表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/60

華道で踊る ③

至る所から、おほほほと現実離れした笑い声が聞こえる。私は、茶色の鬘がズレないように頭を然りに気にしてしまう。怪しまれないように、俯くと純白のジャンパースカートが見えて思わず溜息を吐く。前を向くと、黒髪の美女、改め黒色の鬘と眼鏡を掛けた椿が見えて、また疲れる。堂々とした佇まいは、此処に昔から在籍している生徒のように見えた。私は、落ち着かなくそわそわとしてしまう。

だが、こればかりは仕方ない。真逆、大葉礼の普段の姿が見たいからと、羽天白女学園に潜入するとは思わなかった。羽天白女学園が、土曜まで授業があったため学校を休まずに、潜入出来たことだけが唯一の救いだ。

学園側には、悪霊が出たと通報があったといったら案外すんなりと許可してくれた。因みに頼んだら、この制服も学園側が貸してくれた。だが、クラスに突然二人も増えたら怪しまれると、昼食時に礼さんが利用するらしい学食で様子を伺うことにした。怪しまれないように、私たちも学食で頼んだサンドウィッチを摘んでいる。


「礼さん、本当に来るのかな?」

「来るわよ。此処に通ってる子から、聞いたから間違いないわ」

「椿って、顔が広いねぇ」

「霊媒師仲間の娘さんが此処に通ってるってだけよ」

「ふ〜ん」

「それより、キョロキョロしすぎ。怪しまれるわよ」

「椿が堂々としすぎなんだよ」


椿の知人のお陰で、この学食を毎日使っていること、礼さんたちとその友人たちはいつも座るお気に入りの席があるらしいということがわかった。そのことは、学園で有名なのか、混雑している今でも窓際の席は誰も座ろうとしなかった。そんなこんなで、私たちはその席の近くに座っている。

不意に、ざわざわと騒がしかった学生たちに妙な緊張感が走る。入口を見ると、つい先日会った礼さんを筆頭に四、五人の煌びやかな軍団が堂々と入ってきた。その後ろを、申し訳なさそうに小柄な少女がついている。そのまま、例の席に座るが、わざとなのか偶々なのか、ひと席だけ足りない。小柄な少女だけが座ることができずに、突っ立ったまま俯く。

そんな様子を見て、礼さんがお手本のような笑みを見せる。


「何を突っ立っているのかしら。私たち、食事をとりにきたのだけど、給仕は貴方の役目ではなくって?」


取り巻きたちが、くすくすと笑う。なかには、早くなさってという声まで聞こえてきた。

嫌な笑みだ。気分が悪い。

少女は、ごめんなさいとか細い声でいい、慌てて食事を取りに行った。ひとりで、四人もの料理を運ぶのは大変だろう。思わず手伝うために立ち上がろうとして、ぐっと我慢する。此処でバレたら全て水の泡だ。

手に爪が食い込む程に握りしめながら耐える。向かえに座っている椿を見ると、心底興味なさそうに本を読んでいる。しかし、視線だけは礼さんたちを見ており、その目は軽蔑の色が濃く浮かんでいた。

やがて、少女が両手にお盆を抱えて帰ってきた。だが、それは礼さんたちに食べられることはなかった。何故なら、少女が食事を机に置く前に彼女の足を礼さんが引っ掛けて転ばせたからだ。無惨にも、床にぶちまけられた食事に取り巻きたちがまた笑う。

周りの人たちは、皆見て見ぬ振りを突き通すようだ。さっきまでの明るい声が、枯れてしまったように静かだった。


「あら、何も無いところで転ぶなんて、貴方って本当に無能ね。もういいわ。食事は、自分でとってくるから、貴方は此処を片づけなさい」


少女は、瞳に涙を溜めながら縋るように礼さんを見つめた。汚した床を拭こうと、少女がテッシュを取り出し、跪いたとき衝撃の一言が私の耳に届いた。


「明美、真逆とは思うけど手で片付けようとしているの?ダメよ、犬は手なんて使えないわ?口でなさい」

「そ、そんな」

「私のいうことが聞けないの?」

「ち、違います! けど、でも口でだなんて私‥‥‥」


私は、もう我慢できないと立ち上がろうとしたとき向かえの席から、バンと机を叩きながら立ち上がる人物がいた。椿だ。

椿は、そのまま歩いて跪く少女の元へ歩くと落ちていた食事を踏み潰した。少女は、更に悪くなった状況に絶望の顔をし、礼さんは面白そうにことの成り行きを見る。しかし、礼さんの期待とは裏腹に、椿は眉を下げ、ごめんあそばせと謝罪する。


