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彼女は何も視たくない ④

あの日から、椿さんは毎日同じ時間に、同じ台詞で私を呼び出してくる。今日でもう一週間だ。最初は珍しがっていたクラスメイトたちも、もう慣れたらしくまたやってるよという空気すら感じる。

それは、私と私の友人たちもそうらしく、椿さんが来ても全く驚かない。慣れというものは恐ろしい。だからといって、話に応じないとずっと私の隣に立っているのだから敵わない。


「視霊、いってらっしゃ〜い」

「が、頑張ってね。視霊ちゃん」

「うん、行ってくるわ」


私が立ち上がると、椿さんはさっさと歩き出した。私がついて来ることを信じて疑ってないんだろうな‥‥‥まあ、ついて行くけどね。

この一週間で、すっかり通い慣れた屋上にまた着く。周りを見渡すと‥‥‥よかった、今日も椿さんと二人きりだ。


「確認は済んだかしら」

「うん、大丈夫」

「本題だけど、私の主張は変わらないわ。貴方には、助手になって欲しい」

「なら、私の主張も変わらないよ。助手にはなれない。そろそろ、諦めたら」

「貴方に言われなくても、今日断られたら諦めるつもりだわ。だから、今日は貴方と私で除霊する予定の悪霊について話すわ」

「いや、だから、私は行かないって‥‥‥」

「いいえ、貴方は必ず私の助手になる」


何故か自信満々の椿さんに見つめられて、何もいえなくなる。私が何もいわないのをいいことに椿さんは話を続ける。


「貴方も知っての通り。霊媒師の仕事は多岐に渡るけど、私は主に除霊を中心に行なっている。除霊とは、生きている人たちを怖がらせる悪霊の祓うことを目的としているの。生前の恨みや後悔が強い人ほど悪霊になりやすいと言われているわ。悪霊と善霊を見分けるポイントは、案外簡単よ。悪霊は、黒いもやに覆われている。恨みが強ければ、強いほど濃い黒になるから、真っ黒な悪霊には要注意ね。ここまで、わかった?」

「いや、わかったけど、私は助手にはならないよ」

「いいから、聞いて」


自己主張してみたが、ピシャリと跳ね返されてしまう。仕方がないので、このまま聞く。


「私たちは、悪霊のみをターゲットにしているから、どんなに憎くても善霊を祓わないように注意して」

「そんなことしないよ」

「ここからが本題よ。今回、東満星神社にきた依頼は、ここ一ヶ月で多発している鸚哥森(いんこもり)小学校前の自動車事故に関することよ」


矢張り、秋乃の言ってた東満星神社に弟子入りしているという噂は本当だったらしい。神社に相談に来た人がいて、それが椿さんに仕事として回ってきたというところだろうか。


「現場は、この学校の近くだし、貴方も話くらいは聞いたことあるでしょう?」

「そういえば、ニュースで言っていた様な‥‥‥確か、死者が出ていないのが不思議なくらいだってやってたかな」

「そう、死者はまだ出ていない。でも、こんなことが続く様なら、いずれは出てしまうわ。それを私たちは止めないといけない」


私たちと私も、頭数に入れられているところは敢えて何も言わないでおこう。


「でも、それは幽霊とか関係なく只の不注意による交通事故なんじゃない」

「私も、最初はその線でも調査したわ。でも、それだけだとおかしな点が何個もある。事故を起こした人たちに話を聞いたら、皆んな同じこと言うのよ‥‥‥後部座席に小さな男の子を乗せていたって、そして事故を起こす直前急に男の子が泣き出す。それに驚いていると、目の前に口から内臓を吐き出した様な女が現れて、パニックになり事故に発展する。ここまで皆んな同じことを言うと、只の不注意では説明がつかなくなってくるわ」

「ふーん、それで幽霊が起こしているものって判断したんだ」

「幽霊の仕業だと判断して、調査したところ一人の人物が上がったわ。半年前に鸚哥森小学校前で、事故を起こした三本柳櫻子(さんぼんやなぎ さくらこ)という人物よ。亡くなってから幽霊になるまで、三ヶ月程かかるといわれているから、時期も一致しているし、この事故で五歳の息子と自分自身を亡くしてる」


そういうと、椿さんはポケットから一枚の写真を取り出した。白いワンピースを着た、真っ黒で髪の長い三十代くらいの女の人と五歳くらいの男の子が楽しそうに公園で遊んでいる写真だ。話からして、この女の人が三本柳櫻子なのだろう。


