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老いた英雄は栄光の道を逆走する  作者: 昼熊
二章

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32/49

説明って難しい

「あぼぼぼぼっ」


 バカ正直に正面から突っ込んできたシエルが、空水魔法に突入してもがいている。懸命に暴れているが、その動きは鈍く手足をばたつかせている姿は少し面白い。

 このまま放っておくと本気でヤバいので一度解除するか。

 指を鳴らすと同時にシエルが地面に突っ伏す。


「ぜーはーぜーはー。死、死にかけた……」

「空水魔法について少しは知っているくせに、なんで突進してくるんだ」

「体験してみないとわかんないかなーって。ほら、習うより慣れろっていうから」


 だったら触れた時点で下がれ。なんで前に進もうとした。

 普通はこの魔法に触れたら物怖じするんだが、あの爛々と輝く目はまったく懲りてないな。


「でも、すっごいね! 本当に水に突っ込んだみたいだった! でもさ、この魔法って水の中にいるみたいな感じになるんだったら、ライク師匠も動き辛いよね?」

「ああ、そのことか。いや、俺は普通に動ける」

「ええええーっ! そんなのずっこい! 卑怯だ!」


 地面に寝転がって手足をバタバタすんな。幼児かお前は。


「まあ、かなり有利になる魔法なのは確かだ。なので、頻繁に使わないようには心掛けている。頼り切りだと腕が衰えそうだからな」


 実際の話、この魔法を発動すれば格上の相手でも完封できる。

 魔法は俺を中心に大股で十歩ほど進んだ距離まで展開できるので、四方を囲まれても集団戦にも応用が利く。

 そして、周囲に張り巡らせた空水は俺の意思で濃度を変えることも可能だ。水よりもドロドロとした沼のようにもできる。ただし、魔法の消費量は跳ね上がるが。


「この魔法があれば無敵だよね」

「いや、対応できる魔法もあるぞ。あとは魔法の範囲に入らず持久戦に持ち込むとかな」


 以前戦った氷の魔法との相性は最悪だった。

 それに若い頃の膨大な魔力があれば長時間の維持も可能だろうが、今の魔力じゃ数分がいいところ。乱発できるものじゃない。


「師匠、魔法ってずるいよね。……そもそも魔法って何?」

「素朴だが深い質問をいきなりするな。魔法についてなら専門家に訊くの一番だ。リトル、ちょっと来てくれ」


 俺が手招きすると、トコトコと少女が歩み寄ってくる。

 いつもは長い髪を三つ編みにしているのだが、今日は長い髪を頭の上で渦巻き状にしてまとめている。盛られた髪には髪飾りが無数に取り付けられていて派手だ。

 こいつの髪型はスマイルの気分次第で変わるので、今日は時間と余裕があったんだろうな。


「なんか用かのぅ」

「魔法について教えて欲しいんだってよ」


 説明が面倒で投げただけだが、中途半端な知識で語るより、本職から詳しく教えてもらった方がいいに決まっている。


「ほう、よい心掛けじゃ」

「先生! 私は魔力があるのに魔法が使えません! 使える人と使えない人の差ってなんですか?」


 ビシッと勢いよく手を上げて真面目な顔で質問をするシエル。

 それを見て満足そうに頷くリトル。

 ここだけ見たら、ごっこ遊びに付き合っているお姉さんと子どもだな。


「魔力は多かれ少なかれ誰にでもあるものでのぅ。魔力を体に通し、肉体を強化するというのが基本の使い方じゃ」

「はい、それは得意です!」


 シエルは魔力の多さと身体強化に活用する技術は優れている。魔法が使えなくても、その身一つで大抵のモンスターと渡り合えるだろう。


「魔法……正確には属性魔法なのじゃが。それを使うには精霊と契約をする必要がある」

「その精霊と会ったことがないです! 精霊ナンパスポットとかあるんですか⁉」


 こいつ精霊をなんだと思ってんだ。


「火があるところには火の精霊。水のあるところには水の精霊がおる。精霊は自分と相性のいい相手を見つけると、自ら契約をしないかと誘ってくる」

「つまり、ナンパスポットに行けば逆ナンされるんだ!」


 ナンパから離れる気はないのか。


「ま、まあ、そうかのぅ」

「ちなみに精霊との相性ってどうやって決まるの?」

「それは素質というしか……。あとは精霊に好かれる体質が重要かのぅ。あと、精霊は独占欲が強く自意識が過剰なものが多い。故に複数の精霊と契約するのは難しいと言われておるよ」


