遭いました。いつもは、その道は使いません。最近通った記憶は3・4ヶ月前です。犯人は見ていません。後ろから、いきなり髪を引っ張られてバッサリ……。信じられなくてパニックになりました。警察に言ったのは、これぐらいです。」
冷静な口調。吹っ切れたわけでもないけれど、どこか安定しているような表情。
彼女の荷物に、可愛いラッピングの紙袋が目に入る。
「……それは何?」
指さした物に視線を向け。
「あぁ、【花冠】ですよ。」
雰囲気が和らぎ。顔を赤く染めながら。
「ごめん。その……【花冠】って、何?」
氷上さんは、知らない私が信じられないという表情。
「【花冠】の伝説を知らないんですか?警備以前に、女の子として常識です!自分で調べたほうが良いですよ、今後の為にも。」
今後?そんなに知らないって、駄目ですか?
何故か警備の私が怒られてしまった。
聴取も終わり。
氷上さんが部屋を出て、手帳を開く。
聴いた情報を記録する。
目の前で記録すると、同じ人から次の情報を得られないことがあった。
自分が疑われているという印象を受ける人もいるし。
警備事務室の静かな時間。
武に対する暴行・髪切り事件が未解決のまま。
学園の平穏を守るため、警備の人員は出払っている。
【花冠】か、少し気になるな。女の子として常識らしいからね。
でもその前に。体育館の鍵を手に入れやすい人を捜さないと。
職員室に到着。
鍵の保管庫と鍵の持ち出し票。体育館倉庫の鍵を、貸し戻した日付を確認する。
私の名前から、誰かが記入した形跡は無い。
鍵は誰でも持ち出せるような管理システム。職員室の端。
当日はテスト期間。該当の記入はない。
いつから鍵を持っていたのか。どうやって戻したのか。
管理システムは改善が必要。
生徒会に提案しないと。そもそも生徒会が機能しているのか怪しい。
試すために警備の一人に指示を出し、鍵の管理について生徒会に提案して様子を見ることにした。
連続の髪切り事件に対して学園からは、遅い時間の外出を控えるように注意喚起があった。
今回も結南の生徒だったけれど。
「……さ~ん。凌子さぁ~ん!」
遠くから呼ぶ、久しぶりの声。近づいてくる姿。
「荊!」
裏の警備隊。安西 荊。
私立結南学園の中等部3年生。
「ただいま!」
【ムニ……】
私の腕に抱きついた荊。弾力を感じた腕。
あれ?違和感。
荊は私の腕から離れ、正面で微笑む。
「凌子さん?」
私は荊の両胸に、手を当てた。
荊は一瞬、思考が止まったようだ。
「……りょ、凌子さん?」
最近、事件に巻き込まれて。
落ち着くまで海外にいた荊。
「胸が大きくなってるのは、どうして?」
思わず問う私。
これが成長期……
荊は意外だったのだろう。私の質問に赤面。
あぁ、色々な事が落ち着いて。きっと荊の成長を促したのだろうか。
うらやましいとさえ思う。そこまでの道のりも、苦労も知らず。
「Kと、上手くいったのね?」
荊は更に真っ赤になって、うなずいた。
良かった。安心した。二人の気持ちが通じたんだ。
裏の情報屋K……武知 恵。姉妹校の冬北高等学校1年生。
「そっかぁ。そうだよね~。私に会いに来たのは後回しなのね?ふふ……。許してあげるよぉ。詳しく、オネエさんに教えてごらん。」
恥ずかしがる荊にセクハラ。いや、パワハラか。
幸せそうに、Kとのことを話してくれる素直な荊。
彼女は私の補佐として、一緒に前校長の事件を捜査した。
それはKの優しさだった。荊を、とても大切に思い。私に護って欲しいと依頼したのだ。
Kは優しい。そっかぁ。あのKがねぇ。手を出しちゃったのかぁ……むふふ。
高い情報料も何回か無かったことにできるかしら……くくく……Kの弱みを握ったぜ。
「恵ね、凌子さんにバレるだろうって。情報は3つまでタダにしますって、言っていました。」
そんなに甘くはなかった。Kめ先手を打つとは……。
荊の胸が大きくなったこと認めているんだな、うんうん。
あれ?何か、私が悪者みたいになってない?口止めとか。
「ふう……荊、Kに言っといてくれる?幸せなら良いって。」
荊は嬉しそうに笑う。
「でも、約束の情報3つは貰うね!」
Kの情報が一番速くて正確だから。
「そうだ、荊。【花冠】の伝説って、知ってる?」
荊も、知らない私が信じられないという顔。
「凌子さん、女の子の常識ですよ?この結南学園にいるなら。」
みんなが知っているのか。ちょっと悔しい。
けれど私は情報屋ではないし。
「教えてよ。あ、これはカウントしないでね?情報は荊からだから!」
荊は明るく笑っている。
前に感じた荊の表情を曇らせるようなものが、今はないのだと悟る……




