彼女は何も視たくない ③
「助手ってどういうこと?」
「その名の通りよ。私、霊媒師をしているの。だから、その助手よ」
「あの、話が見えないから正直に言うけど‥‥‥私、貴方がいう通り幽霊が怖いの。助手は無理だよ」
「そうでもないわよ。私から言わせれば、幽霊が好きな人の方が問題があると思うわ。除霊される幽霊を近くで見ていないといけないんだもの。その点、幽霊に苦手意識を持っている人はいいわ。除霊現場を見ても、気を病まないから」
「その理論、少しおかしくない? 私、幽霊が嫌いでも除霊現場を見たいとは思わないもの」
「貴方は、除霊現場を見たことがある?」
「‥‥‥いや、無いけど」
「なら、実際にやってみないとわからないじゃない」
「でも、幽霊に関わりたくないの。だから、助手はできない。それに貴方、霊媒師でしょう? なら、一級霊感なんだから助手なんて必要ないでしょう?」
私が、少し強い口調で言うと椿さんはフンと鼻を鳴らし、くだらないと言う様な態度を示した。
「あら、言ってなかったかしら。私、無霊感よ」
「えっ、無霊感?」
無霊感って、幽霊が視えないっていう、あの無霊感だよね?状況を理解して、思わずええ〜っと大声を出してしまう。
「あまり大声出さないで。耳に響くわ」
「ちょっ、ちょっ待って、無霊感ってそれじゃあ、どうやって霊媒師なんてやっているの!?」
「だから、貴方が必要なのよ。幽霊の位置を貴方に教えて欲しいの。簡単でしょう」
「ちょっと待って椿さん、貴方今までも霊媒師の仕事をやったことあるんだよね。そのときは、どうしていたの」
「今までは研修期間中だったから、指導員がいたのよ。でも、一年経って私も漸く独り立ちできるようになった。助手を自分の目で見て選ぶのが、東満星の伝統なのよ。そういう訳で、助手が居なくて困っている。貴方、一級霊感なのだから、悪霊かどうかの判断もつくでしょう?」
椿さんは、当然のように私の霊感レベルを言い当てた。しかし、私は話してもいない情報を言い当てられて酷く驚いた。
「どうして、私が一級霊感ってこと知ってるの?」
「ターゲットを調べるのは、霊媒師の基本よ。貴方のことなんて簡単にわかったわ」
「勝手に調べるなんて‥‥‥まあ、いいや。でも、私、霊媒師の資格がないから仕事は手伝えないよ」
霊媒師をするには、筆記のみの試験を受けなければいけない。そういうふうに、国で管理しなければ、誰でも霊媒師を名乗れてしまう。霊媒師には色々な仕事があるが、その一つに除霊がある。無免許の人が除霊をしたら善霊、悪霊関係なく祓ってしまうかもしれない。それを危惧して、免許がないものは霊媒師を名乗れないことになっているのだ。また、免許を取ってからも一年間の研修期間がありそこで指導員に認められなければ、霊媒師を名乗れず活動することは許されないという厳しい条件がある。
「資格のことを知っているなら、助手は無免許でもできることも知ってるでしょう?」
「そうだけど‥‥‥それとは関係なく私、極力幽霊とは関わりたくないの。だから、無理」
私は、それだけ伝えると足早に屋上の出入り口の扉を開き階段を降りる。去り際、少しだけ見えた椿さんの顔は、相変わらずの無表情だった。
◎◉◎◉◎◉◎◉◎◉
「あっ、視霊ちゃんおかえり」
教室に戻ると、小さく手を振りながら柚子葉が出迎えてくれた。予想以上に話が長くなってしまい、弁当を食べる時間は余程残っていないので途中まで食べた弁当を鞄に戻す。
「視霊ちゃん、椿ちゃんとどんな話したの?」
「別に大したことのない話だよ」
「柚子葉ねぇ〜、視霊が中々帰ってこないから〜、凄く心配してたんだよ〜」
秋乃がニヤニヤとしながら、柚子葉の方を見ると、柚子葉は気恥ずかしそうに顔を赤くし、俯いてしまった。
「だって、すぐ帰ってくるって言ったのに遅かったから」
「心配かけてごめん」
「何もなかったなら、いいよ」
私は、柚子葉が本当に心配してくれたことが嬉しくて、にこりと笑っていると秋乃が再び話し出した。
「私だって〜、心配したんだよ〜。椿は、中学の頃から変わり者で有名だったからぁ〜」
「えっ、もしかして秋乃って椿さんと同じ中学なの?」
「三年間同じクラス〜」
「そうだったんだ。ねえ、椿さんってどんな人だった?」
すると、秋乃はう〜んと少し目線を上にしながら、考えて軈て考えがまとまったのか挙手する様に右手を挙げた。
「優秀な人〜」
「えっ、それだけ?」
「う〜ん、あとは〜、お母さんの実家が〜東満星神社で〜、椿も〜その神社に〜弟子入りしてるっていってた〜」
東満星神社といったら、優秀な霊媒師を輩出しているって可成り有名なところだ。弟子入りしたいって、毎年何万人もの希望者が全国から訪れるらしい。だが、弟子入りできるのは数十人だとか‥‥‥霊媒師について勉強していない私でも、その話は聞いたことがある。
「それから〜、一級霊感の優秀な霊媒師って噂だった〜」
「‥‥‥そうなんだ」
やっぱり、皆んな椿さんが無霊感だってことは知らないんだな。そりゃあそうか。私だって、霊媒師やってるって聞いたから、一級霊感だと思ったんだしなぁ。
それに、あの性格だ。友達とかあんまり居なくて、噂を否定するまでもなく広まったんだろうなぁ。
「えっ、椿ちゃんって一級霊感なんだね。視霊ちゃんと同じだね」
「え〜、視霊って一級だったの〜。私、そっちの方が驚きだよ〜。教えてくれればよかったのに〜」
「いや、一級っていっても悪霊かどうかの判断できるだけだし、正直ニ級とそんなに変わらないよ」
「凄い能力なのに〜、自慢しないなんて〜偉いねぇ〜」
「そんなことないよ」
私は、笑いながら首を横に振って否定した。これは、決して謙遜しているというわけではない。世間一般的には、一級霊感を持つものは素晴らしく恵まれたことだと思われている。
だが、幽霊を怖がる私からしたら、この能力は寧ろ邪魔なくらいだ。悪霊を見たことがないということだけが不幸中の幸い。
私がそんなふうに考えていると、午後の始まりを告げるチャイムが鳴り、この話は自然に終わった。
椿さんが教室に帰ってきたか、ちらっと後ろを確認する。もうすでに戻ってきていた様で、私と目が合うと、さりげなく晒された。
きっと、もう椿さんと話すことはないだろう。
と思っていたのは、どうやら私だけだったらしい。
「要視霊、貴方に話がある」
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