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【05 しむけんと俺】

・【05 しむけんと俺】


 あれから俺とアタルはよく一緒に行動するようになっていた。

 それを不思議に思って見ているクラスメイトたち。

 アタルはあれからクラスの人気者になり、昼休みはみんなと遊ぶから俺と一緒じゃないが、放課後は教室に残って俺と曲作りをしている。

 みんな、俺の無愛想なオーラに負けて、アタルと一緒に放課後に残るというヤツはいなかったんだけども、ある日、しむけんが話し掛けてきた。

「月野、アタルと一緒に何しているんだ?」

 オーバーに手をこっちに振りながら歩いてきた、しむけん。

 俺は無視しようと思ったが、アタルが喋り出した。

「ちょっと話っ」

 アタルは俺が悪目立ちすることが嫌だと知っているので、アタルから言うことはない。

 そして俺から言うこともない。

 だからクラスメイトたちはこの関係を誰もまだ知らない。

「話って趣味の音楽の話かっ?」

 しむけんが俺の隣の机に座り、話し掛けてきた。

 それを聞いたアタルは喋り出した。

「あれ、自己紹介の時に翔太は趣味が無いみたいなこと言っていたじゃん」

「いや、月野は音楽が好きだよ」

 そうあっけらかんと話す、しむけん。

 まあしむけんは俺が音楽好きなこと知っていて当然だけども。

 そのしむけんの言い方・雰囲気にちょっと驚いているアタルはこう言った。

「じゃあ趣味あること知ってるじゃないか」

 しむけんは大きく頷きながらこう言った。

 相変わらずいちいちリアクションがデカい。

「幼馴染だからなっ」

 そう言って俺の肩に手を伸ばし、肩を組んできた、しむけん。

「ウザいわ」

 そう言って、しむけんの腕を払った俺。

 しむけんは少しムッとして、でもすごく冗談っぽく、ちょっと声を高くして、こう言った。

「何だよー、もう思い切ってあのこと言っちゃうぞー、なんつって! 嘘! 嘘!」

 あっ、そうだな、これは言っていいか。

「しむけん、カラオケ・コンテストの話ならアタルは知っているぞ」

 そう言うと、しむけんは吹っ飛ぶようにイスから転げ落ちて驚いた。

 どんだけリアクションがデカいんだ、コイツ。

 しむけんが叫ぶ。

「何で月野がそのことを自ら言うんだよっ!」

「そういう流れだったんだよ」

「どういう流れだよ! あんなに忘れたがっていたのにさ! せっかくさぁ! いやまああれだけど! 自分で言ったならいいけどぉ!」

 少し置いてきぼりを喰らったアタルが頭上にハテナマークを浮かばせていた。

 しかしすぐに何か勘付いたように、体を震わせると、こう言った。

「というと、しむけんは、翔太のいじられの流れを止めさせた恩人みたいな話っ?」

 そう言うと、しむけんがニコニコしながら立ち上がってそのまま、今度はアタルの隣の席に座り、アタルと肩を組んでこう言った。

「その通り! オレは恩人なのっ! だからもっと月野はオレを甘やかしてくれてもいいのになぁっ! って!」

 そう言って大笑いした。

 何がそんなにおかしいんだ。

 しむけんは肩を組むことを止めて、俺のほうを見ながらこう言った。

「いやでもそうか、そんな話までしたんだなぁ、オレも嬉しいよっ」

「いや、オマエが恩人みたいな話はしていない」

 と俺が言うと、しむけんは天井に頭がつくんじゃないというくらい座ったままジャンプした。

 何なんだコイツは。

 そしてしむけんはアタルのほうを驚きながら見てこう言った。

「えっ? 今のアタルの勘? すごいなぁっ!」

「勘というか僕は結構見たらいろいろ分かるんだっ! なんせ昔は人のこと気にして生きてきたからね!」

 そう明るく言い放ったが、それって結構大変だったってことじゃないか?

