清算したい男 中編
中編です!
初除霊の後の翌朝、いつものように学校に行くと、椿が既に席に着き本を読んでいた。私が、おはようと声をかけると椿は一瞬驚いたような顔をした後、私を見て納得したように、おはようと静かな声で返してくれた。
席に着くと、柚子葉と秋乃が声をかけてくる。
「視霊〜、椿と仲良くなったんだね〜」
「き、昨日急に走って行っちゃったけど、もしかして、椿ちゃんと何かあったの?」
「えっと、実はね、色々あって椿の除霊を手伝うことになってねぇ〜。此処一週間話してたのもそのことだったんだよ」
私がそういうと、二人は驚いた顔をしていた。そりゃあそうだ。私は、幽霊が怖いって二人に告白したばっかりなのに、急に除霊を手伝うなんていったら誰だって驚くだろう。逆の立場だったら、私だって驚く。
「それって〜、助手ってこと〜?」
「まぁ、そんな感じかな。資格は持ってないから、私自身が除霊することはできないけどね」
「大丈夫なの? 除霊なんて、危険なことがいっぱいあるんじゃないの?」
「うん、そうだけど。いざとなったら椿もいるし、大丈夫だと思う」
「そ、そっか。椿ちゃんのこと信頼してるんだね」
柚子葉は、困ったように眉を下げると、視霊ちゃんが決めたことなら、応援するといってくれた。秋乃も、それに同意したように頷く。私は、少し気恥ずかしい気持ちになりながら髪を触っていると、春風先生が入ってきて、ホームルームが始まった。
「みんな、高校に入学して、最初の一週間が終わったけど、学校生活には慣れたかな?」
春風先生がその質問で、教室がざわつきだす。このざわめきから、みんな話せる程度の友達はできている様子だった。
「ふふっ、みんな仲の良い友達は、出来ているようね。でも、まだまだ話したことのない人も多いでしょう。この学園では、一年生は毎年、生徒の親睦を深める目的で、入学の時期にオリエンテーションキャンプを企画しています。みんなも入学前の学校見学で聞いていたと思うけど、そのキャンプを来週行います。今日のこの時間は、キャンプの班を決めたいと思います‥‥‥班は、各自四人一組で自由に作ってもらいましょうか。席を離れてもいいから、今から作ってね。班ができた人から、先生に報告に来るようにしましょう」
春風先生が、そういうとクラスのあちこちで、一緒に班組もうなどという声が聞こえてきた。私も後ろを向き、秋乃に話しかける。
「秋乃、一緒に組もうよ」
「そうしよ〜。柚子葉も一緒に組むよね〜」
私が、柚子葉の方を向くと柚子葉も此方を見ていた。目が合い、私は柚子葉に向かって手招きする。すると、柚子葉は私たちの席の前までやってきた。
「柚子葉も一緒の班になるよね?」
「うん、そうしてくれるとありがたいな」
「四人組っていってたよね〜、あと一人はどうする〜?」
「‥‥‥あのさ、誘いたい人いるんだけどいいかな?」
「わ、私は、いいよ」
「私も〜、他に誘いたい人もいないし〜」
「ありがとう。ちょっと話してくるね」
私は、席を立ち椿の元へと行く。椿は、相変わらず本を読んでおり、班決めの時間だというのに、まるで自分は関係ないとばかりの表情だ。あまりの変わらなさに、笑ってしまう。
「椿、貴方班決めないつもり?」
「そんなこといわれたって、仲の良い人もいないし、仕方ないでしょう」
「あれ、私たち仲が良いでしょう?私たちの班に入りなよ」
椿はまた驚いた顔になり、私から視線を離すと本を鞄にしまった。
「私たちは、友達とかじゃなくて仕事仲間よ。まぁ、貴方がどうしてもっていうなら、誘いに応じてもいいけど」
照れ隠しのような言動が、なんだか可愛らしく見えてしまった。だが、笑ったら拗ねられてしまいそうなので我慢する。
「はい、はい。どうしても入って欲しいから、決定ね。秋乃と柚子葉も、一緒だから」
「わかったわ」
私は、椿にそれだけ伝えて、春風先生に報告しに行った。他の人たちも粗方決まったようで、春風先生の前に列を作っていた。私が春風先生の前に立ち、報告すると先生はほっとしたように微笑んだ。
「はい、わかったわ。要さんなら、東福さんを誘ってくれると思っていたけど‥‥‥実は東福さんが何処の班にも入れないんじゃないかって心配していたの。誘ってくれて、ありがとうね」
先生が心配するのも無理はない。椿は、人と関わるのを嫌うから、私が誘わなかったらもしかしたら、班決めに苦労したかもしれない。
「いえ、私はただ一緒の班になりたいと思っただけなので」
「ふふっ、これからも東福さんと仲良くね」
順調に班は決まり、班に入らない人もいなかった。このクラスは、思ったよりもみんなコミュニケーション能力が高いようだ。
「それでは、全班決まりました。キャンプは、来週の木、金曜日ですのでしっかり準備をしてくださいね」
憂鬱なキャンプも、四人で行けると思うと少しは楽しみだった。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
キャンプの日が、いよいよやってきた。
動きやすい服という指定だったため、私は某大型ショッピングモールで買った、黒色のジャージを着ている。他の人たちも、殆どが黒色のジャージを着ていたため、学年で集まると黒い塊のような集団になり、中々の光景である。
