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無理 ③

「嗚呼、嬢ちゃんが視霊ちゃんか。椿様の助手だろう。噂じゃなくて、実在したんだな。てっきり、椿様の作り話かと思ったよ」

「噂?」

「あの、人付き合いを極度に嫌う椿様が、自分から助手を連れてきたって、その界隈では暫く噂になってたよ」

「余計な話しないで」


今まで静観していた椿が、突然話し出す。苦虫を噛みつぶしたような顔に思わず笑ってしまう。

噂になっているという話は、椿の元指導員である宇都美さんにも言われたことだ。それはきっと、椿がそれほど人付き合いを嫌っていたということだろう。


「それより、今日は昔話をしにきたわけじゃないの。調べて欲しい事件があるのよ」

「嗚呼、わかってるよ。昨日電話で言ってた件だろう? 既にピックアップして、ほれ、このダンボールにまとめてある」


足元のダンボールを持ち上げ、机のど真ん中に置く。そのなかには、ファイルが何個も入っている。


「これが、今年この地域で起こった霊媒師が幽霊に殺害されたとみられる事件だよ」

「何件?」

「三件だ」

「‥‥‥多いわね」


顔を歪めた椿を見ながら考える。

霊媒師は、給料が高い。

その認識で、憧れを抱く人も多くいる。

しかし、その反面危険な職業でもあるのだ。私も助手になって、身をもって実感したことだが、悪霊は簡単に人を殺そうとしてくる。

霊媒師になれば自ずと除霊の機会はあるだろう。悪霊に会う確率が上がれば、殺される確率も上がるのだ。そうはわかっていても、三件という具体的な数を聞いてしまうと遣る瀬無い気持ちになってしまう。


「にしても、今年の分だけでよかったのか? もっと遡って探すこともできたぞ」

「いいの。今回の悪霊、幽霊に対して相当な怨みを持っているんだと思うわ。だとしたら、此方に戻ってきて早々に記憶を取り戻している可能性が高い」

「だから、今年の分だけで事足りるってわけだなぁ。いやぁ、天音様に似て聡明だねぇ」

「お婆さまほどではないわ」


そういうと、椿はファイルの中身をパラパラと見出した。私も横から覗き込むが、惨殺な事件に顔を顰めてしまう。不意に椿は、軽快に動かしていた手を止めて目を見開く。どこを見ているのかと、私も見ようとしたところで椿はファイルのページを開いたまま、武蔵野課長に返してしまう。


「見つかった死体の膝から下がなかったってあるけど、どういうこと?」

「これなぁ。ここにはなかったとしか書いてないが、切断されたとか千切れたとかそういう感じじゃあなかったんだよ。それこそ、膝から下だけ消されたみたいな不思議なご遺体だったからよく覚えてる。椿様、最近そういう事件に興味があったみたいだから、機会があったら伝えようと思ってたんだよ。その次のページにご遺体の写真がある」


椿の手で、次のページに捲られたファイルを覗き込むが、一瞬見て拒否反応を起こし、直ぐに目を逸らす。吐きそうになり、落ち着くようにお茶を飲んだ。


「あの、こういう事件ってよくあるんですか?」

「足がないご遺体のことか? 俺も刑事になって長いけど、あまり無い事例だったんだがな」


ここで、武蔵野課長は言いにくそうに顔を歪めた。言うか言うまいか迷っているといったところだろうか。軈て、先程の声とは比べ物にならない小さな声で話し始める。


「ここ数十年で、膝から下がないご遺体ってのは県内で急増してんだ。俺らも、これはおかしいと思って詳しく調べようとしたんだがな、そうする度に上から圧力かけられて、捜査打ち切りにさせられんだよ。益々怪しいよな」


それは、明らかにおかしな話だ。捜査を打ち切らせるだなんて、何か隠し事があると言っているようなものじゃないか。

そう思っていると、椿は立ち上がり、ありがとうと一言だけ言って応接室から出て行ってしまった。突然の行動にぽかんとしてしまう。武蔵野課長の置いていかれたなという言葉に漸く我にかえり、一礼して慌てて部屋を飛び出した。談話室から、がははと笑い声が聞こえた気がしたが気のせいだと思いたい。



◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉



椿に着いて次に来たのは、先程警察からの情報提供で明らかになった幽霊によって、殺害された霊媒師の家であった。

どうやら悪霊を祓うにも、家族に報告しにいかねばならないそうだ。因みに、祓いに行ったら別の悪霊だった場合は、事後報告になるらしい。なら、この事前報告に意味はあるのかとも思うが、まぁ決まりなのだから仕方ない。

一人目の方は、一人暮らしの方だったため、実家に電話して事情を説明し、二人目の方は、すぐ近くに住んでいたので直接話しに行った。いずれにせよ、どちらも同じような反応で何か堪えるようにしてすみませんと謝っていた。

涙を堪えたような様子に、此方の方が申し訳なくなる。だが、結局抵抗しても悪霊となっていた場合、家族の同意なしに祓われてしまうのだ。家族の元へ行くのは、あくまでも報告なのだから。


そう思っているうちに、三人目の家に着く。椿曰く、今回の悪霊、この家の可能性が一番高い。膝から下が無かったご遺体だ。

お屋敷のように大きな家のインターホンを椿が鳴らす。事情を話すと、直ぐに家へと入れてくれた。和室に通され、家主と思われる男性と向かい合う。


「娘の件でしたね‥‥‥悪霊になった可能性があるとか」

「ええ、まだ確定していませんが、可能性は高いと思います。もし、娘さんであってもなくても我々は、明日にでも除霊に向かうつもりです」

「そうですか」


厳しそうな顔で俯き、感情を抑えるようにため息を吐く。


「娘は‥‥‥清美は、殉職でした。私は、霊媒師でしてね、清美もそんな私の背中を見て霊媒師になりました。厳しい修行にも耐えて高校生という若さで独り立ちして、自分の娘ながら優秀だったと思います‥‥‥同じ霊媒師として、悪霊は絶対に祓うべきだと思うし、自分もそうしてきました。それでも、出来れば見逃して欲しいと思ってしまう私は、まだまだ未熟ですね。娘がご迷惑をおかけします」


そういい頭を下げた清美さんのお父さんに、私たちは何もいうことができなかった。

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