 そのことを気にせず、突っ込むのが、しむけんスタイルだ。

「人のこと気にしていたなんて思えないなぁ、カラダラッパーなんて言わないでしょ、普通!」

「今はもう自分のしたいように生きようと思っているからね! まあ転校が多い子は、多かれ少なかれ人のことをよく観察する子だと思うよ!」

 そうアタルが言うと、しむけんは唸りながらこう言った。

「ん~、そうなのか? 転校生は大体カラダラッパーと言い出すだけじゃないのか?」

 そんな転校生いないだろ。

 いや、いたけども。

 アタルは自分の話を続けた。

「やっぱり誰がこのクラスの大将か、裏の支配者かって見極めて、逆鱗に触れないようにしないといけないからねっ!」

 何か妙に納得してしまった。

 アタルの勘の良さというか頭の良さの根源を。

 そうやって人のことを観察して、いろいろ考えてきたんだな。

「だから僕はすぐ分かったよ! 翔太が誰よりも優しい人だって!」

 そう言って俺のほうを見て笑ったアタル。

 何だよ、そういう急なヤツ。

 反則じゃん。

 何か。

「でも僕は気付かなかったなぁ」

 う~んと腕を組みながら、首を傾げたアタル。

 急に何を言ってるんだろう、一体何に気付かなかったんだろう。

 俺はそのことを聞こうと思ったが、それよりも早くアタルが口を開いた。

「最初、翔太のこと、しむけんが笑ったからさ、しむけんは嫌なヤツなのかなと思ったんだ」

 そうアタルが言った時に、その日のことを思い出した。

 そうだ、そうだ。

「いやそうだ、あの時、俺のこと笑ったよな、趣味無いって、あれ何気に嫌だったんだけども」

 そう言うとバッと立ち上がり、高速で頭を下げて、しむけんが言った。

「ゴメン! 何かあぁなっちゃって! ゴメン! ゴメン! すぐ謝れば良かったんだけどアタルも強烈でさ! すぐ興味がアタルにいっちゃったよ!」

「まあ強烈なことは分かるけどもさ」

 俺がそう相槌を打っている最中、しむけんのリアクションを見ていたアタルは、何かに気付いたらしい。

 そのアタルの何かに気付いたアクションに、俺は気付けるようになっていた。

 でもアタルはそれ以上、何か言うことは無かった。

 いや、気になるだろ。

「アタル、また何かに気付いたんじゃないか? 言ってみろよ」

「うっっ!」

 いやアタルは俺か。

 攻められることに弱い俺か。

 一体どうしたんだ。

「いやいや、だってさ、だってさっ」

 そう言って慌てるアタル。

 こんなアセアセしているアタルなんて初めて見たな。

 まあ、まだ出会ったばかりなほうだけども。

 俺は言う。

「いいよ、何か気になったら何でも言って」

「じゃ、じゃあ……」

 と言いづらそうにアタルは口を開いた。

「しむけんはさ、翔太に一番の趣味があることに気付いている、よね?」

 ん? 俺は音楽が趣味という話か?

 それはさすがに、しむけんは元々知っているだろう。

 そう言われた、しむけんは、う~んと腕を組みながら、首を傾げ、アゴを触った。

 いやさっきのアタルよりも、さらに足してきたな。アゴ触りを足してきたな。

 さすがリアクションが大きいヤツだ。

「月野、当てていい?」

 しむけんが少し小声でそう言った。

「いや何が? 俺が音楽好きなことは知ってるだろ」

「そうじゃなくて、月野、オマエ、作曲してるだろ」

 そう言った瞬間、俺は顔がこわばった。

 というか、えっ? えっ? 何で? 知ってんのか!

「知ってんのか!」

 とそのまま声が出た俺。

 それに対して、しむけんは安心したような顔をしながら、

「あっ! やっぱりそうなんだ! いや何かたまにやたらスマホいじってる時あるし! 音楽めちゃくちゃ好きだから作曲くらい挑戦してんのかなと思ってさ!」

 そう言って当たっていることをしむけんは喜んだ。

 いやまさか、しむけんにバレていたとは……。

 ここでアタルが満を持してといった感じに喋り出した。

「翔太の作曲の趣味が他のクラスメイトにバレないために、趣味が無いと言って笑ったわけだね!」

「……!」

 俺は驚きながら、しむけんのほうを見た。

 その俺の視線に対して、しむけんは頷き、喋り始めた。

「その通りだよっ、だって、また月野が嫌な思いになるの嫌じゃん、悪目立ちしたくないんだろ? だから何か、笑い飛ばせば、意識が他のとこいくかな、って思ってさ、オレも顔に出やすいほうだから笑ってごまかさないといけなかったし」

 そうだったのか、何だよ、しむけん。

 やっぱり良いヤツだな、しむけんも。

 だから。

「俺さ、アタルとユニット組むことにしたんだ。俺が作曲で、アタルがラップで」

 俺がそう自ら言ったことにアタルはすごく嬉しそうな顔をした。

 でももう一言、しむけんに、しむけんにだからこそ言いたいことがあるんだ。

「いつか、俺も、歌えればいいなって」

「「やったぁぁぁあああああああああああああ!」」

 俺はめちゃくちゃビビってしまった。

 何故なら喜びの声が、しむけんとアタルでユニゾンしたから。

 しむけんとアタルがそれぞれ矢継ぎ早にしゃべる。

「また歌ってくれるのか! オマエ歌上手いもんなぁっ! いや絶対歌ったほうがいいって!」

「いやヴァースは僕がラップを蹴って、フックで翔太の歌が入ったらユニットとしても締まるよね!」

 いつの間にか嬉しそうに肩を組んで、左右に揺れているアタルとしむけん。

 いやいや。

 いやいやいや。

「俺も肩組ませろよ」

 そう言って俺は肩を組んで、三人でちょっとの間、楽しく揺れていた。

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