検証
体育館倉庫は、警察の現場検証が終わっている。
テストも終わった放課後、部活が普通に行われていた。
表の警備として立ち入りの許可を受ける為、生徒会室に足を向ける。
【コンコン】「失礼します。」
私は返事も聞かず、いきなりドアを開けた。
「きゃあ!」
逆光でも分かる。男女の重なり。
「不純異性交遊は禁止ですぅ~。撤収!5分しか待ちませんよ。」
女の子は乱れた服を戻しながら、慌てて部屋を出る。
ここをどこだと思っているのだろうか。
「会長、体育館倉庫の立ち入り許可の書類に、判をお願いします。」
会長は上着のボタンが外れたまま。
私を見ながら含みのある笑い。気分が悪い。
「ね、君さ~。ウサギちゃんでしょ?」
「判、ください。」
少しの沈黙。
お互い相性が良くないようだ。腹の探り合いのような時間が続く。
私は顔を引きつらせ。
「何が、ウサギですか。バカじゃあるまいし。」
「ウサギちゃんは、判が欲しくないのかな?……俺さ、デザートの途中だったんだ。機嫌、悪いよ?……あぁ、何?君が代わりに、相手……してくれるの?」
最近、男運がないようだ。
逆切れとかいい度胸じゃない。
「覚悟はいいですか?触れたら、痛い目……見ますよ?」
一歩足を下げ。回し蹴りも出来る距離感。
「ふ~ん。気にいっちゃったかも?」
冗談だよ、とでも言いたげな視線。
生徒会長の噂は聞いていたが、ここまでとは。
私は机上の判に手を伸ばし、書類に押す。
「邪魔されたくなければ、今度は鍵を忘れずに!」
用が済んだので、背を向けて。
部屋を出ようとした。
「ふふ……、わざとだよ。君が来るのを知っていたから。ウサギちゃん、またね~?」
呆れて何も言えない。
振り返らずドアを開ける。
【バタンッ!】
部屋を出た後、思いっきり閉めた。
蒼井 水樹。同じ二年生。成績順位10位以内。
最近の横領事件で交代した、新任の生徒会長。
何がウサギだ。私は、卯佐美!気分が悪い……。
そういえば今朝、情報屋から入ったデータの中に不思議な物があったな。
……クッキー。武に渡すプレゼントだったのかな?それとも誰かの糖分補給?ただの忘れ物だろうか?
許可の書類は持っているので、遠慮なく体育館に入る。
部活はバレー部だけ。端を通り、倉庫へ向かう。
鍵は生徒会室に行く前から持っていた。会長が不在や拒否で判がなくても、強行突破するつもりだった。
鍵を開け、扉を開いて中に入る。
割と明るい。窓からの光が差し込み、時間帯は違うけれど日中は明るかっただろう。
武の見たのは間違いなく、事件の関係者。
犯人の心理状態は、もう一度現場に戻る。とか聞いたことがある。
何かを落としたのであれば。尚更?
……武が怪我をしたと聞いて、心臓が止まるかと思った。
詳細で迅速な情報に安堵し。役員で良かったと思う。
必ず犯人を捕まえてやる!
学園の管轄を担当する刑事は励治もそうだが、優秀な人ばかり。
ここに手掛かりは何も残さないだろう。
体育館倉庫を出て、鍵を閉める。
当日の部活はなかった。けど鍵が開いていた。
鍵を簡単に怪しまれず、手に入れることが出来る人は限られるはず。
励治は、どこまで捜査が進んでいるのだろう。
この時間に姿を見せないなら、今日は来ない。気を遣ってくれたか、本当に忙しいか。
考え事をしながら歩いていたら、いつもの場所に来ていた。
庭園B。温暖化対策で、学園内に幾つも庭園が設置されている。その内の一つ。
春に見事な桜を咲かせる大きな木。
あれ?幻覚かな。入院しているはずの武が見える?
黙ったまま木の横に立ち。私を見つけて、ため息を吐くような仕草。
幻覚ではない本物。
「武、どうしたの?」
走り寄る私に武は無言で。私の口に手の平を当て。
うるさかったのだろうか。
見上げた私を誘導して、木にもたれさせる。
武は顔を近づけ目を閉じ。私の口を押えている手の甲にキスをした。
目を閉じた武が近く、本当にキスしているように思える。
ゆっくり目を開けた武は、悲しそうな表情。
突き刺さるような胸の痛み。息もできないような息苦しさ。
顔の距離が広がり、手の平も私の口から離れる。
「……ごめん。」
武は視線を逸らし、走って去っていく後ろ姿。
私は、もたれていた木に身をあずけるように座り込んだ。
涙が溢れて零れる。
聞いたんだ。私が、励治とキスしたことを。
励治は今日、武の所に行っていたんだ。
武……私のこと、好きだから来てくれたんだよね?
この唇に触れないのは、励治とのキスが許せないから?
武は信じてくれるかな?
私が好きなのは、あなただけ。
あなたは私の気持ちを、どう扱う?
武は何故か、励治に気後れを感じている。
今、想いを伝えても……あなたは素直に受け入れてくれるだろうか?
強引に、私の唇を奪って欲しいのに。
この唇に残る感触、体温を……消して欲しいのに…………




