表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

俺の人狼の血は薄い

作者: 吉澤雅美
掲載日:2022/02/09

 ここは道の終わり。

 先には月の光も届かぬ鬱蒼(うっそう)とした森が広がっている。

 ダンジョンを抱く魔の森が。


 道の終わり近くにうらぶれた居酒屋が一軒。


 最後の景気づけをするために一杯引っ掛ける冒険者たちのためだ。


 人間は数人のパーティを組んで森やダンジョンの魔物に立ち向かう。


 人は群れる。

 常に群れたがる。


 対して俺は一人だ。


 人も狼も群れるというのに人狼はいつも一人だ。


「親父さん、エールを一杯……」


 混み合った店の中を肩で押し分けるようにカウンターに近付き、コインを投げて注文する。


 エールは俺が覚えた悪い癖だ。


「あいよ」


 仏頂面の店主がジョッキを渡す。

 いつ来ても、エール一杯しか注文しない俺は店主にとって割に合わない客だ。


「お前、どこの所属だ?」


 酒臭い息をしながら、男が話しかけてきた。


「どこでもないですよ」


 俺はなるべく穏やかに事実を言った。


「嘘つくな。お前みたいな弱っちいのが一人パーティだと」


 男の仲間がどっと笑った。

 笑われるのは好きではない。

 

 俺はエールのジョッキを抱えて外に出ようとした。

 

 幸い今夜は満月だ。

 誰にも邪魔されずに外で飲んだほうがいい。


 ドガッ!


 大人しく出ようとする背中にジョッキが投げつけられた。


 どっと店じゅうの客が笑った。


(怒るなよ。今夜は満月だ。怒るな)


 俺は自分に言い聞かせながら外へ出ようとした。


「卑怯者!」


 俺の最後の理性を吹き飛ばす罵声が浴びせられた。

 屋外に据えられたテーブルにゴトンとジョッキを置く。

 ゆっくり振り向く。


「誰だ?」

「なんだ、貴様、やる気か?」


 さっき声をかけてきた男が応じた。

 

「表へ出ろ」


 怒りは「変貌」のトリガーだ

 俺は変貌しながら静かに言った。


 月の光を浴びて骨格がきしむのがわかる。


 ただ、ヒトとの交配を繰り返した俺の人狼としての血は薄く、完全に変貌を遂げることはない。


 細マッチョがマッチョに変わったくらいにしか見えないだろう。


 男は剣を抜いた。


「来い!」


 俺は跳躍した。

 一気に間を詰めて、男が驚いた表情を浮かべた顔を、そのまま引き裂いた。


 居酒屋から悲鳴が上がる。


「魔物よ! 魔物が出たわ!!」


 てんでに得物を持った連中が店の中から湧いて出た。


 人は、いつも群れたがる。

 十五人、と瞬時に俺は数えた。


 倒れた男から剣を奪う。ナマクラだが当座の役には立つだろう。


「おっと!」


 ビュンと頭を矢がかすめた。

 二の矢をつがえるのはフードをはねのけた少女。

 尖った耳が見える。

 エルフだ。


 人狼だった俺の曾祖父さんか曾祖母さんが人間と交わった。

 ダンジョン攻略のパーティだったらしい。


 エルフがなんで人間のパーティにいるのか訊いてみたい。

 俺の先祖がなんで人と付き合ったのか知りたいからさ……。


 エルフは、そんな俺の心中を知るわけもなく、殺意だけを乗せて二の矢を放った。


 俺は、さっきの男から奪った剣で、エルフの矢を切り飛ばした。


 そして第三の矢をつがえたエルフの前面に、二歩の跳躍で降り立った。


「私の矢から逃れる者が……」

「いるんだよ」


 肩口からの斬撃でエルフは倒れた。

 少女に見えても油断はできない。


 振り向きざまに、後ろから忍び寄ってきた別の男を一突き……。

 

「皆、下がれ!」


 目玉模様の帽子を被った年寄りが、組んだ指に力を込めながら叫んだ。


 大きな火球が指先に現れ、俺の方へ飛んできた。

 とっさに横っ飛びで逃げると追って来やがる。


「これならどうだ!」


 剣で二つに切ると二つになって迫ってくる。


「そうか!」


 俺は、目玉模様の魔法使いの隣に飛んだ。


「一緒に食らおうぜ!」

「止めてくれ、助けてくれ!」


 俺は構わず魔法使いの襟首をつかむ指先に力を込めた。

 振りほどけないと観念した魔法使いは、無力化の呪文を唱えた。

 燃えカスのようなものが地べたに転がった。


 ドサッ……。


 俺は魔法使いに何もしていない。魔法の契約かなにかの加減で命を落としたのだろう。


 俺は吠えた。

 長く、歌うように……。


 俺の戦いぶりに恐怖した連中が背中を向けて逃げて行く。


 そうだ。それが正しい。


 俺一人倒せないで、森やましてやダンジョンの連中に歯が立つはずがない。


 俺は返り血を浴びたまま居酒屋へ帰った。


「親父さん、エールをもう一杯」


 店主は古めかしい猟銃を構えていた。


「やめろよ、お得意を一人なくしちまっていいのかい?」

「魔物のお前に売る酒は無い! それにこれは銀の弾丸だ。殺りそこなうことはない!」


 人狼の弱点は把握済みと言うわけか。


「やって見ろよ」


 言うなり俺はカウンターを飛び越えて店主の首を狙った。

 同時に猟銃が火を吹く。

 カウンターの中に着地した俺は店主の首に爪を立てた。


 頚動脈を破られた店主は、派手に血を撒き散らしながらその場に倒れた。


 銃弾は俺の脇腹にめり込んでいた。

 純血の人狼なら致命傷だろう。

 だが、俺は人の血のほうが濃い。


 ちょっと面倒だが、森の魔女のばあさんに頼んで摘出してもらえば済む。


 狼の遠吠えが聞こえる。

「遅えよ、お前ら」


 窓からもれる月の光の中、俺はやっとエールにありつきながらつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 強い! カッコいい! 狼のすがたにはならないけど、そのままパワーアップって最強。 ( *´艸`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