私は、集合場所である昇降口前へ柚子葉と一緒に向かうと、同じ班の秋乃と椿を探す。
すると、黒色集団の中に一際目立つ虹色のジャージを身に纏った人物が見えた、椿である。
私は、面食らいながらも椿の元へ行く。近くに行くと、椿ばかりを見ていて気がつかなかったが、秋乃も既にその場にいた。秋乃は、椿の格好なんて気にしていないように、いつも通りに話していた。
「椿、秋乃、おはよう」
「視霊〜、おはよう〜、今日も集合時間ぎりぎりだねぇ〜」
「貴方たち、こんな時くらい余裕を持って登校しなさい」
「う、うんそうだねぇ」
椿に指摘されながらも、私は正直話の内容が入ってこない。こんな、キラキラの虹色ジャージどこに売ってるんだろう。考えるのは、そればかりである。
「つ、椿ちゃんそのなんていうか‥‥‥珍しい服着ているね」
私は、思わず柚子葉の方を勢いよく振り向いてしまう。やっぱり、柚子葉も気になってたのか。あまりにみんなが普通だから、私だけが気になってると思ってた。
柚子葉のその言葉を聞くと、椿はふふっと得意げに笑った。それは、除霊の時に割烹着を持っていた姿にそっくりだった。
「これは、私のお気に入りなの。凄く着やすくて、見た目に反して汚れにくい。それに、よく目立つから無くすこともない。合理的なデザインだわ」
「椿に〜よく似合ってるよねぇ〜」
「‥‥‥そうだねぇ」
椿の余りにも満足げな顔に、口が裂けてもダサいなんてことは言わないでおこうと心に誓った。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
キャンプ場は、バスで一時間位の距離にある場所だった。バスを降りて、班ごとに点呼を取る。
そして、キャンプ場の人に教えてもらいながらテントを立てる。四人で協力して、立てたこともあってか中々のでき前だ。
少しの休憩の後は、いよいよお昼の時間だ。お昼は、このキャンプ場の名産だという蕎麦だった。キャンプ場で食べる蕎麦というのは、周りの環境もあって普段よりも美味しく感じた。
そして、夜ご飯は、キャンプ名物カレーライスだ。昔から何故だかキャンプといえば、カレーライスだ。勿論、班ごとの手作りカレーである。
柚子葉と秋乃が米を洗っている間に、私と椿はカレーの準備をする。各自、担当の野菜を切る。火の通りが心配なので、今日は野菜オンリーの野菜カレーを作ることになっている。
私が、玉ねぎを切っていると横から何かが飛んできて、私の顔に直撃した。
「痛っ!‥‥‥ってこれ人参?」
私が横を向くと、そこには人参に向かって包丁を振りかざしている椿の姿があった。
「ちょっ! 椿、人参は片手で抑えながら切ってよ!あちこちに具材が飛んでる」
「硬くて、こうしないときれないわ」
「いやいや、そんなことないでしょう‥‥‥って、また飛んできた! もう、私がやるから貸して」
「あら、悪いわね」
「ってこれ皮も剥いてないじゃん」
「剥かなくても食べられるわよ。泣くほど、怒ることないじゃない」
「玉ねぎ切ってたからだよ!」
私は、無駄に叫んでどっと疲れてしまった。この感じだと、じゃがいもを切ることも椿には難しいだろうなぁ。だからって、何もさせないのは可哀想だしなぁ、どうしたものか‥‥‥
「椿、じゃがいも洗ってきてくれる? そしたら、そこ置いといて私が切っとくから。それと、こっちはもう大丈夫だから柚子葉たちの様子見てきてくれる?」
「わかったわ」
椿は、じゃがいもが入った容器を持って水場に洗いに行った。
ご飯炊く方が、普段やってるだろうしやりやすいよね‥‥‥?
あの後は、正直大変だった。椿は、普段料理を全くしていないらしく、カレーを煮込む際も初めからカレールーを入れようとしたり、ご飯も石鹸で洗おうとしたりしたらしい。その度に、他の三人で必死に止めたのは、もはや良い思い出になりつつある。
長い時間、カレー作りに格闘していて、気がつくと辺りは真っ暗だった。焚き火の灯りだけが、唯一の光だ。
そうして、漸くできたカレーライスは苦労の分だけいつもよりも美味しそうに見えた。
「はぁ、漸く完成したね」
「そうだね〜、真逆〜完璧超人だと思ってた〜椿が〜料理下手だとは思わなかったよ〜」
秋乃は、意地悪そうな顔で椿に笑いかける。
「仕方ないでしょう。私、料理って作ったことなかったのよ」
「そ、そうだったんだ。じゃあ、椿ちゃん今日が料理デビューだったんだね」
「そういうことになるわね」
「なら、いつもよりカレー美味しいく感じるよ。早く食べてみな」
私がいうと、椿は手を合わせていただきますと声を出しカレーを食べ始めた。食べた瞬間、目を見開き一口また一口と食べ進める。どうやら、美味しかったらしい。
私と柚子葉、秋乃は、目を見合わせ微笑む。そして、私たちも食べ始めた。自分たちで作ったカレーの味は、やっぱりいつもよりも少しだけ美味しく感じた。
とそのとき、誰かの視線を感じた気がした。私は、咄嗟に視線の方を向く。しかし、そこには真っ暗闇な森があるだけで、誰もいることはなかった。
「どうかしたの? 視霊ちゃん?」
「いや、なんでもない」
きっと、気のせいだろう。
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