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老いた英雄は栄光の道を逆走する  作者: 昼熊
一章

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清きこと

「なんだよ、じいさん!」


 活きのいいガキだ。見知らぬ相手にいきなり怒鳴りつけるとは。

 頭に血が上ってやがるな。やれやれ、若さ故の無謀さか。


「誰がじいさんだ。せめて、オッサンと言え」

「どう見ても、五十以上だろ」

「五十はオッサンだろ」

「五十って孫がいる年だろ。俺のじいちゃんもあんたぐらいだぞ」


 その言葉を聞いて愕然とする。

 孫、そうか、孫がいてもおかしくない年なのか……。二十前で結婚、出産は珍しくもない。だとしたら、この年だとこれぐらいの孫がいて当然。


「お、おい、じいさん。急に膝を突いてどうしたんだ? 立ちくらみか?」


 口は悪いが俺を本気で心配しているのが伝わってくる。根は悪くない小僧らしい。


「気にすんな。ちょっと現実に打ちのめされていただけだ。俺は、ライクって呼ばれているんだが、お前さんの名は?」

「えっ。……ダリルイだけど」


 自分の名を訊かれるとは思ってもいなかったのか、キョトンとした顔で意外にもあっさりと答えた。


「仕事の依頼できたんだろ? 詳しい話を聞かせてくれや」

「えっ、じいさんじゃ……。あー、弟子とか知り合いのハンターに頼んでくれるのかよ⁉」

「いいや。俺と仲間たちで受けてやるぜ」


 自信満々の笑顔を見せて背後にいる仲間たちを指差すと、ダリルイの表情が期待から失望へと露骨に変貌した。


「……あのおばさんは美人だけど戦えそうもないし、ムキムキの聖職者だけは強そうだけど笑ってて怖いし。……なんだあのちびっ子。じじいとおばさんとガキって、俺をからかってのんか?」

