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拝啓、愛しの男装令嬢〜音楽少年の残念な恋愛奮闘記〜  作者: らめんま。
一章 とある少年の一目惚れ
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5 婚姻の条件と青薔薇の手紙

アキドレア家夫妻から見たローゼブル家の話。

 茶会の後、1週間が経ったある日の事。


 アキドレア辺境伯家に一通の手紙というには大きい、書類封筒のようなものが送られてきた。


「ローゼブル侯爵家からです」と渡されたそれは確かに青い薔薇の蝋印が押されたもので。

「ん〜?なんだろ、カロリーバーに関することかな?」とアリアは首を傾げた。


 ローゼブル侯爵家は、最近何かと懇意にして頂いている家だ。

 ローゼブル家の長男とその婚約者であるダンデリオン伯爵令嬢考案のカロリーバーの流通に始まり、先日のお茶会以来うちの娘とあちらの次男殿がなんだかとってもいい感じである。

 目の前で娘が向こうのご子息に抱き着いた瞬間を見てしまってからはその日一日にやにやが止まらなかった。向こうも満更ではない様子だった、というか完全にクラリスに惚れていた。青春だなぁと思う。クラリスは無自覚なのか友達だと言っていたが、そのうち頃合を見て縁談を持ち掛けてみてもいいかもしれない。

 幸いな事にこの国は今平和で政略結婚をしなければならない程困っている家も無い。貴族間の恋愛結婚も多く、アリアも一応恋愛結婚をした、と自分では思っている。

 ……相手を落とすのが結構大変だった記憶はあるが。


 恋愛結婚は大いに結構。しかし我がアキドレア家には婚姻にかけてはことさらに大きな壁がある。

 まず最初に、立地がそもそも最悪な事。

 辺り一帯が広大な更地で小さな村さえ無い。戦ですぐ荒れてしまい固くなった地面は作物が育たず、一般人の生活が困難だからだ。

 故に覚悟の足りない騎士は大抵ここで音を上げる。娯楽などほぼないと言っても過言ではない。婿になる人は実家が遠いと、帰るにも交通手段や移動時の食料や宿泊費などが掛かるので相当な金持ちでないと駄目だ。

 しかし相手は侯爵家。その点では心配要らなさそうだ。


 そして次に、昔からの風習で女しか当主になれないということ。

 クラリスは一人娘なので他家に嫁ぐ訳にはいかず、どうしても婿をとる必要がある。故に長男が相手だと結婚が難しい。しかしそれも向こうは次男なのでクリア済。

 なんと驚くべき事にここまでの結婚相手としての条件はほぼクリアしている。


 しかし重要なのは最後だ。彼は恐らく自分にとってかなり大きな選択を迫られる。

 その条件とは……。


「まあ今からそんなこと考えたって仕方ないんだけどね」


 気が早いにも程がある。何しろ2人はこの間再会したばかりなのだ。大人が色々と先の事を考えても仕方がない。その時が来たら考えよう。


 随分と長く考え込んでしまったと自分に呆れ、さて中身は何かなと封を開ける。


 アリアは腹を抱えて笑った。



 *.。.:*・゜*.:*・゜*.。.:*・゜*.:*・゜



「あははははは!!!!あの子ほんと面白い!!!いきなり婚約届送って来たよ見てよこれ!!!」

「ん?」


 部屋に来てからずっと笑いっぱなしの妻、アリアに紅茶を注ぎ、夫ガイオスはコトリと妻の前にあるテーブルにカップを置いた。


 先程封筒を手にした妻が凄い勢いで部屋に飛び込んで来たから一時は何事かと思ったが、アリアは腹を抱えてヒィヒィ言いながら地べたを転げ回るんじゃないかというほど笑っていた。アリアの様子からしてどうやら緊急の用事ではなさそうだと目を通していた書類を置き、とりあえず笑い袋になっている妻をソファに座らせてガイオスは湯を沸かすことにした。


