造られたモノ
「今から5年前。慧は、ある事件の情報を手に入れた。犯人はその情報を取り返すため、私を狙った。人質に取ったものの、すぐに追い詰められ一緒に海に飛び込んだ。あなたは遠くて気付かなかった。その子が、月。私の……クローン。私が生れた後すぐに造られた。一年違いで生まれ、私と同じ教育を受けた。しかも閉鎖的な環境で育つ。私が知ったのは、事件の後。家の中は異常な緊張感で私が気付くほど……。月が死んだ事実をもみ消そうとして、騒動は大きく……すべては、おじい様の仕業だった。安西家の女性は短命。血筋の大柳家も同様。私は、悲しい生き方をしている月が存在していることも知らず。会ったこともなかった。死んでいたのは……私。だから消える覚悟をした。死んだのは、私。慧と……幸せに生きることは出来ない。慧……あなたが私を殺したのだと、そう思えば生きてこられた。もう会うことも無いと思っていたのに。おじい様が亡くなって、親族の同情から日本に呼び戻されるなんて。すべて遅いわ。狂いすぎた。収拾をつけながら、傷は……広がっていく。私も加害者……。」
幸せになることをあきらめ、それを突き付けるような言葉。
『慧……あなたが私を殺したのだと、そう思えば生きてこられた』
今回の失敗、私も一歩間違えば凌子さんの命を奪っていたかもしれない。
「……慧、今日は引き上げる。」
メグは慧さんを、連れて出て行った。
残された二人。
月姉は涙を浮かべて微笑む。
クローン……月は本体の為に死んだ。そのために存在し、造られたモノ。
本来なら存在してはいけないモノ。
「荊……。あなたは私の妹。絶対、幸せにする。もうすぐ志乃は、あなたを親族として受けいれる。事実は隠されたままで。」
月姉……野茨姉が、経験したように。私の本体、志乃も傷つく。
私の幸せ……?それは何だろう?
「これからは、野茨姉って呼ぶね。……月は役目だ。死ぬまで野茨姉の為に存在した。生きた証だよ。私なら、それを望む。」
野茨姉の涙を初めて見た。
いつか、きっと……野茨姉の傷が癒えたら、慧さんとの未来もあるだろう。
次の日。
校長が逮捕された為、結南学園は臨時休校となった。
凌子さんに謝りたくて会いに行きたかったけれど、事後処理が忙しいみたいだ。
気にしないでと、返事は来たけれど。
逮捕の時に証拠が出たから、私は無事でいられる。
調査も進んで、むしろタイミングは良かったのだと言われたけれど。
問題はそこじゃない……
仕事を任せてくれたメグにも、謝らないと。
信頼してくれたのに、がっかりしたかな?……嫌われたらどうしよう?
冬北高校。
裏庭の木陰に座って、メグは読書中。
周りの気配を確認して近づく。
「メグ……?」
そっと声をかける。
「荊?……どうした?」
メグの優しい微笑みに、胸がキューっとなる。
その意味も理解できず。分からない感情に戸惑った。
「荊、体調悪いのか?顔が、赤い……」
「ううん。昨日のこと、謝りに来たから。緊張してるの……」
多分、それ以外の何かなど私には分からない。
「謝らなくて良いよ。あれは罠だったんだ。むしろ情報が遅れて危険にさらした。俺の方こそ、ごめんな。無事で安心したよ。」
「でも……」
「凌子も荊を気にしていた。これが裏の危険なところなんだ……凌子の事後処理は2・3日で落ち着くだろう。その頃に会う日時の連絡が来るよ。」
優しい人。温かい気持ちになる。
悔しい……こんなに優しい人の心が、私のものではないなんて。
欲が出る。
……いつから?こんなに望むようになった?
野茨姉は言った。自由にしてくれると。
嘘だ……窮屈で堪らない。
「荊、ここに座りな?今日は、ゆっくり出来るんだろ?」
「うん……。」
昨日のクローンのことには一切触れない。メグは知っていたんだ。
彼女の代わりに……私がなれば?
嫌……嫌だ、嫌だ!絶対に。
この優しい目は、彼女を見ているんだ。
誤解しちゃダメ。
「荊、そういえば……願い事は、決まった?」
ドキッ……
考えてない。考えたけど、思いつかなかった。
「……友達になって。」
口から、自分もびっくりする言葉が出た。
そして涙。
「……ごめ……。まって……」
言葉が上手く出ない。
メグは、優しく私の頬を撫でる。零れる涙を指で拭い。
「……荊。」
優しい声。
顔が近づいて、メグの目が細くなり……色っぽい。
私の唇に。
柔らかいメグの唇が触れる。
メグが私に……
「嫌っ!」
「ごめん。」
メグは顔を赤くし、謝った。
それは。
「……何に対して」
誰に対して、ゴメンなの?
「荊?」
優しい人……その優しさが私の心を乱す。
「……名前を呼ばないで!嫌だ。誰を見ているの?」
取り乱す私の手首に、メグの手が触れる。
「嫌、触らないで!」
私の目にたまった涙が、困った顔のメグを揺らぐように捉える。
「……分かった。友達の嫌がることはしない。約束する。」
……友達……。
Side:恵。
凌子から潜入捜査の連絡が入り、実行時間の直後。
罠の情報を掴み、時間との勝負。罠にかかった二人は無事、救出に成功。
これからこんな想いを何度するだろう。胸が痛い。
志乃のクローン。この事実を知った俺の存在が、君を苦しめる。
どうしたら信じてくれる?
志乃と荊は、俺の中では別人だ。
言葉やタイミングを間違えれば君を傷つけるだろう。
君は、志乃の代わりに存在するから。
俺は荊の存在を否定したりしない。大切だ。命を懸けて護りたい。
信じて欲しい。君が望むなら、ずっと……友達。




