彼女は何も視たくない ①
ここから本編スタートです!
「お母さん、行ってきます!」
「いってらっしゃい視霊、気をつけてね」
お母さんに聞こえるように声を響かせる。
私は、今日から高校生になる。高校には、中学で一番仲が良かった友だちもいるし、少しの不安はあるが楽しめたらいいなぁと思いながら家の扉を開けた。
家を出ると、そこには胸のあたりまで伸びた髪を右側だけ編み込んだ薔薇色の髪を揺らす友人が立っていた。真っ黒で、足首辺りまである長い丈のスカートのセーラー服は、彼女にとても似合っている。彼女には、淡い色が似合うとばかり思っていたが、黒も似合うな。私はといえば、真っ黒な髪をポニーテールにしている地味な髪色なので、昔から彼女が少しだけ羨ましかった。
「柚子葉、おはよう。ごめんね待たせて」
「ううん、いいの。私も今日は、寝坊しちゃったから」
「へぇ、珍しいね。もしかして、昨日よく眠れなかった?」
「実は、そうなの。新しい環境になると、緊張しちゃって‥‥‥視霊ちゃんがいると思うと、少しは安心なんだけどね」
ニコリと遠慮がちに微笑んだ柚子葉は、やっぱり人見知りを克服できていない様子だ。そんなふうに考えていると、八時を告げるチャイムが聞こえてきた。いよいよ時間が迫ってきた。入学初日に遅刻は、流石に不味い。
「柚子葉、急ごう。走れる?」
「うん、大丈夫」
私は、柚子葉の答えを聞き彼女の手を握ると、今日から登校することになる、金森烏高校への道を走りだしたのだった。
結果的に入学式には、ギリギリ間に合った。その日のうちに、クラス発表もされ、私は柚子葉と同じクラスになることが出来たのだ。
でも、最初の席は完全ランダムらしく、柚子葉とは離れてしまった。窓辺の席なので、気晴らしに外を見ることができるのが唯一の利点だろうか。私のそんな思想とは裏腹に担任は人の良さそうな笑みを浮かべながら、黒板に自分の名前を大きく書く。可愛らしい見た目とは違い、大きく派手な字である。そこには、大垣春風と書かれていた。
「大垣春風です! 担当科目は、生物。これから、よろしくお願いしますね」
声は、見た目通りの柔らかげな響きであった。今年の担任は、優しそうな女の人で当たりだなぁなんて思いつくほどだ。飴色の髪をハーフアップにしており、ロングスカートを履いた彼女は美しい笑みを浮かべている。
「それでは、この時間はホームルームとします。だからといって、先生だけが話すのも面白くないですね。折角ですから、自己紹介をしてもらいましょうか。自分の名前と、それから、先生は生物の中でも霊感の分野に力を入れていますから、霊についてどう思うかを発表してもらいましょう」
それから、始まった自己紹介は皆んな似たようなものだった。霊についての印象も、一様に良い印象ばかり。そして、いよいよ私の順番がやってきた。
「要視霊っていいます。霊については、小さい頃からそばにいるので、友人みたいな感覚に近いです。これから、よろしくお願いします」
私が一礼すると、クラスの人たちがパチパチと拍手を鳴らした。はあ、緊張したが何とかなったようだ。
その後も無難な自己紹介が続き、いよいよ最後のひとりになった。最後の子は、銀色の長いストレートヘアに青い瞳を持つ、目元の吊り上がった容姿端麗な女の子であった。銀色なんて珍しい髪色だなあと考えているのと、彼女が衝撃的な発言をしたのはほぼ同時だった。
「東福椿。幽霊は、大嫌いです。生きてきた中で、一度も良い印象を持ったことがありません。これから持つ予定もありません」
そういい放ち、そのまま席に座ったではないか。余程、乱暴に座ったのだろう、椅子はカタンと甲高い音を鳴らした。それと比例するように、クラスはかつて無いほどの静かさに包まれた。私を含めて、全員が拍手をするのを忘れて椿さんの方を見つめていた。それもそのはず、幽霊にいい印象を持つ者はいても、悪い印象を持つ者は中々いない。
