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励治と一緒に病室を出る。
私が無言だからか、励治も口を閉ざしたまま歩く。
病院の出口を通り、外に出た。
もう日も暮れ、暗くなっている。
「励治、あまり武を刺激しないで。」
「ね、俺が本気なのを知っていて言うの?」
励治は真剣な表情で、私との距離を詰め。
病院の玄関、雨よけの壁に逃げ道を塞がれ。彼の両腕の間。
身動きが取れず、うろたえる。
まさか励治が、ここまでするとは考えていなかった。
「励治……?」
「何、意外な顔してるの?」
分かる。いつもと違うのが。
「知ってるよね?私が好きなのは……っ……!」
いきなり口を塞がれ。強く押し当てられる励治の唇。
両肩を手でおさえられ。必死で抵抗するがビクともしない。
信じられなかった。
油断じゃない。前に助けてくれたから信用していたんだ。
自分の失態。心が傷ついている。
「……っ……うぅ……」
涙が止まらない。好きでもない人とのキス。
勝手に励治を信じていた私……。
「ごめん……。君が、俺が大人だからと信じてくれているのを知っていた。でも、本気なんだ……凌子……。」
肩にある手が熱い。
怖くて、励治の目を見る余裕などなかった。
「むしろ冗談だと思っていたの。だって、いつも触れるのは……」
「きゃぁああ~~」
女の子の悲鳴。
割と近い。
励治は私から離れて、走っていく。もちろん私も走って、後を追いかける。
近くの公園に人影。
「大丈夫か?」
声をかけた励治は現場を見渡しながら、警察に要請の電話。
私が追い付いたのを確認して、周辺を捜索。
私は女の子の傍に座り込み、声をかける。
けれどパニックなのか、震えて泣いたまま。
目にした髪が、乱雑に切られていた。
私にも震えが生じる。
この事件が繋がっていたなんて。思いもしない。
公園付近に、複数のパトカーと警察関係者。
騒然となる中。
「凌子、危ないからパトカーで送ってもらう。今日は大人しく、乗って帰ってくれよな。」
私は黙ってうなずき、パトカーに乗り込む。
緊張感に、冗談など言える雰囲気もなく。
励治は、もう私を見ていない。仕事に本気で取り組む大人。
背中を見て知っていた。どんなに冗談を言っても、踏み込ませない大人の壁のような距離。
励治は頭がいい。やれば、何でも出来るだろう。
それでも学園に近い仕事を優先しているのは、何かに反抗しているから……?
パトカーの中。
警察の制服を着た女性二人の会話が聞こえる。
「励治さん、かっこいい~よねぇ。久しぶりに見た。」
「ふふっ。私も久々に見たから嬉しい。でも!噂では、本気の人がいるみたいよ。そんな話を……~」
私は視線を窓に移し、外を見ていた。
外は闇。
通り過ぎていく景色。
励治……大人の励治が、本気?
彼が私に触れるのは、必ず武が近くにいるか役員の見ている時だった。
今日は腰だったけど、そんなに触れていない。私が反撃するのを想定した行動範囲。
私と違って、励治は大人……。
何か、理性で考えての言動。
パトカーが家の近くを通る。
「そこの門で止めてください。……ありがとうございました。」
パトカーを見送り、敷地に入る。
そして隣の家の二階を見上げた。
部屋に明かりは点いていない。武の部屋。
いつから恋愛感情に気付いただろう?私の好きな幼馴染。幼いときから、ずっと一緒。
武……私のこと、好き?
家の鍵を開ける。
私の父は警察の関係者。帰らない日もある。
母は幼いときに亡くなった。寂しい家。考えるには、丁度いい自分の部屋。
はぁ……。ため息を吐き。キスされた唇に触れる。
男の人の唇も、柔らかいんだな。知らなかった。
本当は、分かっていなかった……励治のこと。
大人だから、私なんて本気で相手にしない。私の気持ちを優先してくれると。
励治に初めて会ったのは……結南学園の、前校長の横領事件の時。
学園の警備として、担当の刑事である励治に報告をした。
事件は無事解決したけど、私は一時捕まっていて。救出の際、励治は初対面の私を何故か、いきなり抱きしめ。
「心配した。」
いきなりの状況についていけず。
その後。
「気持ちいい……。」
何て、ふざけて。
私は思わず。
「離して。大丈夫だから。」
そう。今と同じ。何も考えず、彼のお腹に膝蹴りをしてしまい。
まるで、私をいつからか見守っていたかのような。変な感覚。変な出会いの始まり。
励治は私のことを、もっと以前から知っていたのかも。
いつの間にか、私が武を好きなのに気付いた。
励治は、何かにつけ学園に出入りしている。警備の私との接点が多い。
いつも武と一緒にいるとき、励治もいることが増えた。
武は励治が苦手のようだ。いつも言いたいことを飲み込んでいるよう。
武は、私の気持ちを……どう思うかな…………




