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拝啓、愛しの男装令嬢〜音楽少年の残念な恋愛奮闘記〜  作者: らめんま。
二章 騎士団生活の始まり
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17 同室三人衆と休日の過ごし方

午前と午後。

 

「暇だね〜。毎度の事ながら休日って言っても周りなーんにもないからする事ないよね」

「金があるやつは馬車使って街に行ってるだろ……」

「俺たちはそんなお金なんて持ってませーん。俺は2ヶ月前に入ったから1ヶ月分のお給金出たけど、2人は入ったばっかりだからまだお給金出てないでしょ」

「来週出る……」

「だよね〜。……で、ルートくんはさっきから何してるの?」

「見たら分かるだろ……」


「オレを背中に乗せて腕立て伏せしてるんだよ……」とジョーカーを引いて舌打ちをしたグレンさんにノアさんが「見たら分かるから尚更信じられないんだよ」と溜め息を零した。


「98……99……100……終わった!!!どは〜〜〜」

「おい、急に崩れるんじゃねぇ……手札が見えるだろうが」

「人の上に乗って平然と俺とトランプしてるグレンくんもグレンくんなんだけどね?」


 街に行けるような給金もまだ出ていない僕達は日がな一日部屋で過ごしている。騎士団の娯楽と言ったら夜に酒場と化す食堂で酒を飲むか寝るかしかなく、まだ未成年の僕達には酒は飲めず、かと言って夜寝られなくなるからあまり昼寝もできない。

 グレンさんとノアさんは僕が持って来たトランプで遊び、

 持ち主の僕は1人、休日の朝から今日も元気に己の体を苛めぬいていた。

 重石替わりにグレンさんを背中に乗せているのでめちゃくちゃ鍛えられている気がする。ノアさんに呆れを通り越して最早感心しているような視線を投げ掛けられたので、僕はにっこりスマイルしておいた。


「ルートくんさぁ、せっかくの休日なんだし休んだら?ただでさえ毎日あんなにきっつい訓練してるのにさ〜」

「すみません、でも身体動かしてたら何も考えずに済むので……」

「ふ〜ん……俺達は別に構わないんだけどさ〜……」


「まだ気にしてるの?」というノアさんの言葉に僕は訓練初日にクラリスさんにしてしまった己の行動を思い出す。

 大好きと言われ、顔にまだ発達途中の柔らかい胸を押し付けられて理性が切れて押し倒すという、愚行を。


「僕は煩悩を捨てないといけないんです……!」

「出家でもするつもりなの?」


 ぐっと拳を握り締め下唇を噛みしめるとノアさんに冷静に突っ込まれた。

 グレンさんは興味が無いのか、会話には混ざらず机の上にトランプを立てて遊んでいる。


 出家。今既に娯楽などのある俗世から距離を置き、朝から鍛錬に励むという出家生活を送っているようなものではあるが。

 あの日僕は煩悩を捨て、これから1年間のお試し期間を無事終えるまでクラリスさんには指一本触れないと己に誓ったのだ。決意を込めてキリッとした表情を作る。


 グレンさんが振り向いた。


「何変な顔してるんだ」


 僕は落ち込んだ。


「そんなに気にする必要ないと思うけどな〜。相手も別に嫌がってなかったんでしょ?」

「僕ね、気持ち悪いんですよ。顔が」

「ちょっと予想外の返答に頭が追い付かないんだけど聞いていい?女の子が憧れる、絵本の中の薔薇を背負った儚げキラキラ王子様みたいな顔して何言ってんの?ほらグレンくん謝りなよ気にしちゃってんじゃん」

「ローゼブル家の男なので青薔薇は背負ってますね」

「そうじゃなくて」


 はぁとノアさんが大きな溜め息を零す。空気が悪くなったので僕はガラガラと窓を開けた。風が吹いてグレンさんが並べていたトランプが倒れ、凄い形相で睨みつけられた。僕は窓を閉めた。


「ルートくんはかっこいいよ。王子様みたいな顔してるって」

「ふん、あの我儘放題のクソ王子と並べられるなんてルートも災難だな」

「今アルバート殿下のことは言ってないでしょ」

「ああ、誰もアルバートとは言ってないが?」

「くっそグレンくんに嵌められた!」

「やーいノアが王族侮辱した」

「そのいつの間にか1人で作り上げたトランプピラミッド解体工事してやるー!」

「やめろ触るな」

「うるさいなぁ……」

 


 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦


「暇だねぇ……もう1日終わっちゃうよ。……で、」

「喉乾いた。水」

「はいはいただいま」

「おい、音楽」

「何がいいですか?」

「箱庭の楽園。ギターで」

「は〜い。じゃあ歌いま〜す」


 アコースティックギターを構え、ピックを手にする。ゆっくりと息を吐き出し、すっと息を吸った瞬間。


「ちょっとストップしてもらって大丈夫?」

「はい?」

「ルートくんはそれでいいの?」


 ノアさんにストップを掛けられ、僕は振り上げた手を下ろしてぱちくりと目を瞬かせた。


「何がですか?」

「いやいやグレンくんに命令されて魔法で水出したり歌ったりしてルートくん召使いみたいになってるじゃん。どう考えてもおかしいでしょ」

「おい、邪魔すんじゃねぇ……オレのウォーターサーバーと音楽プレーヤーを返せ」

「グレンくんもグレンくんだよ!一応この子貴族のお坊っちゃんなんだけど分かってるの?ルートくんが普通の子だったらグレンくんとっくの昔にボコボコにされてるよ?」

「心外ですね、人を普通じゃないみたいな言い方して」

「だって……」


「そろそろ心配になるでしょ〜……」というノアさんに僕は「ふむ」と顎に手をあてた。


 街に行けるような給金もまだ出ていない僕達は日がな一日部屋でごろごろしながら過ごしている。騎士団の娯楽と言ったら夜に酒場と化す食堂で酒を飲むか寝るかしかなく、まだ未成年の僕達には酒は飲めず、かと言って夜寝られなくなるからあまり昼寝もできない。

