プロローグ
「い、命ばかりはお助けを!」
地面に額を擦りつけ懇願する身なりのいい肥えた男。
周辺には倒された護衛のハンターが転がり、そいつらを縛り上げるモンスターがいる。
今、男を見下ろし不遜な笑みを浮かべているのは人間ではない。
「命まで取る気はねえ。貴様らは捕まえて我らの根城へ連れて行く」
その言葉を聞いて男が驚愕したのは、その内容が半分。そして、もう一つは。
「人間の言葉を流暢に話している……」
知能がそれ程高くないと評価されているモンスターが片言ではなく、やけに良い声で滑舌よく話したことに驚きを隠せないでいた。
「人の言葉を学んだのでな。我々をそこら辺の豚人族と一緒にしていると痛い目を見るぞ。……おっと、痛い目を見たところか」
大きな豚の鼻をこすり、自慢気に胸を張る。
人間を襲ったのは肥え太った人の体に、豚と人を掛け合わせた頭が乗っかっているモンスター、豚人族。凶暴で鈍重。他のモンスターに比べれば頭はいい方だが、人の言葉を話すにしても片言が限界で知能も人間の幼児程度――と言われていた。
しかし、男の目の前にいる者はすべてが違った。
確かに耳や鼻の特徴は豚なのだが、顔も体つきもやけにスッキリしている。人間の美意識でも醜いとは思えず、鼻と耳がなければ美形寄りの顔だ。
他の者たちも引き締まった体をしていて、人間のように服をしっかりと着込んでいる。
「リーダー、やはりこいつ奴隷商人のようですぜ」
荷台に掛けられていた大きな布を外すと、無数の人間が鉄製の檻の中で身を寄せ合い怯えている。
「やっぱり、そうか。同族の仲間を売るとはな。人間ってのはつくづく強欲で罪深い存在だ」
一番体格のいいリーダー格に説明するのは、眼鏡を掛けた豚人族。
話を聞いて大きなため息を吐くと、身なりのいい男――奴隷商人を睥睨する。
モンスターに見下された奴隷商人は身を縮こませていた。
「それも、ガキばっかかよ」
「リーダーどうします?」
「そうだな」
顎に手を当て考え込みながら、檻の中をじっと見つめる。
「連れて行くぞ。俺の野望のために人間が必要だからな。あの、白銀の翼に後悔させるためには! グハハハハハハハハッ!」
雄叫びを上げるように大笑いする豚人族たち。
奴隷の少年少女はこれからの人生が更に壮絶なものになることを予期し、絶望に身を震わせるしかできないでいた。