「美人はええとして、おばさん……」


 いち早く反応した仲間の声に振り返ると、こめかみに血管が浮き出ていたが見なかったことにして話を続けよう。


「そんな顔するなっての。まあ、話だけでも聞かせてくれや。このまま手ぶらで帰るわけにもいかねえんだろ?」

「そ、それはそうだけど」


 ため息を吐いて落ち込むと、うつむいて地面に向かい「でもなあ、これじゃあ」とかブツブツ言っている。

 情緒不安定なガキだ。


「メルムル、この依頼を俺たちが受けても問題ないよな」


 ダリルイがカウンターに叩きつけていた依頼書を手に取り、ひらひらと振る。

 受付嬢のメルムルが申し訳なさそうに目を伏せると、深呼吸をしてから顔を上げ大きく頷く。


「はい、問題ありません。いつも、すみません」

「気にすんなって」


 深々と頭を下げるメルムル。この受付嬢はギルドで珍しく、俺たちを敬ってくれている職員だ。見た目が童顔なので子どもや孫を見るような目線になってしまう。


「おいおい、じじいは無茶すんなよ」

「ロートルハンターはお呼びじゃねえっての」

「おまえらは介護施設にでも行けって」

「何よ、そのダサい格好は。ぷっ、辺境の民族衣装?」


 ガキに絡んでいたハンターたちが今度はターゲットを俺に変更したようだ。

 格好がダサい、ね。若いヤツらにはこの服装のセンスがわかんねえか。

 罵倒はいつものことなので意にも介さず、手をヒラヒラと振って適当に聞き流しておく。


「じいさん、あんだけ言われて腹が立たないのかよ! 言い返せよ!」

「お前がキレてどうすんだ」


 当人が気にしてないというのに、こいつは怒り心頭といった感じだ。


「小僧、いい言葉を教えてやろう。弱いヤツほどよく吠える。アレがそれだ」


 そう言ってニヤリと笑い、絡んできた連中に視線を向ける。


「おい、じじい。今、なんて言った? 俺様の聞き間違いだよな?」


 一番体格のいい男が立ち上がると、脅しのつもりなのか首を鳴らしながら歩み寄ってくる。

 目の前に立つと顔を近づけて、酒臭い息を吐きかけてきやがった。……俺はここんとこ酒を飲んでないってのによ。


「じじい、もう一度言ってみろや。年寄り相手だからって甘くはねえぞ、俺様たちは」

「なんだ、その年でもう耳が遠いのか。それだと三十超えてくると辛えぞ。三十半ば辺りから急に体が衰えだして、四十超えてくると朝起きたら体のどこかしらが痛く――」

「辛気くせえ話なんぞ聞きたくねえんだよ! 舐めてんのか!」


 人が親切で老化への心構えを説いてやっているのに、男はすごむと俺の胸元を掴み、そのまま軽々と持ち上げた。

 俺と身長はそんなに変わらないというのに、見た目通り怪力自慢のようだ。


「この年で高い高いされるとはな」

「おうおう、余裕じゃねえかじじい。俺はじじい相手でも容赦しね……うおおおおっ? なんだ、なんだ⁉」


 急に焦った声を上げた大男が、懸命に足を暴れさせているがその場から一歩も動けない。

 持ち上げられて見通しが良くなった視界が、更に高い位置へとゆっくり上っていく。

 大男が俺を掴んだまま慌てて振り返ると、背後から大男の襟首を掴んで持ち上げている聖職者の仲間がいた。

 つまり、今の状況は俺を持ち上げた大男を仲間の聖職者が後ろから持ち上げた形になっている。……なんだこれ。


「なあ、バージン。助けてくれるのはありがてえんだが、すげえ間抜けに映らねえか?」


 俺が聖職者――バージンに問い掛けると、笑顔のまま小首を傾げている。


「バカとなんとかは高いところが好きと言いますからね。喜んでもらえるかと思ったのですが」

「こいつを貶すのはどうでもいいが、俺をこんなのと一緒にすんな! あと、とっとと離しやがれ」


 大男の肘を下から軽く叩き、関節を曲がらない方向に押してやると直ぐに手を離した。

 床に降り立つと、未だに空中でもがいている大男を見上げる。


「くそっ、てめえ離しやがれ! おい、お前らぼーっと見てねえで助けろや!」


 背後から掴まれてどうしようもなくなったのか、情けないことに仲間へ助けを求めている。


「ダセえなー。じじい相手にいいようにしてやられてんじゃねえよ」

「仕方ないわね。あとで酒を奢りなさいよ」


 バカにしながらも残りのハンターたちが立ち上がり、俺とバージンを取り囲む。

 意外と仲間思いなんだな。


「二人とも助けが必要やったら、聡明で美しいスマイル様、助けてくださいー。って泣いて懇願しいや」

「こらこら、若い者同士、仲良くせんか」


 こっちの仲間の二人は口は挟んでも助ける気はないようで、呑気に食事を続けている。

 さてと、ぶらぶらしている大男は放っておくとして、あとは槍使いの男と金髪の髪に魔法使いらしき杖を持った女。残りの一人は軽装で腰に銃を装備している男か。


「おやおや、か弱い老人相手に四対二ですか。この国の未来が心配ですよ」

「俺を軽々と持ち上げるじじいのどこがか弱いんだよ!」


 捕まったままの大男が律儀にもツッコミを入れている。


「荒事は嫌いなので話し合いで平和に解決をしたいところですが、その前に一つ質問があります」


 穏やかに語りかけるバージン。

 俺はその質問の内容がなんであるかわかっているので、思わず頭を抱えてしまう。


「皆さんは清き体……童貞と処女ですか?」

「「「「えっ?」」」」


 ハンターたちの声が重なった。


「おや、よく聞こえなかったのでしょうか。皆さんは本番、つまり性行為をしたことがありますか? と訊ねています」


 もう一度、今度はかみ砕いて説明をしている。

 ハンターたちは呆気にとられた顔を見合わせるが頭が理解できなかったのか、呆けた顔をこっちに向けた。


「我が教団は清純を尊ぶのですよ。結婚するまでは性行為を一切せずに純潔を守り通す。私はその考えに共感して信者になったぐらいですから!」


 熱く語る仲間から少しずつ離れていく。同類だと思われたくない。


「なので、もう一度お訊きしますね。皆さんは未経験ですか?」


 ギルド内にいるほぼ全員がドン引きしているのに、その空気を物ともせず平然と質問を繰り返す、面の皮の厚さが怖い。


「はっ、もうボケてんのかよ、じじい。童貞なわけがねえだろ。ハンターなんて荒事やっている連中で、この年までやったことがないヤツなんて存在しねえよ! なあ、お前ら」

「あ、当たり前でしょ!」

「ばっかじゃねえのか」


 心の底からバカにした対応を目の当たりにして、バージンが大きく息を吐く。


「私は未だに童貞を守っていますよ? これからも、清い体を守り続けます」


 胸を張り堂々と宣言しやがった。


「ぶっ。その年で童貞って!」

「あはははははははは! かわいそうだから、百万で一晩付き合ってあげようか? ぶふっ!」


 腹を抱えて笑い転げるハンターたち。

 すっとカウンターに目を向けると視線を逸らし、唇を噛みしめ肩を震わせながら我慢する受付嬢がいた。

 周囲の反応を見て、寂しそうに頭を左右に振ると大きく息を吸うバージン。


「わかりました。では、汚物共は容赦なくぶっ殺しましょう!」

「まてまてまて! 話し合いはどこ行った!」


 本気でやりかねないのを知っているだけに、慌てて止めに入る。

 笑いじわが深くなった顔が怖いって。前髪で目が見えないが、たぶんその目は笑っていない。


「いいですか、私は結婚した夫婦の性行為は認めています。子孫繁栄には必要な行為ですから。生涯、一緒に歩み続けるという誓いが結婚ですので」


 離婚する人もいるけどな。と思ったが、ややこしくなるのが目に見えているので口には出さない。


「ですが、ただの快楽のために行うのは過ちなのです! 生涯の伴侶はたった一人であり、その人のためだけに行う。それが正しき人の道! あっ、接吻までならギリギリで認めます」


 腕を振り回しながら熱弁をふるうので、その手に握られた大男の体が激しく上下に振られ、憐れにも白目を剥いて口から泡を噴いている。


「てめえ、仲間を離しやがれ!」

「この童貞じじい!」


 ああ見えて仲間思いなのか、取り囲んでいた連中が一気に襲いかかってくる。

 このままバージンに任せても大丈夫なのだが、今は別の意味で危険だ。怒りにまかせて相手を再起不能にしかねない。

 こいつにとって童貞と処女――清純には大きな意味合いがある。故に、それを軽んじている連中には容赦する必要がない、と本気で考えている。

 ギルド内で同業者を再起不能、下手したら殺しになると大事になっちまう。となると、取るべき行動は一つ。

 俺はバージンと連中の間に滑り込むと、低く構えた。

 



夕方にも更新しますのでチェックお忘れなく!

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― 新着の感想 ―
[一言] バージンにこだわるバージン
[良い点] チェリーという名前だと、まるでどこかの破戒僧みたいになっちゃいますので バージンのほうが良いですねw
[一言] マッチョ僧侶、男(爺)なのに名前が“バージン”たぁこれ如何に?wwwwwwwwww ……えっ、もしかしてソッチ方面にご興味がおありで?(動揺) と思って単語を調べてみたら成る程浅学…
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