「予測するに、息子の方はこっちに戻ってこなかったようね。でも、母親の方は未練があって幽霊となった。そして、此方に来て事故のことを思い出し、息子を探しているうちに悪霊化してしまったと考えられるわ。よくある話よ」

「なんとも言えない話だね」


この世界では、亡くなったら全員が幽霊になって戻ってくるということではない。生前に未練が残っているものだけが、幽霊となって戻ってくるとされている。

正直、幽霊に関してはまだわからないことだらけだ。だが、戻ってきたものたちに未練があることが共通しているから、その説が有力とされている。そして、その説では未練がないものたちは、転生し生者としてこの世に戻って来るとされていた。

この世に存在している幽霊たちは、皆んな何かしらの未練がある。通常、幽霊たちは自分のやり残したことをやり遂げると、漸く転生への道が開かれるのだ。

しかし、稀に幽霊期間中に人を傷つけてしまうものがいる。それを繰り返すうちに、自分の本当の目的がわからなくなってしまい悪霊になってしまう。

そして、悪霊となって祓われたものは、永遠に転生することはできないといわれているのだ。


近頃は、悪霊にならないための対策も充実しており、悪霊を一度も視ることなく人生を終える人も珍しくない。因みに、私もそのうちの一人だ。今も、話を聞きながら悪霊って本当にいたんだなぁと思ったくらいだ。


「それで、除霊方法だけど、貴方はただどこに霊がいるか。どこに核があるかだけを教えてくれればいい。場所が掴めたら、あとは私がやるから」

「核って一級霊感の人だけが、色を識別できるっていう、あの核?」

「そうよ」


核というのは、悪霊だと黒く、善霊だと白いとされている。一級霊感が、悪霊かそうでないかを見抜くとされているのは、他の霊感者には核の色が識別できないからだ。


「でも、どうして核の場所を教えるの? 幽霊の位置が知りたいなら、概ねこの辺みたいな感じじでいいんじゃないの?」

「‥‥‥貴方、本当に幽霊について興味がないのね。核っていうのは、幽霊の弱点みたいなものよ。そこを貫かないと、除霊はできないの」

「へぇ、そうなんだ」

「概要はこれで終わりよ。今日の放課後、行く予定だから、学校が終わったら東満星神社に来るように」

「だから、私は助手しないから。今だって、話だけ聞いただけだし」

「‥‥‥悪霊たちのせいで、貴方のように怯えている人がいるのよ。その人たちを見捨てるの?」

「それは‥‥‥気の毒だけど、私だって幽霊が怖い。今の私には、自分のことだけで精一杯で、他人のことを考える余裕はない」


私が目を逸らしながらいうと、椿さんは暫く何も言わなかった。軈て、長い長い沈黙の後、そうと呆れたような声がした。


「私の見込み違いだったのかしらね。貴方なら優秀な助手になれると思ったのだけど、やったこともないのに無理無理と諦めるような人、私に相応しくないわ」


勝手に誘っといて、断るとこんなふうにいわれて、正直腹も立っているが怒るのを必死に我慢する。口論するのも面倒だ。私が何もいわないのを見ると、椿さんは勝手なことを話続ける。


「お友だちについてもそう。周りの意見ばかりを気にして、友人にすら幽霊が怖いと言うことを話せない。そしたら、友人が離れていくとでも思っているのかしら。私からいわせれば、そんな友だち本当の友だちではないわ。所詮貴方は表面上の友だちが欲しいだけなのよ。幽霊が怖いとかいってるけど、自分の意見すらまともにいえないなんて、貴方の方が余程幽霊みたいよ」


その言葉を聞いたとき、さっきまで怒りを我慢していたのが、馬鹿らしくなるくらい頭に血が上った。自分でも、こんなに頭にくるのは初めてと思うくらい怒りが込み上げて来る。椿さんの方を睨みつけると、相変わらずの無表情がそこにあって余計にムカつく。


「貴方にそんなこと言われる筋合いは無い! 皆んな、貴方みたいに正直にいれると思ったら、大間違いよ!」

「それは、意志が弱いからでしょう。周りに嫌われるのが、怖いから自分の意見を隠すのよ」

「人に嫌われたくなくて何が悪いの? 私は、できれば平和に生きていきたい! これが私の意見、椿さんこそ幽霊だけじゃなくて、人の気持ちもわからないんじゃないの?」


それだけいうと、私は屋上から足早に出て行く。もう、椿さんの方を振り返ることもなかった。

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