 独占欲が強いから契約者を自分だけのものにしたがる。それに加えて自意識が強いから「この人は私のもの!」と所有権を主張するために、体の色を自分好みに変更させるのだ。

 色を変える場合も条件があって、人目に触れない部位は除外される。なので、目、髪、手の爪なんかが基本だな。


「精霊に好かれるかー。よくわかんない」

「あー、あれだ。精霊ってのは居心地のいい相手を探しているそうだぜ。魔力の多さも重要だが魔力の質、その人の性格、ってのも重要視されているって話だ」


 口を挟んで補足説明だけしておく。

 リトルは異様なまでに好かれる体質なのだが、自分ではその理由を理解してない節がある。なので、ここは俺が言った方がいいと判断した。


「質、性格。えー、それっておかしくない? こんなにかわいくて魅力的でノリもいい私に精霊が懐かない訳がない!」


 胸を張って自信満々に言い切る根性は見習いたい。


「精霊は騒がしい子が苦手やよ」

「しゅーん」


 リトルの一言が突き刺さったようで、シエルが膝を抱えて地面を転がっている。

 今の発言は正確に言うと少し違う。多くの精霊がそういった人間を嫌っているが、精霊にも差異があり、騒がしい人間を好む精霊も少数だが存在する。


「ま、それはそれとして!」


 一瞬で立ち直ると、膝を抱えた状態から飛び上がり質問を続けるシエル。

 あの無尽蔵の元気さが、少しだけ羨ましい。


「精霊と契約したあとに魔法ってどうやって使うの?」

「そうじゃな。魔法には三段階の過程が存在する。発動、形成、射出」

「???」


 シエルは首を傾げて頭を捻っている。あの顔、まったくわかってねえな。


「火の魔法で例えるとするかのぅ。まず、火を出す」


 リトルが右手を伸ばすと、手のひらの上に小さな火が灯る。


「その魔法を好きな形にする」


 火が円になったり、鳥のような形へと変化していく。


「そして、それを飛ばす」


 小さな炎の鳥が上空に向かって羽ばたいていった。


「ざっとこんなもんじゃ。この発動、形成、射出には術者によって得手不得手があってのぅ。ライクは発動は得意なんじゃが、他はからっきしでなぁ」

「こればっかは才能だからな」


 周囲に空水魔法を発動するまではいけるんだが、それを形成するのも射出するのも苦手だ。だから、自らの手で魔法を掴み腕力で投げている。


「形成が得意な者は火を剣やムチにして操る者もおる。発射が得意であれば他者よりも速く威力のある魔法を放てる」

「そうなんだ、全然知らなかった。あっ、ちなみにリトル先生はどれが得意なの?」

「わしか。わしは全部得意じゃのぅ」


 そう言ってニヤリと笑う、幼女にしか見えない〇〇〇歳のエルフ。

 こいつは規格外だからな。常識の範囲には収まらない才能の持ち主だ。


「ええええっ、ずるいいいいぃぃ! その才能ちょっと分けてよおおおおっ!」

「ふおっふおっふおっ。騒がしい子は精霊が逃げるでのぅ」


 すがりつくシエルの頭をリトルが撫でている。

 いつか相性のいい精霊と出会える日が来るかもしれないが、今はないものを望んでいる時間すら惜しい。


「属性魔法は縁もあるからな。今はあるものを伸ばす方向性でいくしかねえだろ」

「そうっすよね! 精霊に見初められるまで女磨きに専念する! 鍛錬の続きお願いしやっす!」


 鍛錬して女が磨けるかは甚だ疑問だが、こんなご時世だ。強くなるに越したことはない。


「じゃあ、続きやるぞ。相手が魔法使いだった場合の対処法を体で覚えろ」

「わかりやした!」


 再び空水魔法を周囲に展開させる。

 シエルの位置だとギリギリ届かない範囲にしておいたので、これをどう対処するか見物させてもらうとしよう。


「師匠、二度も同じ手は食らわないっすよ! いっち、にっ、さんし、ごー、ろく、ひっち、はっち」


 何を思ったのか魔法を前にして柔軟体操を始めている。

 体を温めてから運動をするのは間違いじゃないが、あれだけ暴れたあとだから今更感が強い。

 ……待てよ。魔法の届かない間合いで相手の出方を見守りつつ、挑発も兼ねているのか?

 少しは考えるようになったじゃねえか。猪突猛進しか頭になかった弟子の成長に嬉しくなる。


「よっし、準備運動終わり! 水に入る前にはちゃんと体をほぐしておきなさい、ってお母さんが言ってたからね。じゃあ、行くよー!」


 大きく跳躍すると頭から空水魔法に飛び込んできた。

 そして案の定、必死の形相でもがいている。

 ……育成方針を変えた方がいいのかね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シエルがアホの子で微笑ましいです。
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