「貴方の食事、間違えて踏んでしまいましたわ。代わりに(わたくし)が片付けますわね」


申し訳なさそうな笑顔でいうと、素早くお盆の上にこぼした食事をテッシュで拾っていく。汚れていた床はすっかり綺麗になり、椿は自身の手も拭った。その様子を見て、礼さんはつまらなそうに顔を歪めた。


「はぁ〜‥‥‥興が冷めた。貴方たち、私の前から今すぐ消えて」

「は、はい。ごめんなさい」


怯える少女とは、反対に椿は優雅にワンピースの端を摘み、ご機嫌ようと挨拶して此方へと戻ってきた。

私の手を掴むとさっさと歩き出す。苛々した様子で学食から出て行ってしまう。いつもよりも早い速度に小走りでついて行く。


「待って! もういいの?」

「もう十分よ。あれ以上居たら殴ってしまう。確信した、奴が主犯よ。そして、学園中が、光さんの状況を知っていた。視霊、今日の二十時開けておきなさい。行きたい場所があるから」






予定通り、私たちは二十時待ち合わせし、今は昼にも来た羽天白女学園に来ている。何故、此処に来たのかというと、椿にいわれたからだ。椿の話によると、死んだ人間は死んだ場所に戻ってくることが多いらしい。会える可能性を上げるために、光さんが自殺を図った時間に来たという訳だ。

もちろん、学園側にも許可は取った。だが、学園側に許可を取りに行ったとき、屋上へ行きたいといったら光さんのこともあってか非常に嫌な顔をされた。だが、悪霊を放っておくことも出来ないと判断したのだろう。嫌々ながらも許可をくれた。

そんな訳で、薄暗い学園内を椿と二人きりで歩いている。椿が何も話さないので、ずっと気になっていたことを話す。


「あのさ、華道くんってどういう人なの?」

「なに? 急に」

「いや、気になってたんだけど、聞くタイミングがなくて」

「私もよく知らないわ」

「嘘! 凄く嫌いそうじゃん。理由があるんでしょう」

「理由なんかないわよ。只、気が合わないってだけ」

「視えないのに?」

「そう、視えないのに。昔、任務で会ったとき色々調べてたらなんか嫌いになったの。本当、一方的な感情よ」

「やっぱり、調べてるんだね。そのときのこと教えてよ」

「貴方なんか性格悪くならない?」

「誰のせいだろうね」


椿は、ため息をつくと、ぽつぽつと話し出した。


「‥‥‥彼の本名は田中華道(たなかかどう)。東満星神社の近くに商店街があるでしょう? 彼処の弁当屋の一人息子。生前、うちの学校の華道部に所属していたわ。十八歳で、亡くなっている。服毒自殺だったわ」

「自殺!?」

「ええ、農薬を飲んだことによる自殺だと断定された。山で眠るように亡くなっていたらしいわ」


俄には信じられなかった。自殺するような性格にはとても思えない。


「理由は?」

「‥‥‥さぁね、聞いてもはぐらかされる。生前の学校でも男女共に仲が良かったみたいだし、家庭環境も問題なし。お弁当屋でも、近所のご婦人方に人気のある看板息子だったそうよ。何か悩みがあったようにも見えなかったらしいわ」

「そう、なの」


華道くんの話をしているといつの間にか、屋上についていた。

お嬢様学校といわれているだけあり、学園内は広く複雑な構造になっている。ここに来るまでわりと迷った。

椿が懐から、屋上の鍵を取り出す。あの自殺事件があってから屋上は閉鎖したらしい。暫く開けられていなかっただろう扉は、立て付けが悪く椿が力を込めて漸くガタンという大きな音を響かせながら扉が開く。

其処には、フェンスの上に座るひとりの女の子が視えた。深緑色の短髪姿は、あの防犯カメラに映っていた人物に似ていた。あれだけ大きな音を鳴らしながら、入ってきた私たちに目もくれず、彼女は夜空をずっと見ていた。今日は、曇り空で星もろくに見えもしない。


「だれ?」


夜風に飛ばされてしまうような、弱々しい声だった。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、是非ブックマーク、広告下の評価を五つ星していただけるとモチベーションアップにつながってありがたいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