岩投げドラゴン出現!(2/2)
一人になったヤマトは、遠くにいるドラゴンを見てため息を吐きます。
(皆すごいなぁ……。ピンチになってもすぐに諦めないで、落ち着いて行動できるんだから。僕なんて、何か起こる度に「もう帰れない!」って思っちゃうのに。それだけじゃなくて、解決法を考えるよりも先に、今は何時なのかとか、起床時間に間に合うのかとか、そんなことを気にしてばっかりだし……)
ヤマトは少しだけ自分が嫌になってしまいました。
(このままじゃ、よくないよね。現実の世界に帰りたいのは僕なんだから、僕が一番しっかりしてないといけないのに……)
でも、そんな風に考えた傍から、今の時刻が気になり出します。
そんなヤマトの気持ちに答えるように声がしました。
「キヒヒ。今は5時24分!」
「今25分になった。キヒヒヒ」
近くの岩陰から、ムーマが姿を現わします。どうやら知恵試しドラゴンのなぞなぞを解いたようでした。
ヤマトは叫び声を上げそうになりましたが、口をふさがれてしまいます。
「キヒヒヒヒ! 捕まえた!」
「お前はもう人間の国には帰れない!」
「さあ、女王様のところへ行くぞ!」
ムーマがヤマトの腕をつかみます。ムーマは小柄なのに力が強く、ヤマトはその背中に軽々と担ぎ上げられてしまいました。
「た、助けてー!」
ヤマトが叫び声を上げたときには、もうムーマは空を飛んでいました。騒ぎに気付いた車掌さんとルカがこちらに視線を向けます。
「ヤマトくん!」
「キヒヒ! 人間はもらって行くもんね!」
ルカがヤマトを助けようと空へ飛び上がりました。その瞬間を待っていたように、ムーマの杖からビームが噴き出します。
それがルカに直撃すると、彼の体が虹色に光り出しました。とても派手で、遠くからでもよく見えそうです。
ヒュン、と何かが空気を切る音がしました。大きな岩が地面にめり込みます。岩投げドラゴンがルカの発する光に反応したのです。
「キヒヒ! 的になっちゃえ!」
ムーマたちが意地悪な笑い声を上げます。ルカは体についた光を何とか落とそうとしていますが、上手くいきません。
そうこうする内にも次々と岩が飛んで来て、ルカはギリギリのところでそれをかわしています。
「なんてことするんだよ!」
ヤマトはムーマの背中を叩きましたが、悪夢の妖精は「キヒヒ」と笑うだけです。
「俺たち悪くないもんね~」
「邪魔したアイツのせいだもん!」
何とかしなければ、とヤマトは焦ります。その時、地上からガタン、ゴトン、と重々しい音が響いてきました。
見れば、車両の切り離しが終わったドリーム・エクスプレスが動き出しています。その速度がどんどんと速くなっていきました。
それだけではありません。車掌さんが機関室の窓から顔を出し、何かを握った片手を上に向けています。
不意に、上空で光の球が輝きました。その眩しさに、ヤマトは目を細めます。岩投げドラゴンもその光に興味を引かれたようで、そこへ向かって岩を投げつけ始めました。
「た、太陽だ! あんなものを作り出すなんて、ドリーム・エクスプレスには大魔法使いが乗ってるのか!?」
ムーマたちが騒いでいます。でも、光の正体が何なのか分かったヤマトは「違うよ」と返しました。
「あれは照明弾だよ。夜中に活動する時に使うんだ」
列車がさらに加速します。車掌さんは一定の間隔を置いて照明弾を打っていました。
ルカが発している光よりもこちらの光の方がずっと強いので、ドラゴンはすっかり照明弾の方に気を取られています。列車の動きに合わせて移動し続ける光に、何度も岩を放ち続けていました。
ちょうど、汽車がムーマたちの真下を通りかかります。それを見たヤマトは、ある作戦をひらめきました。けれど、それはとても無謀なもののように思えます。
頭の中に「無理!」という声が響きました。ヤマトはぎゅっと目をつむります。
(頑張れ、僕! さっき、しっかりしなきゃって誓ったばっかりじゃないか!)
これ以上恐怖が湧き出してくる前に、ヤマトは行動を起こすことに決めました。あんまりぐずぐずしていたら、覚悟も助かるチャンスも消えてなくなってしまいそうだったのです。
「車掌さん、汽笛!」
ヤマトは思い切り叫びました。
聞こえているか不安でしたが、車掌さんはヤマトの言葉をしっかりと受け止めてくれました。ボオォー! と音を立てて、汽車の煙突から煙が上がります。
「うわぁ!」
煙に巻かれたムーマたちが絶叫します。ヤマトの足をがっしりとつかんでいた手の力が緩みました。
ヤマトはルカから取り上げたランタンに明かりをつけて、ムーマの羽の生え際に引っかけると、全力で自分の体をムーマから引き剥がしました。
ヤマトは落下していきます。地面の代わりに激突したのは、ドリーム・エクスプレスの屋根でした。その上を転がって、ヤマトは列車から落ちそうになります。
とっさに屋根の縁に手をかけて、ヤマトは何とか持ちこたえました。「ヤマトくん、しっかり!」と言いながら、ルカが飛んで来ます。
屋根の上に降りたルカが、苦労してヤマトを引っ張り上げました。二人は外側から窓を開けると、車内に転がり込みます。
「はあ……。焦ったぁ! らしくないじゃないっすか、ヤマトくん!」
ルカがふるふると頭を振りながら言いました。どうやらムーマの魔法は切れたらしく、体からはすでに光が消えています。
「いつもなら『大ケガする!』って、絶対にあんなことしないのに」
「だよね」
ヤマトはちょっと笑いました。
「でも、もしかしたら大丈夫かも、って思ったんだ。ほら、ドラゴンに岩を投げられて車両がひっくり返っても、僕たち何ともなかったでしょう? だから、ひょっとしたら眠りの世界じゃ怪我とかしないんじゃないかなって思ったんだよ。体をつねっても、夢の中じゃ痛くないって言うし」
事実、高いところから落ちて屋根に体を叩きつけられても、ヤマトは無傷でした。現実の世界では、こうはいかないでしょう。
「それにしても、よく考えついたっすね。煙でムーマを追い払うなんて」
「それだけじゃないよ」
窓の外を見ると、ヤマトがいなくなったことに気付いたムーマたちが騒ぎ始めています。
けれど、彼らはヤマトを追いかけるどころではありませんでした。ドラゴンが、ムーマたちに向けて次々と岩を放っているのです。
「ぎぇえ! 何でこっちばっかり狙うんだよー!」
ムーマたちは戸惑いながら逃げています。その様子を見ながら、ルカは「なるほどね」と言いました。
「ムーマの背中についてるのは、オイラがカートから出したランタンっすね?」
車掌さんが照明弾を打つのをやめ、ルカの体も光らなくなったので、辺りは再び闇に包まれていました。そんな中、光っているのはムーマの背中についたランタンだけです。ドラゴンは、その光目がけて岩を投げていたのでした。
「くそー! 一旦撤退するぞ!」
ムーマたちは悔しそうに逃げていきます。ヤマトとルカは顔を見合わせて笑いました。




