2つ目の完結
side夏希。
次の日の朝。
俺は、優香里と話しをする決意をした。
男子寮は、学校の敷地内。
優香里のいる女子寮は、少し離れた所にある。結南の女子寮と併設されているためだ。
寮の共通出入り口。
「夏希くん……?」
優香里の登校時間は、仕入れた情報通り。
「一緒に行かないか?」
クローンだと聞いた後。
俺には、優香里と呼んでいいのか分からない。
「うん。嬉しい!」
俺の迷いなど吹き飛ばすような笑顔。
嬉しいと言ってくれる、その言葉の重み。
「……夏希くん。私ね……夏希君のこと好きよ。でも、感情が……欠如してる。きっと夏希くんを傷つける。」
足を止め。沈むように視線も落ちて。
正直な言葉。彼女なりに俺の事を考えてくれたのだと分かる。
これから、どうすればいいか。
「いいよ、俺が傷つくなんて気にしなくて。ただ……何と呼べばいい?今は、それが気になる。」
顔を上げた目には涙が溢れ。零れて流れ落ちる。
「……私に名は無い。優香里ではいけない?私は……」
口を閉ざし。今にも消えそうだ。悲しみが伝わってくる。
俺には何が出来るだろうか。
「自由……の由で、ユカリと読む名前の人がいるって聞いたことがある。これからは誰かのためじゃなく、由が……俺の拠りどころになって欲しい。」
「私の名。……由。」
涙の止まらない彼女を、優しく抱きしめる。
「俺は優香里なんて知らない。俺が見てきたのは、由だけ。俺の心を知って……好きだ……ゆっくりでいい。俺のために生きて欲しい。」
「はい……。」
涙目に、最高の笑顔。
愛しい。
俺が由に触れるのは少し先。
でも心を手に入れた。俺の気持ちを受け入れてくれた。今は、それだけでいい。
「……愛しい。私の好きな人、夏希くんが私の存在を認めてくれるだけで幸せ。生きていける。ありがとう……。」
「由、俺も幸せだ。由の為に生きると、約束する。」
幸せな時間。
情報をくれたケイには、報告しないといけないな。
冬北高等学校。
ケイは教室に一人。席で読書中。
「ケイ、ありがとう。解決したよ。」
俺と由が近づくと、安心した表情で微笑む。
「……良かった、嬉しいよ。」
ケイは、由に名前が無いことを教えてくれた。信じられなかった。
優香里と由を区別することが、どれほど大切なことだったか。
「恵君、イバラ……」
【キーンコーン~】
俺には聞こえなかった。
side由。
放課後の生徒会室。
「先輩、女性の髪に触れるのは失礼ですよ?」
生徒会長3代目。
先輩だとしても、私の髪に触れさせはしない。
私は幼い頃から習っていた護身術を役立てた。
「痛ったたた……。ごめんなさい~」
腕をひねり上げ、振り落とす。にっこり笑いながら。
先輩は私に、信じられないものを見るような視線。
「彼が嫌がりますから。私には触れないでくださいね?」
ちゃんと理由も伝えないと失礼ですからね。
先輩は分かってくれたのか、何度も頷いて。
ふと、視線を感じ。
窓に近づいて、外を見る。
「夏希くん?」
声をかけると、見つかったのが気まずいのか慌てた表情。
私を心配して来てくれたのかな?
「もう作業が終わったから、一緒に帰る?」
さっきの会話に照れたのか、夏希くんの顔は赤い。
「うん。入っていい?」
私の返事を待たずに、窓から軽やかに入る。
横に並んで。
「また背が伸びた?」
今は、見上げるほどの目線。
満足げな笑みを返し。
「ん。どう?ドキドキする?」
「うん。ドキドキする。」
「由……可愛い。」
顔を近づけ、閉じ気味な目。私は目を閉じる。
軽く重なる唇。キスを何度か。私に触れるのは、特別な夏希くんだけ。
「君たち、ここをどこだと?」
目を開けるけれど。夏希くんに抱きしめられ、会長が見えない。
頭上から、夏希くんの少しトーンの低い声。
「邪魔……しないで?」
よく分からないけど、会長は部屋を慌てて出て行った。
「……夏希くん?」
「ん?会長、気を利かせてくれたよ。もっと俺に愛情を頂戴。」
甘える彼に、私も甘えて。
微笑み。穏やかな時間。
彼が強いのを知るのは、もう少し後。
私は知って、惚れ直す……




