臨時列車ドリーム・エクスプレス号(1/1)
「待って! 待ってよ!」
走り去っていく汽車を、ヤマトは必死で追いかけていました。
「僕を置いていかないで!」
汽車はヤマトの声など聞こえないように、大きな音で汽笛を鳴らします。モクモクとした煙が流れてきて、一瞬前が見えなくなったヤマトは、つまずいて転んでしまいました。
その煙が晴れる頃には、汽車は豆粒のような大きさになっています。ヤマトは呆然となりました。
(どうしよう……。これじゃあ、夢の国から出られないよ……)
ヤマトは途方に暮れて、どんどん小さくなっていく汽車を見ているしかありません。
ヤマトが今いるのは夢の国。眠っている時にだけ行くことのできる特別な場所です。
夢の国にはルールがあります。それは、起床時間までには絶対に現実の世界に帰らなければならない、というものでした。
このルールを破ると永遠に眠りの世界に閉じ込められ、現実の世界で目覚めることができなくなってしまうのです。
(もうダメだ……)
ヤマトは泣きそうになりながら、線路の傍にうずくまりました。
夢の国と現実の世界を繋いでいるのは、「夢の門」と呼ばれる大きなゲートです。ヤマトが追いかけていた汽車……「ドリーム・エクスプレス」は、その門の近くにある駅にとまるのです。
つまり、あの汽車に乗れば夢の門まで行けるということです。
でも、乗れなければ歩いて向かうしかありません。ですが、ここからでは夢の門までかなりの距離があります。起床時間までに門にたどり着くことは不可能でしょう。
(おしまいだ……。僕は一生この世界から出られないんだ……)
辺りに広がっているのは、花が咲き乱れ、優しい色合いの雲が浮かんでいるほのぼのとした光景。
けれど、そんな穏やかな風景に囲まれていても、ヤマトの心はちっとも晴れません。現実の世界にいるもう会えない家族や友だちのことを考えて、ひたすら絶望します。
その時でした。どこからともなく汽笛の音が聞こえてきたのは。
ヤマトはハッとなりました。もしかして、ヤマトが乗っていないことに気付いたドリーム・エクスプレスが戻ってきてくれたのでしょうか?
ヤマトは線路の先に目を凝らしましたが、近づいてくる車輪の音は後ろから聞こえてきます。もしかして別の汽車かもしれない、とヤマトは思いました。
その予想は当たりました。さっき去っていったドリーム・エクスプレスと同じ型ですが、車体の色が違う列車がヤマトの前にとまります。乗り口から車掌さんが姿を見せました。
「こちら、臨時列車ドリーム・エクスプレス号でございます」
「臨時列車?」
「通常のドリーム・エクスプレスに乗車できなかったお客様のために、特別に運行している列車です。お乗りになりますか?」
「もちろんです!」
ヤマトは急いで汽車の中に飛び乗りました。座席に腰掛けると、車掌さんが機関室へ戻っていきます。
「全ての線路は門へと続く。線路がある限りどこまでも走る。出発進行!」
車内アナウンスが終わると、汽車が動き出します。ヤマトはほっとして、体の力が抜けそうになりました。
臨時の汽車に乗れるなんて、なんという幸運でしょう。これでどうにか門まで行けそうです。眠りの世界に閉じ込められないで済むと分かり、ヤマトは心の底から安心しました。
「車内販売~。車内販売はいかがっすか~」
陽気な声が聞こえてきます。後ろの車両から、カートを押した職員さんがやって来るところでした。
「お客さん、何かいかがっすか?」
「えっと……オレンジジュース一つ」
声をかけられ、ちょうどのどが乾いていたヤマトは飲み物を頼みました。車内販売とは言ってもお金は必要なく、好きなものを注文することができるのです。
「はいよ! オレンジジュース、一丁上がり!」
職員さんがカートの上段にかけてある布を取って、中に手を突っ込みます。すると、そこからコップに入ったジュースが出てきました。
ヤマトにそれを渡しながら、職員さんが隣の席に腰掛けます。
「オイラ、ルカっていいます。よろしくっす」
職員さんは社交的な性格のようです。年はヤマトと同じくらいでしょうか。その背中には透き通ったチョウチョのような羽が生えていました。どうやら人間ではなくて、夢の国に住んでいる妖精のようです。
「僕はヤマトだよ」
ヤマトも自己紹介しました。
「僕、臨時列車が走ってるなんて今まで知らなかったんだ。これがなかったら絶対に帰れなかったよ」
「絶対、だなんて大げさっすねえ。線路をたどってれば、いつかは門まで行けますよ。もっと気楽にやるっす」
ルカはのんきに笑っています。ヤマトとは違い、ルカは楽観的なものの見方をするようでした。