 笑い上戸の妻がやっと話せる状態になってから話を聞いてみると、先週のお茶会で出会ったというローゼブル侯爵様のご子息の話が出てきた。

 ローゼブル侯爵家の噂は以前からよく耳にしていたが、最近は騎士団にカロリーバーを流通させていただくようになってよく交流している。

 あそこの家はかなり多彩な事業をしているが、たしかアリアが言っているご子息の弟君の方はクラリスと同い年という若さながらピアノ演奏に定評があり、作詞作曲も手がけるかなり実力のある音楽家ではなかっただろうか。


 妻曰く、そんな侯爵家のご子息が茶会でうちの一人娘のクラリスに恋をした、と。

 なんでも2人は幼い頃に出会っており、お互いの性別を勘違いしたまま友達になったらしい。

 クラリスはまだ幼馴染の『ルーちゃん』だと思って無自覚にじゃれついていたが向こうはバチバチにクラリスを女の子として意識していたと。


「あーもう君にも会わせてあげたかったほんと面白いあの子最高」


「お茶会参加出来たらよかったのにね」と目の端の涙を拭うアリアに「そうだね。僕は領地を離れる訳にはいかなかったから、行けなくて残念だよ」とガイオスが至極落ち着いた声の調子でカップに口を付ける。

 ガイオスの大きな体躯のせいでカップがとても小さく見えるとアリアはまた笑った。


「でもさ、そんなおぼっちゃまがうちに来て耐えられると思う?ペンより重い物持てないくらい細かったよあの子」

「うーん、難しいところだね」

「どうしよっか」

「…………」


 暫しの沈黙。ガイオスがカップにお代わりを注ぐ音だけが響き、アリアはぼうっと天井を眺める。

 そしてポットを置いたガイオスは言った。


「分からないなら試しにうちに呼んでみればいいんじゃない?それで音を上げるようなら諦めて貰うしかないと思うよ」

「それだ」

「アリアさん、人に指ささないでね」


「とりあえずうちを見てもらわないと話が進まないや」と話を聞いているのか居ないのか、やっとカップを手に取ったアリアは冷めた中身をぐっと飲み干した。


「ご馳走様。ローゼブル侯爵家に出す手紙書いてくるよ」


「お邪魔しました!お仕事頑張って!」と部屋を出て行った妻。

 やれやれとカップを片付けようと目を移すとソファにローゼブル家から届いた封筒が置きっぱなしになっていた。

 そそっかしいなぁと苦笑いしつつ拾い上げようとし、まだ何やら中身が入っていることに気付く。

 手を入れて出してみると綺麗な白地に淡い青の薔薇の装飾が施された手紙が出て来た。

 どうやらアリアは気付かなかったようだ。


「クラリス・アキドレア様へ……綺麗だけど子どもの字だな」


 まだ婚約が確定した訳ではないからクラリスには読ませられない。これは預かっておこうと書類封筒の中に仕舞おうとしてパキンと蝋印が外れた。


「あっ」


 しまった、と顔を青くするが蝋印は一度開けたらもう元には戻らない。

 中の手紙が封筒の隙間からちらりと見える。


「……これは読んでもいいのだろうか」


 悪いと思いつつも手紙を開くと、まだ若くみずみずしい薔薇の香りがふわりと香った。

 驚きつつも手紙に目を通し、ガイオスはくすりと笑う。


「これはこれは、まるで絵本に出てくる王子様のようだ」



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



『拝啓、親愛なるクラリス様


 幼い頃一緒に作ったともだちの歌を覚えてくれていてありがとう、心から嬉しく思いました

 次はどうか愛の歌を作り、共に歌っては頂けませんか


 はちみつのように甘い色の瞳と、はにかんだ笑顔がどんな可憐な花よりも愛らしい貴女に僕は心を奪われてしまいました

 ローゼブル家の青い薔薇に誓って貴女を幸せにすると約束いたします


 愛をこめて


 ルート・ローゼブルより』


余談ですが

ローゼブル→ブルーローズ

アキドレア→アキレア

から取っています。


婚約届を書いてと強請る前にちゃっかり手紙を書いていたルート。ああでもないこうでもないなどと悩まずに勢いで書きました。一発勝負です。


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