 そんなわけでノアさんは読書、グレンさんはお絵描き、僕は作詞作曲と筋トレを繰り返す生活を送っている。


「僕はいい気分転換になるから全然問題ないですよ」

「ほらこいつもこう言ってる」

「え〜……ルートくん心広いね〜」

「まあ作詞作曲作業が佳境に入ってる時に邪魔されたらブチ切れますけど」

「そのルートくんの優しいのか優しくないのか分かんないとこ、俺凄く怖い」


 失敬な。僕ほど心優しい人間なんてそうそう居ないというのに。

 僕だって、グランドピアノは流石に持って行けないけどこれくらいなら持って行っても良いだろ、と家から持って来ていたアコースティックギターがこんなに役に立つとは思わなかったのだ。寧ろギターを弾く機会を増やしてくれたグレンさんに感謝こそすれボコボコにするなんて有り得ないと言っていいだろう。

 僕はアコースティックギターを構え直し、今度こそ歌を歌い始めた。


「もうちょっと音量声量抑えろ。絵に集中出来ない」

「はいはいバラードっぽくですね」

「おい水」

「はいはい。あっ、良い詩が思い浮かんだ。今から邪魔しないで下さいね」

「おい、水はまだか……早くしろよ」

「ちょ、ちょっとグレンくん……!」

「グレンさん『箱庭の楽園』じゃなくて僕のおすすめの曲演奏してもいいですか」

「なんでもいいけど早くしろ……」


 僕はグレンさんに水をぶっかけ、ギターを掻き鳴らして大声で歌った。



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



「あーあ、言わんこっちゃない」

「えっくし!……死ぬかと思った……」

「グレンくんってほんと学習しないよね〜。ていうかルートくん今の曲何?めちゃくちゃリズム取りにくいのにサビの部分が印象的過ぎて頭の中で繰り返し流れるのに上手くリズムが取れなくてもどかしいんだけど」

「魔物っていう曲です!僕が作ったんですけど、6拍子と5拍子の転調を激しくして安定感をなくし、魔物の恐ろしさを表現した評論家も唸る一曲ですよふふふ」

「あははっ、そっか〜俺はルートくんの方が魔物より怖〜い」

「おい……」


 びっしょびしょになったグレンさんが恨めしそうに睨み付けてきた。僕は肩を竦めた。


「オレを殺す気か……」

「だって僕言ったじゃないですか、作詞作曲の邪魔されたら怒りますって」

「だからといってあれはないだろ……死にかけたぞオレは……」

「えー、でも僕だって音楽に命かけてるんで……」


 音楽家から音楽を取り上げたらブチ切れるに決まっている。そんな分かり切ったことを今更訴えられても困る。


「そんなに水が欲しいなら自分で飲めばいいんですよ」

「嫌だ……オレはオマエが出す水がいい」

「そう言って貰えるのは嬉しいんですけどねぇ。あっ!ストロー使って飲むっていうのはどうですか?こう、長い管で繋いでおいて」

「いい考えだな……ククク」


 グレンさんが不気味に笑う。僕は大きな鍋を持って来てそこに水を溜めて蓋を閉めた。長いストローは中が空洞になっている細いワイヤーで代用出来そうだ。鍋蓋の空気穴にズボッと挿す。


「出来ました!どうですかこれ!」

「おお……オマエ天才だな……」

「そうでしょうそうでしょう!さあこれで思う存分水が飲めますよ!」

「ククク……」

「2人とも水くらいで大袈裟じゃない……?聞こえてる?」

「おお、飲める……!水が飲めるぞ……」

「よかったですね、グレンさん!」


 グレンさんはちゅーちゅーと水を吸いながら寝そべり、ご機嫌で絵を描き出した。


「……それ、何描いてるんですか?」


 気になってひょいと覗き込む。ガリガリと引っ掻くように描いているそれは、


「どこからどう見てもお前だろう」

「えっこれ僕!?」

「人殺した?ルートくん凄い顔してるんだけど」

「さっきの曲演奏してた時のお前だ」

「あー……さっきのかー……」

「えっ何僕そんな顔してギター掻き鳴らしてたんですか!?怖っ!」

「言ったじゃん魔物より怖いって」

「僕のことからかってるのかと」

「ガチだよ」

「ガチでしたか」

「クラリスも裸足で逃げ出すな……」

「なんですって!?」


 僕はグレンさんの絵をひったくってまじまじと見つめた。見れば見るほどおぞましい絵だ。背景が黒で塗りつぶされてる事もあってとんでもなく禍々しい。


「だ、だめだ……クラリスさんにこんな恐ろしいものを見せるなんて……」

「演奏する曲に表情もつられるタイプなんだろうね」

「表現力はあって良いじゃねぇか」

「うがぁ!楽しい曲!楽しい曲が演奏したい!今すぐに!」

「そろそろ晩飯だろ。食堂行って皆の前で演奏したらどうだ」

「たしかに!みんな暇してるだろうし喜ぶだろうね」

「なるほど食堂か……。よっしゃあ!やってやりますよ!」

「うわ速!?待ってよルートくん!」

「あいつ……行動力えげつないな……」


 ギターと、ついでにバイオリンを手に廊下を駆け出す。

 バタバタと追い掛けて来る足音が2つ。


 なんだか楽しい演奏会になりそうだ。



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