何故なら、幽霊といっても元は人間。このクラスの中にも、自分の家族や親戚が亡くなり、幽霊として戻ってきた人も少なくは無いだろう。幽霊を馬鹿にすることは、家族を馬鹿にするのと同義と考えられているこの世界で、今の発言は余りに失礼すぎた。
いち早く正気に戻ったのは、春風先生であった。先生が拍手し出すと、クラス中で拍手が鳴りだした。拍手には、明らかな困惑の色が出ていたが、先生は構わず続ける。
「色々な考えがありますね。先生は、皆んなの意見が聞けて、とても勉強になりましたよ。土、日明けの月曜から、本格的な授業が始まって疲れると思いますので、今日はここまでにしましょう。しっかり休むようにしてくださいね。それでは皆さん、良い週末を」
その途端、クラスメイトたちはぞろぞろと席を立ち帰る準備をする。この短時間で、友達を作った人たちもいるらしく立ち話をしていた。
きっと、椿さんのことも話しているのだろうなあ。
それにしても、さっきの椿さんは衝撃的だった。そんなふうに考えていると、後ろかれトントンと肩を叩かれた。驚いて振り返ると、俗にいう姫カットをした青髪の女の子が、ニコニコと笑いながら私を見ていた。いや、青髪というよりも頭のてっぺんから先まで、下に行くほど濃い青色になっている不思議な髪色だった。
どうやら、肩を叩いたのは彼女らしい。
「ええと、何か御用ですか?」
「御用というか〜指摘というか〜兎に角〜気になったので〜」
「指摘ですか」
「はい〜、あの〜、鞄に〜値段の〜タグが付いてますよ〜」
「えっ⁈」
私は、慌てて鞄を確認する。朝急ぎすぎて気がつかなかったが、其処には確かに値段のタグが付いていた。
恥ずかしすぎる。朝から、何時間この鞄を持っていただろうか。誰か教えてくれてもいいだろうに‥‥‥まあ、すぎたことを悔やんでも仕方がない。今、気がついたのは不幸中の幸いだろうか。
「あの、ありがとうございます。全然、気が付きませんでした」
「意外と〜気が付かないよね〜。あっ、そういえば私、鋏持ってるよ〜」
女の子は、私に鋏を差し出してくれた。有り難く貸してもらう。恥ずかしさから、慌ててタグを切り直ぐに返す。
「本当にありがとうございます‥‥‥ええと、ごめんなさい名前聞いても?」
「南方秋乃で〜す。よろしくね〜」
「秋乃さんですね、私は‥‥‥」
「要視霊ちゃんだよね〜、覚えてるよ〜よろしく〜。それから、敬語もさんもいらないよ〜」
「えぇと、じゃあ秋乃、これからよろしくね」
「よろしく、視霊〜」
二人で取り留めのない話をしていると、柚子葉が迷いながらも此方に近づいてきた。きっと、話し込んでいたから輪に入りにくいのだろう。私は、そんな柚子葉を見つけると手招きして呼びつけた。柚子葉が小走りで私の隣まで来ると、自然と秋乃の目線も柚子葉へいく。
「秋乃、紹介するね。この子、私の中学時代からの友だち、柊柚子葉」
「あ、あの、よろしくお願いします」
「私は、南方秋乃〜。こちらこそよろしくだよ〜。柚子葉って呼んでもいい〜?」
「あっ、はい。大丈夫です」
秋乃は、話し方からぼんやりとした人物のように見えたけど予想以上にコミュニケーション能力が高いらしい。人見知りで、引っ込み思案な柚子葉ともスムーズに話せているのは、秋乃が柚子葉に合わせているからだと思う。
すると、クラスの騒がしさを聞いていた春風先生が声を上げる。
「皆んな、仲良く話すことはいいことだけど、月曜日は疲れるから、今日はほどほどにして帰ってね」
その言葉を聞いて、話していた生徒たちも段々と教室から出ていく。
「そうだ〜、二人がよかったら〜一緒に帰ってもいい〜?」
「もちろん、大歓迎だよ。柚子葉は?」
「視霊ちゃんがいいなら」
「じゃあ、決まったことだし帰ろうか」
教室を出る間際、私はふと気になって椿さんが座っていた席を見るともう其処には誰もいなかった。
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